工学で挑むSDGs

Message VOL.4

壊さず、触れず
磁気の力で
社会に安全を

マイナーなイメージのある磁気の世界。
でも、電気有るところに磁気は有り。
その応用は産業・工業をはじめ
多くの分野で問題解決への鍵をにぎります。

工学部 電子情報工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻
電子情報工学コース
教授

廿日出 好

Yoshimi Hatsukade

「計測工学研究室」所属。環境や生体が発する様々な情報をセンシングする技術や、その応用を研究。環境、医療分野に役立つ計測技術を科学する。

  • 1 貧困をなくそう
  • 3 すべてのひとに健康と福祉を
  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
廿日出 好 教授

工学部 電子情報工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻
電子情報工学コース
教授

廿日出 好

Yoshimi Hatsukade

「計測工学研究室」所属。環境や生体が発する様々な情報をセンシングする技術や、その応用を研究。環境、医療分野に役立つ計測技術を科学する。

磁気センサを使った計測工学を応用し、
身の周りにあふれる情報を
社会の役に立てていく

電気(正確には電流といいます)が流れると、その周りには必ず磁気ができます。磁気とひと言で言っても、磁石のように強さが変化しないものもあれば、コイルに流す電流に応じて変化する磁気もあります。また、電気は基本的に触れないと計れませんが、磁気は電波と同様、空中を飛ぶので、どこかでセンサを使って捉えてあげれば、触れることなく計測することができます。電気があれば必ず磁気がある。見えないけど知らないだけで割と身近に存在する。そんな磁気をはじめ、電気や光、超音波の振動など、身の周りにあふれる情報を様々なセンサを使って計測し、技術として応用していくのが計測工学の世界です。

SQUID磁気センサの実験装置

SQUID磁気センサの実験装置。冷凍機でマイナス200℃まで冷やすと超電導が発動し、高感度センサが動く仕組みに。

電気と比べるマイナーなイメージのある磁気ですが、我々の脳や心臓は電気信号を発しながら動いています。そのため非常に弱いですが、磁気が発生しています。それを検出できるほぼ唯一のセンサが、「SQUID(超伝導量子干渉素子)磁気センサ」です。このセンサは脳や心臓の発する微弱な磁気信号を計測でき、脳機能解明などに役立てられてきました。それぞれの活動の異常を見つけたり、異常が生じている部分を高い精度で特定することができます。例えば、脳波測定には電極を用いますが、脳しょうや骨、皮ふを通過する際に多少の歪みが出ます。磁気のメリットは、それらを通過しても変化しないという点。私が大学生のときに入った研究室が、まさにこの超伝導の応用を専門としていました。それから20年以上、医療や脳科学だった対象を、今は建物や材料、大きくは地球まで広げて研究を続けています。

配管検査装置

参画しているNEDOの研究で、電磁シールドルーム内で開発した配管検査装置。データを蓄積し、配管の余寿命評価を目指す。

具体的な研究内容は、超高感度な磁気センサをベースとした非破壊検査装置・技術の開発となります。長距離伝搬する超音波ガイド波を、配管や板材などの対象物に発生させ、欠陥から反射した波を磁気信号に変換。それをSQUID磁気センサで計測し、欠陥の検出と位置の特定を行うのです。難しく聞こえますが、非破壊検査とは簡単にいうと、モノを壊さずに行う検査で、様々な産業・工業分野で必要とされている技術です。持続的な社会実現のためには、環境や人々の安全は第一です。また、産業・工業では、品質管理や保証が重要であるため、測定対象の定量的な情報を取得する技術(センシング)は、実用化を通して社会貢献できるものとして期待されています。

耐荷重のあるドローン

農薬散布に使われる耐荷重のあるドローンを活用。3Dプリンタで作った磁気センサとIoTコンピュータをセットし、安全なリモート磁気センシングを実現。

我々が参画している共同研究に、最新火力発電所のボイラー内伝熱管の検査、余寿命診断の技術開発があります。これが実現すれば、課題とされる「壊れる前に欠陥を見つける」ことが可能となります。壊れたので取り替えましょうでは、発電所を止めたことによる損失が出ます。また、消耗具合がわからないため、数年ごとに行っていた伝熱管の全交換も、寿命がわかれば必要なくなり、安定した社会インフラやエネルギ―供給につながります。別の研究では、ドローンを応用した地雷探査のための環境磁気計測技術の開発を行っています。ドローンに磁気センサを載せて飛ばし、磁気の発信源を探すのですが、将来的にはドローンが探査した磁気分布をバーチャルリアリティーとしてマップに表していく拡張現実まで広げたいと考えています。

持続的発展を続けるため、
研究を社会と地球へのお返しに

工学は人のため社会のためにありますが、間接的な貢献が多い学問でもあります。事故を起こさないための非接触検査、産業を止めず人の命を守るための地雷除去ですが、新しいアイデアがあってこそ結び付けられた技術でもあります。私たちは社会と地球環境に守られながら暮らし、研究を続けられるわけで、未来でもこのような活動を続けるには、社会の持続性・持続的な発展は欠くことができません。だからこそ自分たちの研究を社会に還元しながら、役に立つ成果を継続して発信していきたい。そう願い、これからも興味・関心を追求しながら“お返し”をしていきたいと思っています。

廿日出 好 教授