近畿大学医学部・病院50周年史
Survey or Interview村木 正人

人と人の心のつながりを大事にし
「断らない病院」を目指す

Cherishing human connections
— committed to being a hospital that welcomes everyone.
MURAKI Masato

Director of Nara Hospital

  1. 近畿大学奈良病院 病院長としてのご就任はいつでしたか?また、そのときに掲げられた理念やビジョンを教えてください。

    R3(2021)年4月〜 近畿大学奈良病院 病院長に就任しています。

    【理念・ビジョン】
    職員一同とともに近畿大学奈良病院を発展させなければならないのが私の使命です。当院の理念にもあるように、『患者本位の開かれた病院として安全で質の高い先進医療を提供する』ことを心懸けています。大学病院としての臨床研究、先進医療の提供、人に愛される医療人の教育・育成の貢献です。特に人と人(患者−職員、職員間)の心のつながりを大事にしながら、『断らない病院』を目指し、集患に努めながら地域医療に貢献していくことです。そして透明性の高い医療と情報を提供しています。我々は常に先を目指して全員がチーム一丸となって未来の医療を切り拓き、最良な医療を患者様に提供して参ります。何よりも近大魂をみせたいと思っています。
  2. 病院長として最も注力された取り組み(組織改革、診療体制強化、患者サービスの向上など)についてご紹介ください。

    当院は、奈良県北西部の西和医療圏の中核病院として地域医療に貢献しています。病院長就任以降、先ず行ったことは、患者さんの入退院支援をより効率的に行えるよう、PFM(patient flow management)の導入強化でした。2022年4月には、地域医療の中核病院としての役割を担う「地域医療支援病院」として承認を受けました。また、2024年度から始まった『医師の働き方改革』に向けて、職員の就業管理・勤怠管理を行いました。時間外労働の上限規制などが義務化され、従来のような長時間労働は法令違反となります。それまで医師の長時間労働や過重労働は半ば当たり前となっていましたが、改革以降は基本960時間/年間以内の超過勤務(一部は年間1860時間以内)になるよう宿日直の改革等を行いました。さらに同年、外部の評価機構である日本医療評価機構の病院機能評価を初めて受審し、再審査なく合格しています。審査員からも、高評価を得ました。
    一方で、1999年の開院以降、四半世紀を迎え、所々で不具合が見つかってきました。例えば、屋上のほとんどの防水シートがめくれ上がっていたため雨漏りがあり、修繕に着手しました。手数料の加減で導入されてこなかったクレジットカード払い(カード決済)や、今どき当たり前のWiFiなど、患者サービスについても遅ればせながら導入しました。
  3. 地域医療との連携について、特に重視された点や成果があれば教えてください。

    当院は2004年の地域災害拠点病院、2008年の地域がん診療連携拠点病院が認可されていましたが、新たに2024年4月に地域医療の中核病院としての役割を担う「地域医療支援病院」として認可されました。奈良県における地域医療支援病院の承認は6施設目であり、公立・公的医療機関以外では奈良県内で初めてです。医療施設機能の体系化として、患者に身近な地域で医療が提供されることが望ましいという観点から、紹介患者に対する医療提供、医療機器等の共同利用の実施等を通じて、第一線の地域医療を担うかかりつけ医、かかりつけ歯科医等を支援する能力を備え、地域医療の確保を図る病院として相応しい構造設備等を有するものについて、都道府県知事が個別に承認している制度です。
    役割として、
    1. 紹介患者に対する医療の提供(かかりつけ医等への患者の逆紹介も含む)
    2. 医療機器の共同利用の実施
    3. 救急医療の提供
    4. 地域の医療従事者に対する研修の実施
    であります。
    今後も、一層の地域医療の発展にも貢献していく予定です。
  4. COVID-19パンデミック期における病院運営のご経験と、そこから得た教訓についてお聞かせください。

    2020年の当院職員(最終的には職員3名と患者1名)のCovid-19感染は、全国版のTVニュース等で報道されました。その後、全国的にCovid-19が蔓延していったものの、当初は先駆けて医療機関職員の感染であったことで話題になりました。院内感染対策の強化、感染防御をより一層行っていたものの、院内感染は断続的に続き、職員の精神的ダメージは相当なものでした。Covid-19流行がやや下火になり、多少の規制緩和があるものの、病院内では尚もCovid-19感染が散発性に発生しており、同様の感染対策が現在も続いています。Covid-19パンデミックの経験を生かし、今後新たな新興感染症出現時の対策に向けて、適切かつ速やかな感染症対策強化ができるものと思っています。当院はこのような新興感染症が発生した有事の際に、県内で最初に対応できる第一種協定指定医療機関となっています。
  5. 「信頼される病院づくり」のために、職員・スタッフとのコミュニケーションや組織文化で心がけたことはありますか?

