イタリアをお手本とした
価値と魅力の創出。
枠にとらわれない見方で
地域活性化を支えたい。

田中 碧衣

Vol.5

イタリア発祥の“テリトーリオ”を
瀬戸内の発展に取り入れる!

  • 8 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさも守ろう
田中 碧衣

大学院 システム工学研究科
システム工学専攻 建築コース1年

田中 碧衣

Aoi Tanaka

工学部建築学科から大学院へ進み、「都市歴史研究室」に。都市や地域がいかに形成されたか、現地調査や古い地図の重ねあわせなどから個性を読み解き、資産として価値づけていく研究を行う。

今を知るには、
昔のことから調べる必要があり、
埋もれてしまった町の資産に気づくことも。
ときには言い伝えや代々受け継がれる
暮らしの知恵まで。
それはすべて、その土地の魅力や価値に
つながります。

私が建築に興味を持ったのは幼稚園児の頃でした。テレビでリフォーム番組を見たり、よく旅行に連れて行ってくれた両親と古い建物や神社を見たり。建築家をめざして大学へ進みましたが、そこで出会ったのは、人と地域、人と人など、生活と環境の関係性を分析していく都市歴史研究の楽しさでした。特に興味を惹かれたのが、イタリア語で地域を意味する「territorio(テリトーリオ)」という言葉で、この言葉から自然条件の上に、人間の手による文化的景観、歴史、地域共同体、記憶、暮らし、食文化が結びついているというような、地域の枠組みを見る視点を学びました。

1か月かけて北から南までイタリアで現地調査を実施。食文化、職人工房の分布、建築の特徴など、何を見ても興味深く、楽しい旅になりました。

学部4年生の卒業論文では、広島県に位置する竹原、安芸津、西条を舞台に、酒造業を支えてきたテリオーリオを描くことを試みました。見えてきたのは、共通の産業によって作り出されてきた町の繋がりです。内陸で作られた酒米は仕込みを行う酒蔵のある町へ運ばれ、それは海を越えて他地域へと出荷されます。ひとつの町だけでなく、周辺にある町も巻き込み、支え合って産業を成立させてきた側面は、新たな地域の見方を示唆できました。ときには今まで表に出なかった特性が、フィールドワークによって得られることもあり、地域活性を促す資産価値を見出せることは研究の醍醐味でもあります。

瀬戸内とイタリアは、海の近さや柑橘類の栽培が多いなど、風景や環境がとても似ています。ただ、日本と大きく異なる点として、イタリアでは町とその周辺を一帯として捉えるテリオーリオを戦略的に用いた都市計画が行われており、広範囲で経済的価値を守る制度があるということが挙げられます。例えば、生ハムが有名なパルマなら、豚の飼料、飼育地域、工場の立地や加工工程において、パルマハム協会による規定を満たした製品しかパルマハムと名乗ることができないなど、地元の食材に誇りを持っている人も多く、食産業と町づくりの関係性の深さがよくわかります。それによって育まれた歴史、文化、慣習などが、建築や都市の発展にどう結びついているのか、それを明らかにすることも研究のひとつです。

安芸津のフィールドワークに赴いた際、地元のおじいさんから、昔は酒造りに携わり、海外の工場で働いていたと伺いました。聞かなければ知り得ない事実でもあり、そこからまた考察を深めていきます。

きっかけは建築でしたが、そこからさらに深く目を向けることで町や地域が持つポテンシャルに気づくことができました。同じように、観光地ではなくても、自分たちの住む町には必ず何か魅力があることを知ってもらい、そこで受け継がれる風土や文化に誇りを持ち、多様な土地柄を大切にする人が増えてほしいと願います。そのためにも、地域が持つポテンシャルを様々な角度から読み解き、研究として発信することで、資源という価値を町にもたらし、新たな産業を創出することも私の夢です。さらに、地元・東広島への恩返しも込めて、地域のブランド向上に貢献したいと考えています。