近畿大学医学部・病院50周年史
Survey or Interview稲瀨 正彦

医学の基盤、生理学を通し
高次脳機能のシステムを解明

From the foundations of medicine and physiology
— we unravel the systems of higher brain functions.
INASE Masahiko

Professor Emeritus

  1. 近畿大学医学部に着任された1999年当時の研究・教育環境について、どのような印象を持たれましたか?

    研究に関しては、着任前に行われてきた研究と私が続けていきたい実験研究の内容が大きく異なり、いちから実験環境を整備しないといけない状況でした。ただ、実験室のスペースはある程度確保されていましたし、共同研究施設の分析機器や実験動物施設は充実していると感じました。教室の実験機器配備に関してのサポートもあり、新たな実験研究を立ち上げるには、恵まれた環境だと思いました。教育に関しては、テュートリアル教育を取り入れ始めたところで、先生方の熱意と、また混乱を感じました。私自身も慣れていませんでしたので、右往左往しながら取り組み始めました。
  2. 生理学教室の教授として、特に力を入れてきた教育やカリキュラム改革について教えてください。

    教育については、テュートリアル教育を取り入れながら、学生に神経生理学領域の基本を身につけながら、脳科学の面白さを感じてもらいたい、という考えで進めました。基本を理解した上で、考える力を身につけてほしい、という思いでしたが、十分には達成できなかったと思います。また試験は、ある程度勉強しなければ合格できない、というレベルを心がけました。その結果、毎回ある程度の不合格者が出てしまいました。
  3. 脳科学研究において、近畿大学在職中に達成できた最大の成果は何ですか?

    時間認知に関しては、時間情報が前頭連合野に表現されていること、さらに視覚と聴覚の時間情報表現が一部共有されていることなどを明らかにしました。また霊長類の二足歩行に、大脳皮質運動野が主体的に関わることを明らかにしました。
  4. 高次脳の時間認知や二足歩行の脳制御に関する研究で、特に記憶に残るエピソードや発見はありますか?

    どちらの実験研究も、課題を遂行できるように動物をトレーニングするところから始まります。研究の進歩とともに課題は難しくなり、トレーニングも困難になって、時には1年間以上の訓練を必要としました。そんな訓練を経て課題を遂行できるようになった動物から、神経細胞活動を記録でき、課題関連活動をスピーカーからの音として聞くことができた時は、嬉しいものがありました。
  5. 在職中に行われた学内外の共同研究や国際的な学会活動について、印象的なものを挙げてください。

    国内では、目標達成型脳研究や新学術領域研究などの大型共同研究に、私自身、あるいは教室員が参加できたことはよかったです。研究費のサポートを受けるとともに、研究報告会等で研究内容に関して多くの示唆を受けました。国際的には、パリ大学のMaier教授が数ヶ月間教室に滞在し、一緒に実験を進めたことが印象に残っています。
  6. 教授として学生や若手研究者の育成に携わる中で、特に印象的な学生やエピソードがあれば教えてください。

    教育では、主に2年生の学生を対象としてました。熱心に生理学に取り組んで、難しい試験ながらほぼ満点を確保する学生も、複数回の試験でやっと合格する学生がいたことも、よく覚えています。一緒に脳科学の実験研究に取り組んだ大学院生は2人でしたが、2人とも修了後、海外留学して研究を続けました。
  7. 医学教育における生理学の位置づけや重要性について、今後の展望をお聞かせください。

    医学がますます多様化、細分化し、発展していく中で、医学の基盤となる人体の働く仕組みの理解は不可欠であり、ますます重要となると考えます。考える医師となるために、生理学教育は欠かせないと考えます。
  8. 新病院、医学部新キャンパスへの期待を教えてください。

    新しいキャンパスということで、多くの学生が注目してくれることを期待します。ただ、新しい試みもありますが、全体的にスペースが狭くなっているようです。急速に進歩し発展しつつある新しいシステムを導入していくことが必要だと感じます。
  9. 近畿大学医学部での在職期間を振り返って、一番の思い出や誇りに思う出来事は何ですか?

    25年間、振り返るとあっという間でした。国際的に通用する新しい実験環境を整え、トラブルなく研究と教育を推進させることができたのは誇りです。そして、私の後任を含めて、教室出身者が全国で活躍しているのは嬉しいことです。
  10. 近畿大学医学部50周年に寄せて、後進や大学へのメッセージをお願いします。

    近畿大学医学部、新しいことにチャレンジしていく気風があります。チャレンジを続けていってください。