    病院機能評価は病院の質改善活動を支援するツールです。我が国の病院を対象に、組織全体の運営管理および提供される医療について、中立的、科学的・専門的な見地から第3者機構によって評価されます。評価を受ける事により、当院の理念達成や地域に根ざし、安全・安心、信頼と納得の得られる質の高い医療サービスを効率的に提供するために、改善活動を推進します。質の高い医療を効率的に提供するためには、病院の自助努力が最も重要ですが、更に効果的な取り組みとするためには、第三者による評価が有用となります。この度の病院機能評価受審で、より安全・安心、信頼と納得の得られる質の高い医療サービスを提供できたと思っています。この経験から、これまで病院機能評価準備委員会として活動してきましたが、これまで以上に良い病院に進化させようと、病院機能向上委員会へと発展的な委員会を発足させました。保健所の立入調査でも、感染・安全対策は奈良県でも群をぬいているとお褒めの言葉を頂いています。
  6. 教育・研究・診療の三本柱のうち、近畿大学奈良病院として特に発展させたい分野はどれでしたか?その理由と取り組みも教えてください。

    第一は臨床(診療)分野です。今後ますますの高齢化社会となり、骨粗鬆症・骨折、心不全、誤嚥性疾患などの高齢者特有の3大疾病が増加することは間違いないでしょう。そして、高齢者癌。高齢になればなるほど癌は発生し易く、高齢者に相応しい医療提供を行っていかなければなりません。超高齢者では手術困難となり、2025年7月から新たな放射線治療装置(リニアック)が導入されました。癌の呼吸移動に対応した照射、6軸の治療台制御等により、より正常部位への被曝軽減が可能となり、体表面センサーによる照射の位置決め等、高齢者に限らず、副作用が少なくなり、複数部位への照射が可能となっています。
    これらの診療はもちろんのこと、当院では『患者様の声』すなわち、患者様からの苦情、要望、賞賛など無記名での投書を頂戴し、その声を聞きながら、病院としての更なる発展につなげていく事もしています。接遇も重要な要素であり、人に愛され、信頼され、尊敬される医療人を育成させる取り組みも行っています。
  7. 奈良県内における近畿大学奈良病院の役割と、今後の医療的使命についてお考えをお聞かせください。

    奈良県内の大学病院は、奈良県立医科大学と当院の2施設です。大学病院としての高度医療の提供のみならず優秀な医療人の育成が必要です。地域がん診療連携拠点病院として、悪性疾患患者様へ多職種(複数科の医師、看護師のみならず薬剤師、技師、事務など)による高度医療のみならず、スピリチュアルへの対応、社会復帰に務めます。これ以外にも、様々な分野で、優れた医療人による高水準の医療を提供する事が使命です。
    また、地域災害拠点病院として、有事の際には市民を守る施設となるため、定期的な予行演習を行っています。最近では、市などの公共団体とも合同で「大地震を想定したトリアージ訓練」を行い、NHKニュースでも取り上げられています。
  8. ご自身のこれまでの医師としてのご経験が、病院経営にどのように活きたとお感じですか?

    必死にもがいていただけで、私個人の経験がどこまで病院経営に活かせたのかは良く分かりません。ただ、対患者のみならず医師、看護師、薬剤師、技士、事務職員など人と人との繋がりは、足を運びながら、大切にしてきたように思っています。職員約1000人の大規模医療機関においても人−人関係が、人で構成される社会(病院)の中で円滑な仕事の遂行を可能にするのだと思って仕事に従事しています。自身でできることはごく僅かなので、いかに人に助けてもらえるのかが最重要課題として、今後も経営を営みたいです。