未知のものを解明していく
面白さと難しさ。
改善の余地があるからこそ、
研究の未来が見えてくる。

渥美 黎

Vol.6

あらゆるものづくりに役立つ
鋳造技術に、確かな保証を!

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 9 産業と技術の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
渥美 黎

大学院 システム工学研究科
システム工学専攻 機械工学コース2年

渥美 黎

Rei Atsumi

工学部機械工学科から大学院へ進み、「材料プロセス工学研究室」に。鋳造品の検証、保証、改善など性質の解明から課題提議まで、企業との共同研究を通して取り組み、各種材料の信頼性を高めている。

混ぜるものでさまざまな特性を持つ鋳物。
強度も必要だし、加工性も外せない、
その中間である“ちょうどいいモノ”を
生み出すことが
工業の未来を変えるかもしれません。

「鋳造(ちゅうぞう)」といわれる加工法は、古くは化石時代から取り組まれ、さまざまなものづくりの場面でその技術は発展してきました。しかし、現在ある鋳物の規格は、リサイクルが今ほど浸透していない100年前に制定されたものもあり、現代に合わせた産業の中で活用するためにはどんどん新しくしていかなくてはなりません。ただ、全く新しい素材を開発するのではなく、僕たちの研究は、昔から作られているけど、理由や特性について実は詳しくわかっていないものなどに対する検証を行い、保証として裏付け、改善していくことに観点が置かれています。

共同研究先の企業から送られる試験片は、実際につくった鋳造品の、最も冷却速度の遅い中心部から取り出されます。写真は引張特性を測る実験装置。

実験の結果は連動したPCにデータで送られ、どのタイミングで破断されたかが数値でわかるようになっています。

いま進めている研究は、「厚肉鋳造品の機械的性質の保証」です。そもそも鋳物は、溶かした鉄に銅や炭素、ニッケルなどが混ざることで、加工のしやすさや強度といった特性を持ちますが、僕が研究している鋳造品には黒鉛が混ざっています。「厚肉球状黒鉛鋳鉄」といって、厚肉で複雑形状の部品を必要とする大型船舶や大型工作機械などの分野で、コスト面および加工に適している点から採用されるケースが増えている鋳物です。実際、大型船舶の鋳造品を扱う企業と共同研究を行っており、そこから試験片をもらって強度の検証を行っています。

具体的には、試験片の引張特性、衝撃特性、疲労特性の検討や、作製した供試材の金属組織観察、破壊した試験片の破面解析など、各種特性の評価を行っています。疲労特性実験でいうと、10kgの過重をかけて何回転まで耐えられるかといった内容です。例えば100万回転をめざしてどこかで破断してしまった場合、何kgだったら100万回転耐えられるのかを明らかにしていきます。同様に衝撃だったり、疲労だったり、いろいろなパターンを検証する地道な作業ではありますが、未知のものに挑戦していく研究にはとてもやりがいを感じています。

疲労特性実験を行う装置。重りを付けた状態で、中央部分に固定された試験片を回転させてデータをとります。

実際に企業では、部品の一部が新しい鉄に切り替えて出されているものもあります。とはいえ、船舶が100年経過しても使えるのかというと、おそらく劣化してほぼ廃棄されてしまいます。では別のもの、例えば自動車部品としてリサイクルしようとしたとき、十分使える素材となるか確証しておくことも大切です。強度特性の劣化を防止する今の研究は、持続可能な資源の活用を見据えた方法の策定につながるのです。僕自身はもともと自動車に興味がありますが、身近な製品から宇宙産業まで、形あるものには鋳造技術が必ず必要とされます。今後も、技術立国である日本において、工業の未来にとって重要であろう現研究をさらに追求したいと思います。