発展した世の中では、
課題が日々更新されている。
だからこそAIの工夫・開発が
ものの見方を変えていく。

森 啓吾/叶 悠人

Vol.3

AIと画像処理工学を生かし
コーヒー豆から見えた社会貢献

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
森 啓吾/叶 悠人

大学院 システム工学研究科
システム工学専攻 電子情報工学コース 1年

森 啓吾(左)

Keigo Mori

叶 悠人(右)

Yuto Kano

電子情報工学科・情報通信コースから大学院へ進み、「電子知能システム研究室」に。電子情報と電気、プログラミングなど幅広く学び、企業との共同研究でその知識とアイデアを発揮している。

精度や品質をもっと高めたい。
人の能力に限りがあるならAIで工夫を。
電子知能システム研究で見出す発想が
多くの持続可能な技術開発を
後押しています。

AIの一種であるニューラルネットワーク(NN)を用い、コーヒー豆を対象とした異物検知システムと、焙煎グレーディングシステムの研究を行っています。近畿大学は、以前からUCC上島珈琲株式会社との共同研究に実績があります。その流れから今回は、輸入時の異物混入や焙煎レベルの判断において抱えている問題について、何か良い解決策はないかという話から研究が始まりました。実用化に向け、まだクリアするべき課題はたくさんありますが、担当部署をはじめ様々な方と意見を擦り合わせながら行う作業は、とてもやりがいがあります。

除去の対象となる異物は、麻ひもや石の他、骨片や樹脂、木の実など様々。ヒストグラムを活用し、異物を数値で可視化して解析していきます。

(森さん) 生産国から輸入されるコーヒーの生豆には、麻ひもや石など多くの異物が混入しています。精選設備を用いてそれらを除去するのですが、重量や色など7段階の機械に2回通すことで確実性を高めているのが現状です。機械に通す回数が増えれば、それだけ歩留まり率(実際に得られる生産数量)の低下が生じます。僕の研究は、この複数ある精選設備をひとつのAI設備に集約し、AIが画像を見て選別できるシステムをつくること。これにより、設置効率の向上だけでなく、設備稼働によるエネルギーの消費低減が目指せます。また、コーヒーだけでなく豆類への応用がきくシステムなので、実用化の幅も広いと考えています。

(叶さん) 格付けや評点を行うのがグレーディングシステムですが、これを焙煎に応用した研究が僕の担当です。現在は熟練した職人さんが焙煎レベルを直接見て判断していますが、それでは人によって差が出ることがあります。また、ちょっとした判断ミスで焦げてしまったりすると、一回で焙煎する300kgの豆が廃棄されてしまうことに。そこで目指すのが、AIを使った焙煎レベルの自動判断化です。撮動装置で撮った画像をAIが判断するのですが、ノイズの処理や精度の向上など、今はまだ試行錯誤を繰り返しています。しかし、実現すれば労力の削減だけでなく、商品化に際する品質保証にも大きく貢献できると思っています。

焙煎はコーヒーの味を決める重要な工程です。安定的な識別は難しい課題ですが、今後さらに、レベルに応じた焙煎度合いの確信値を高めていきたいです。

スマホが普及したように、AIが生活に溶け込み検査や予測の技術が向上すれば、充実した社会が実現すると思います。人の目では見られなかったり、まちまちになりがちな判別をAIに置き換えて、精度や品質をあげていくことは可能な時代です。さらに、今それぞれが研究しているシステムは、大きくはエネルギー消費の低減や、食品ロスの削減につながるように、実用化が叶えばもっと多様な分野で活躍できるものでもあります。そんな期待を胸に、これからも研究を続け、産業基盤の構築に貢献していきたいと思っています。