工学で挑むSDGs

Message VOL.1

人の幸せは
技術革新の上に
成り立つ

エネルギー問題解決の最たるは
今ある燃料をどう効率よく活用するかです。
グローバルで人の幸せを考えるとき、
熱力学の技術革新が答えを導いてくれます。

工学部 機械工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 機械工学コース
教授

田端 道彦

Michihiko Tabata

「熱工学研究室」所属。より効率的な新方式の内燃機関燃焼の研究を推進。研究対象は幅広く、高次元での燃焼技術の革新を目指している。

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をづくろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
田端 道彦 教授

工学部 機械工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 機械工学コース
教授

田端 道彦

Michihiko Tabata

「熱工学研究室」所属。より効率的な新方式の内燃機関燃焼の研究を推進。研究対象は幅広く、高次元での燃焼技術の革新を目指している。

内燃機関において高い技術を持つ日本
その研究の一端を担い、
さらなる発展を目指したい

私が専門とする熱力学の原理はとてもシンプルで、熱が温度の高いところから低いところに流れる現象を第一法則としています。その間、他のエネルギーへ変換することはできますが、逆を行うにはまた別のエネルギーが必要になるため成立せず(第二法則)、永久機関をつくることは不可能といわれています。宇宙が膨張を続けていると考えられるのは、この熱力学の大法則に従っているのです。そして、社会もまた、この法則に束縛され、越えられないでいます。熱力学とは、なかなか面白い学問だと思い始めたのはそこでした。カギを握るのは、エネルギー変換なのです。社会全般に熱力学が成り立つ今、実情や条件を考慮しながら、いかに効率よく持続可能なエネルギー供給を可能にするか。その技術開発や研究が求められているのです。

エンジン

共同研究したメーカーから、実際のエンジンやエンジン部品の提供を受けるなど、実用性の高い研究を推進。

エネルギーについては、もう少し概略的に考えるべきだと考えています。世界的に見ても、主に電力をまかなっているのは石炭や石油、天然ガスなど化石燃料による火力発電です。しかし、発展途上国に対して、CO2削減のため火力発電を廃止し、クリーンなエネルギーを使いましょうといったところで経済成長は見込めるでしょうか。原子力発電所を設置するとしても、今度は技術が追いつきません。反対に、エネルギー供給の約7割を火力発電に頼る日本ですが、その発電技術はとても高く、CO2の排出量が少ないことで評価されています。つまり、世界全体を見たときにどれだけ排出量を削減できるかが重要であり、それには先進国がリードをとりながら技術を適材適所に普及させ、すべての人が幸せになれるようなエネルギーの活用とGDPの向上を目指すことが大切なのです。

透明エンジン

(左)高圧水素噴流の2次元断面レーザー計測装置を用い、エンジン内部の現象を本質的に理解するための透明エンジン。
(右)水素&バイオガスロータリーエンジンのエンジン内部を計測するための透明エンジン。

工学とは、人が幸せになるための学問です。私の研究でいえば、エネルギーを作り出すまでに排出されるCO2の削減、あるものをどう効率良く使うかという技術開発となります。具体的には、エンジンなど内燃機関の高効率化、水素ロータリーエンジン、バイオガスエンジン、バイオディーゼルエンジンの開発・研究など。例えば、「高効率バイオディーゼル燃焼技術」という研究があります。ガソリン燃料よりも20~25%効率が高いディーゼル燃焼と、バイオ燃料を組み合わせた技術で、ゼロCO2のエネルギー変換を目標としています。バイオ燃料は、二酸化炭素を吸収して成長する植物を原料としているため、二酸化炭素排出量がゼロとカウントされ(カーボンニュートラル)、クリーンな燃料として今後の進展に期待が高まっているものです。

燃料性状の影響を比較

エンジン内部の噴霧形成と混合過程に及ぼす燃料性状の影響を比較。

実際に行っている研究では、各種バイオ燃料の着火特性の評価、軽油燃焼との比較などを検証。燃焼火炎の高速度画像計測など、様々なアイデアを盛り込みながら実験を進めています。私たちは実験屋でもあるので、エンジン内部の現象を技術的・本質的に理解するための可視化、実際のエンジンを使った排気の確認など、自身の目で見て確かめることもたくさんあります。今よりいいものを作ることが技術ですから、目標は常に上向きです。ちなみに、水素社会を構築する動きも注目されていますが、化石燃料をベースとして作られるものはグレー水素と呼ばれていて、製造過程においてCO2を排出してしまいます。ならば、クリーンな水素を作り出すための技術開発を研究しようとなり、進められてもいますが、その間は今ある燃料をできるだけ効率的に使っていくことが大切なのです。

新しいものには挑戦する
だけど、今ある技術の革新も諦めない

エネルギー問題は特に、社会的コンセンサスを得ることが難しい分野です。しかし、社会や地球環境と直結している現状をふまえると、まずは効率の悪いものを良いものに置き換えていくことでCO2削減の近道となるでしょう。ただ、社会が発展すれば、またエネルギーが増えることも必須です。新しいものと、これまでの技術の効率化への挑戦は止まることはないのです。太陽光や風力など、自然エネルギーのみでまかなうことが現実的ではないからこそ、人間が豊かになるための、真に持続可能なエネルギーの使い方。それを考え、深堀りしていくことが私の目指すSDGsです。

田端 道彦 教授