工学で挑むSDGs

Message VOL.8

パターン投影する
3次元内視鏡で
医療をサポート

コンピュータビジョンの可能性を医療に
展開。
内視鏡による3次元計測が実用化すれば、
人間の目と同じように形をとらえ、
診断技術の向上に期待できます。

工学部 情報学科 大学院システム工学研究科 システム工学専攻 情報コース
教授

古川 亮

Ryo Furukawa

「画像メディアシステム研究室」所属。コンピュータビジョンや深層学習による画像処理技術を研究し、医療現場に貢献できる支援システムなどを開発している。

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
古川 亮 教授

工学部 情報学科 大学院システム工学研究科 システム工学専攻 情報コース
教授

古川 亮

Ryo Furukawa

「画像メディアシステム研究室」所属。コンピュータビジョンや深層学習による画像処理技術を研究し、医療現場に貢献できる支援システムなどを開発している。

既存の技術を未開拓の分野へ応用
AIの精度向上という課題にも
取り組んでいます

私はコンピュータビジョン(CV)という枠組みのなかで研究を行っています。CVとは、その名の通り“コンピュータでものを見る”方法で、カメラで撮影した画像や動画を処理し、必要な情報を取り出す技術です。通常、カメラで撮影すると2次元の画像として記録されますが、対象物は3次元空間にあり立体形状を持っています。CVの分野では、この2次元画像から奥行きなどを求める方法が長く研究されており、近年、さまざまな分野で実用化される状況までになりました。そうなると次は、既存の技術がどこまで使えるのか、通用しないならどのようなソリューションが可能なのかが課題となります。例えば水中などの特殊な環境でも結果を出せるのかといったように、CV研究者は新たな問題に挑戦し続けています。そこで私が関心を持ったのが医療の世界でした。

画像技術

X線やMRIなど画像技術が多く使われている医療分野のなかでも、直接カメラを使う内視鏡に着目。それは、形を撮る技術の応用では未開拓の分野でもありました。

内視鏡は医療現場にとって重要なツールです。人間の目はふたつあることで奥行きを見ていますが、現状の内視鏡も同様、先端に搭載された2つのカメラで3D観察を可能とする方法が多く採用されています。ただ、あまり模様のないところでは人間の目も距離感をなくしてしまうように、内臓は比較的に模様が少ないので、な奥行きを求めることがしばしば困難なのです。そこで、超小型パターン投光器を搭載した内視鏡を開発しました。特殊なパターンを対象に投影し、その画像を撮影・解析するという方法で、ひとつの画像のみで形状を計測できることが可能になります。さらに、複数回の計測結果を合わせることで、広範囲の計測を実現する手法も開発しました。現在、医師が内視鏡の練習に使う豚の胃を使っての計測実験を行っています。

内視鏡に可能なカメラの作製

内視鏡は口やお尻から挿入するため、その先端に付けるカメラは小型である必要があります。寸法の確認など内視鏡に可能なカメラの作製にも苦労しました。

パターン投光器にとって内臓は厳しい環境でもあります。表面の粘液が投光器の先端に付着してしまうと、パターンそのものが出なくなってしまうからです。また、レーザーでパターンを作り出すのですが、内臓の表面は光を透過しやすいため、組織の内部で乱反射して、パターンがぼやけてしまうこともあります。この内視鏡システムでは、深層学習による画像認識の手法が利用されています。そのため、精度を高めるために、学習データの集め方、学習のさせ方などにさまざまな工夫が必要です。

パターン

パターンは格子模様になっていて、一つひとつの区画は少しずつずれています。全体が同じでないから画像処理で場所の特定が可能になり、三角測量を原則に奥行きが求められる仕組みになっています。

AIに学習させるためにCGを使うことがありますが、私たちの研究の場合、学習したCG画像と投光器で撮った画像では、光の乱反射によるぼやけやテカリなどから画像の見た目が異なり、学習に不都合が生じる場合があります。医療分野では、プライバシーなどの問題から実際の画像を集めることも困難です。ただ、ターゲットは明確なので、目的に応じた学習データを作り、ステップアップしていくための研究を学生たちと進めているところです。奥行きを持ったデータは、医療の現場で必ず必要とされるはずであり、いま多くの病院で使われている内視鏡で観察したデータと合わせることで検査の精度もあがるでしょう。さらに、手術ロボットの普及が進めば、その目として役立てられる可能性があります。医療分野を離れてみても、パイプや配管の検査など、狭い場所の撮影ができれば、さまざまな産業での活用が期待されます。

生きることを支える医療という分野で
技術貢献し、
もっと視野を広げていきたい

現段階の目標は、開発した技術が実用化され、検査などに役立てられるようにすることです。また、現在、生体医工学の分野ではMRの技術が注目されています。そうした分野では、医師とエンジニアが協力して、さまざまな技術の開発が進められています。私自身たまたまCVから医療へと視野を広げましたが、SF的だと思っていた手術ロボットが現実になるなど、技術は蓄積され、日々革新を続けています。今後、工学技術と医療技術のコラボレーション、医療技術の前進、さらにそうした技術のよってSDGsの目標達成が進むように、私も模索しながら研究に邁進したいと思います。

古川 亮 教授