工学で挑むSDGs

Message VOL.5

ICT技術と人
賢い住み分けで
働きがいを創造

熟練の職人や技術者の
経験や勘に頼っている生産活動を
ICT技術で支援するシステムがあれば。
それは、未来の働き方を変えるでしょう。

工学部 情報学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 情報コース
准教授

阪口 龍彦

Tatsuhiko Sakaguchi

「知的生産システム研究室」所属。生産から物流まで、モノづくりにおける様々な場面で賢く意思決定するための支援ツールやシステムを研究・開発している。

  • 8 働きがいも経済成長も
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成すしよう
阪口 龍彦 准教授

工学部 情報学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 情報コース
准教授

阪口 龍彦

Tatsuhiko Sakaguchi

「知的生産システム研究室」所属。生産から物流まで、モノづくりにおける様々な場面で賢く意思決定するための支援ツールやシステムを研究・開発している。

暮らしと社会で繰り返される“意思決定”。
自分で決める=やりがいを、
ICT技術で支援していく

日々生活していると、私たちは選択するための“意思決定”の場面によく出くわします。例えば、レストランでメニューを出されたとき。多くの料理や食材があり、価格や好み、気分など、様々な価値観の中から注文を決めないといけません。そのとき、できるだけ最適な選択をしたいですよね。かつ、多くの条件を満足させられるのが望ましいのですが、どれが一番かはとても難しい判断となります。日常生活から視野を広げても同じです。製造工場、サービス産業、介護現場、経営判断など、どんな現場でも常に何かを決めながら社会は回っています。そのなかで、より最適な選択(“組み合わせ最適化”といいます)を、ICT技術を使って支援したり、仕組みづくりを考えるのが私の研究です。

アルゴリズム

(左)遺伝的アルゴリズムを用い、工場内での作業計画を最適化するスケジューリングシステムのイメージ。(右)作業を棒グラフで表示したガントチャート。横軸は時間、縦軸は生産設備、色は作業内容を表しています。生産設備ごとに作業をどんな順番で実施するか、左の遺伝的アルゴリズムで決定しています。

現在は情報学科に属していますが、学生時代から近大以前の専攻は機械工学でした。設計から生産、物流にいたるまでの生産活動全体の効率化や最適化を研究。なかでも、国際競争の激しい製造分野では、単に良い製品を作るだけでは不十分で、良い製品を安く迅速に提供するためのICT技術の活用と効率が不可欠とされてきました。いま所属している知的生産システム研究室は、ひと言でいうと、“賢い工場”を作ることを目的としています。自身でモノを考え、自律的に行動できるような工場です。将来的には無人工場のようなものを目指していますが、完全に人を排除するのではなく、最終的に重要な意思決定のみを人間が担い、それまでの手助けをコンピューターがサポートする、といったイメージです。

配送計画システム
外枠がトラックの荷台で、中の色付きの四角が荷物を表示

)荷物の配送の最適化を行う「配送計画システム」。地図の各点が配達先で、どんな順で回れば最短時間となるかを計算しています。()外枠がトラックの荷台で、中の色付きの四角が荷物を表示。できるだけたくさん荷物を積みつつ、移動時間も最短になるよう最適化を行っています。

特にモノづくりでは、選択にいたるまでに様々な制約や条件、考慮すべき点があります。では、最適化を導くためにどうするか。私たちがよく取り入れるのが、遺伝的アルゴリズムという考え方です。環境に適合しながら進化を遂げてきた生物の仕組みを、数学的にコンピューターで模擬し最適化していく手法で、有名なところではN700系の先頭形状の改良など、様々な場面で応用されています。ただ、モノづくりの現場では、例えば部品点数1万点とかになると、組み合わせの数だけで膨大な量になります。言うなら、砂漠の中から一粒の砂金を取り出すようなもの。とうてい生きている間では、最適にたどり着くことはできない規模です。そこに遺伝的アルゴリズムを活用すれば、時間短縮と、砂金まではいかなくても最適に近い、実用に耐えうる一粒を求めことが可能になるのです。

自動梱包ロボット

実用化されている自動梱包ロボット。カットされた板材のバーコードをアーム型のロボットがカメラで読み込み、空気の力で建材を吸着して持ち上げ、トラックへの積み込みまで行います。

実用化されている例を挙げると、住宅用建材の自動梱包ロボットに適用できる、建材の積み上げアルゴリズムを開発しています。加工された重い建材をロボットが持ち上げるだけでなく、建築現場での施工順と、トラックへの積載効率の両方を考慮した梱包を自動で行ってくれるので、重労働からの解放と、効率が上がることによる働きがいの向上に期待できます。さらに、これまで取り組んできた研究には、介護施設での人員配置や日程計画の最適化、家庭ごみ収集業務の支援として、ゴミ収集車の割り当てやルートの作成支援などがあり、様々なターゲットに波及してきました。モノづくりというより、人々の生活を豊かにするための“コトづくり”になりますが、それによって得られる経済成長は、社会貢献につながると考えています。

個々から全体へ。現場力に支えられてきた
日本の技術を、最適化で進化させる

たくさんある価値観に重みをつけてあげ、ひとつに絞り込むのではなく候補を提示してあげる。我々が注目しているのは、いかに生産効率を上げるかですが、大切なのは人間にしかできない部分を集中的に取り組んだ先にある、やりがいや働きがいでもあります。今日入社した新人社員でも、コンピューターによる手助けがあれば、熟練者と同じ計画を立てることができるのです。今後は、モノを作るための方法、生産設備、作業内容をはじめ、何をどれだけ作るのか、その後の物流も含めて必要な意思決定を、さらに全体的なフレームで捉えて検討・研究し、システムとして社会に還元できたらいいと思っています。

阪口 龍彦 准教授