工学で挑むSDGs

Message VOL.3

材料を置き換え
地域や環境に
マッチした建物を

建築生産という学問は、
建物を作る全てのプロセスを網羅する。
その幅広い視点で、
世界へと羽ばたく技術の革新を目指す。

工学部 建築学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 建築コース
准教授

寺井 雅和

Masakazu Terai

「建築生産研究室」所属。材料や構造などから見る安心・安全な建築のあり方を、グローバルな視点で研究。より良い環境と技術の調和を目指している。

  • 9 産業と技術革新の基盤をづくろう
  • 11 住みつづけられるまづくりを
  • 13 気候変動に具体的な対策を
寺井 雅和 准教授

工学部 建築学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻 建築コース
准教授

寺井 雅和

Masakazu Terai

「建築生産研究室」所属。材料や構造などから見る安心・安全な建築のあり方を、グローバルな視点で研究。より良い環境と技術の調和を目指している。

環境や資源の問題を
建築学の視点で読み解くとき
ジオポリマーと竹筋コンクリートから
見える未来がある

近大工学部建築学科の卒業生の多くは、現場管理を志望して建設関連の企業へ就職します。実際に扱う建築は巨大で、大量のコンクリートを施工管理しなければなりません。それは、図面を描いたりデザインするだけとはまた違った、リアルな世界です。当研究室では、将来現場に出てコンクリートを扱うことなどを意識できるような研究を実践しています。しかも、普通のコンクリートではなく、目的は自然素材を取り入れた(あるいは組み合わせた)新たな建材の開発です。言うまでもなく、温室効果ガスの発生による環境問題や、廃棄物の有効利用など、地球にやさしい活動は活発化しています。建材についても、比較的手に入りやすい自然素材を活用することで、持続的な社会の実現に役立てられることをテーマで取り組んでいます。

ジオポリマー

高炉スラグやフライアッシュが一般的ですが、似たような成分が含まれていれば様々な材料を使用したジオポリマーが製造できます。当研究室では、ガラス粉体を使用した試験体の製作にも取り組みました。

研究のひとつは、コンクリートの代替材料として注目される「ジオポリマー」です。コンクリートの原料であるセメントは、製造時に高温で焼成するため大量のCO2が排出されます。それを抑制するため、1980年代に発明されたのが、セメントを使用しないジオポリマーでした。主な原料には、高炉スラグとフライアッシュを採用。高炉スラグとは鉄鉱石を溶かす釜(高炉)から出た灰で、フライアッシュは火力発電所で石炭を燃やした際に出る灰です。どちらもこれまで廃棄物として処分されたり、埋め立てに使われていたのですが、有効活用の観点から製品化されています。主にヨーロッパでは、セメントコンクリートの使用禁止を打ち出す動きがありますが、環境問題をクローズアップしたとき、ジオポリマーはまさにコンクリートに代わる材料として期待が高まっているのです。

大型の梁の実験の様子

大型の梁の実験の様子。セメント系の複合材料を扱う実験的研究が多く、学生たちは実体験を通して環境問題への意識を高めています。

ジオポリマーの一番のメリットは、CO2排気量が極めて少ない点ですが、時間とともに縮む特性もあります。ヨーロッパの例を挙げましたが、実際に建築材として使うとなると、地震の多い日本ではどうでしょう。耐久性の面だけで見ても、今すぐジオポリマーに、というのは考えづらいのが現状です。今や技術の向上で、セメントコンクリートは100年を超える耐久性があるものがつくれます。これを新技術に置き換えていくには、同等レベルの開発はもちろん、それ以上の利点を見出す必要があります。また、地域によって地震の発生に差があるように、その場所に適した建築方法もあって然りです。伝統的な技術を使うのか、最新技術を用いるのか、多面的に建築生産のプロセスを構築し、かつ材料的な観点からも環境に配慮した計画が立てられれば、住み続けられる未来の世界を創り上げる一歩になると思います。

竹筋

竹筋。私の知る限り、日本で竹筋の研究を継続しているのは3人です。しかし事例は多く、鉄の入手が困難だった戦時中より技術が進化してきたと考えられます。

もうひとつ継続して行っている研究が「竹筋(ちっきん)」です。森林を管理する行政機関などでは、竹林の間伐材処分に困っています。竹は成長が早く、定期的に間伐しなければ地盤や植生の荒れにつながることも。また、間伐材を燃やして処理する際のCO2排出や、廃棄・運搬にかかるコストなど問題は山積しています。この間伐竹材の有効活用法として考えられるのが「竹筋コンクリート」です。要は、鉄筋の代わりに、強く長い竹を使おうというもの。古くからある技法でもあり、竹筋を使った建造物の例は日本各所にあります。今後、鉄の価格が高騰したり、環境問題を背景に使用が制限されれば、代替材料として見直されるときが来るかもしれません。現に、国際会議で研究を発表した際は、特にアジア圏の国々から高い関心をいただき、すぐにでも役立てられる技術であると実感しました。

技術を欲する世界のどこかの地域のために
材料の“置き換え”が叶える建築を
創造していきたい

実用化こそまだですが、日々の研究の蓄積は、着実にSDGsの目標に近づいていると思います。日本でなくとも、技術を欲している地域がある以上、情報発信しながら成果を世界に広めることも、私たち研究者の務めです。個人的な夢は、現存する建造物を、ジオポリマーもしくは竹筋コンクリートに置き換えて作ってみることですが、それにはまだまだ材料レベルの研究が必要です。未来の世界がどうなっているかは誰にもわかりませんが、広い視野を持ってモノづくりに貢献し、いつかどこかで役立てられるよう、これからも励みたいと思っています。

寺井 雅和 准教授