近畿大学 理工学部・大学院 総合理工学研究科

【機械工学科】宇宙ならではの高真空を利用して月面の鉱物から酸素を採り出す新たな方法を開発

2026.10.28

  • 研究

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)と大阪大学月面都市開発研究センター(大阪府茨木市)の共同研究グループは、近い将来の月面開拓に欠かせない、月面で大気を創り出す方法を新たに開発しました。月面には、月レゴリスと呼ばれる砂状の粒子が広く分布しており、月レゴリスは地球上の鉱物と似た酸化物から構成されるために、酸素や金属の供給源として注目されます。
本研究では、宇宙や月面の高真空(およそ10-15気圧)を利用して、鉱物を真空中で加熱して還元する真空還元法を提案し、月レゴリスに含まれる鉄かんらん石から酸素ガス(O2)の発生を実証しました。同手法は、従来の方法と比べて、鉱物の溶融を必要とせず、かつ高速に酸素を製造できる可能性があります。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)9月15日(火)に、Springer Nature社が発行する、国際的に有名な学術雑誌「Scientific Reports(サイエンティフィク・レポート)」に掲載されました。

【本件のポイント】
● 宇宙や月面の高真空を利用すれば、月面の鉱物(レゴリス)を加熱するのみで、酸素を抽出できる
● 従来方法と異なり、レゴリスの溶融を必要とせず、固体の状態のままで酸素を採り出せる
● 本開発手法は、従来の方法よりも高速に酸素を採りだせる可能性を持つ、独創的かつ有用な方法

【本件の背景】
NASAのアルテミス計画のように、近い将来に人類が月面へ進出し、深宇宙へ向けた拠点として月面基地開発が計画されています。人類が月面で生活するには、まとまった量の酸素や水が必要で、これらを現地で製造する方法を確立する必要があります。米欧では、月レゴリスを1600℃以上で溶融させ、電気分解によって、酸素を採りだす方法などを提案していますが、実用的な酸素製造速度が得られないことや、溶融したレゴリスによる装置の腐食による課題を抱えており、持続的かつ実用的に酸素を製造できる新たな方法が求められています。

【本件の内容】
本研究では、月面の高真空(およそ10-15気圧)を利用して、月面に分布するレゴリスを固体のまま加熱すれば、鉱物の還元によって酸素が自発的に発生する新手法を提案し、熱力学に基づいた酸素発生予測と、モデル鉱物を用いた実証を行いました。特に、酸化鉄を成分に含む鉱物からは、1050℃以上に加熱すれば酸素が発生することを予測しました。また、地上実験では月レゴリスに含まれる鉄かんらん石を真空中で加熱して、四極子質量分析計を用いた計測により、酸素が発生し続けることを実証しました。

【論文掲載】
掲載誌:Scientific Reports(インパクトファクター:4.9@2025)
論文名:Vacuum-induced oxygen extraction from Fe-bearing model minerals: implications for lunar regolith processing
(真空を利用した酸素製造法の開発と、鉄を含むモデル鉱物による実証、月レゴリスへの適用可能性を示唆)
著  者:鈴木賢紀*1,2,佐藤雄二2,森貞好昭2,青木祥宏2,塚本雅裕2,桐原聡秀2,藤井英俊2
所  属:1近畿大学理工学部機械工学科,2大阪大学月面都市開発研究センター
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-70347-2
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-70347-2 

【本件の詳細】
月レゴリスを真空中で加熱する方法としては、太陽光を面積の広いフレネルレンズで集光する、独自の集光技術を提案し、地上実験では集光した太陽光により1500℃までの加熱が可能であることを実証しました。
本手法では、酸素の発生速度はレゴリスの表面積に比例しますが、月面でレゴリスは非常に細かい微粒子で存在するので、広い表面積を維持できれば、従来の方法よりもはるかに速い酸素発生速度が期待できます。

【研究者のコメント】
鈴木 賢紀
所属:理工学部 機械工学科(兼 大阪大学・月面都市開発研究センター)
職位:准教授
学位:博士(工学)
コメント:私は、鉄鋼製錬などの素材製造プロセスを対象とした研究を行っています。この度、地球上での冶金学(メタラジー)の知見を活かし、月面という未踏地域において、月面上の鉱物から酸素を採り出す、従来にない新しい方法を見出しました。実際の月レゴリスからも酸素を採り出せるかどうかの検証はこれからですが、月面都市開発研究センター(大阪大学)と協力して、本手法が日本発のオンリーワン技術となるよう、研究を続けていきたいと思っています。

【用語解説】
※1 月レゴリス:月面上に広く分布する、酸化物の鉱物から成る砂。『月の砂』とも呼ばれる。
※2 真空還元法:月面表面の高真空(およそ10-15気圧)で,酸化物などの鉱物を加熱すると、鉱物が金属と酸素へ自然に還元されることを用いた酸素製造方法。
※3 冶金学:地球上の鉱物を還元して、金属素材を製造する方法を主な対象とする学問。近年では、鉱物だけでなく、使用後の金属スクラップを原料とした金属再生方法も含まれる。

【新聞記事掲載】
2026年10月22日 読売新聞 朝刊一面記事 
「月の砂」から酸素、大阪大学・近畿大学のチームが真空加熱で取り出しに成功...人類の月面生活で「オンリーワン技術に」
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20261021-GYO1T00131/