工学で挑むSDGs

Message VOL.2

廃プラを
有効資源とした
リサイクルの実現へ

ポイ捨てされたプラスチックは
海へと流れ、環境破壊の大きな原因となる。
やるべきことは人々の意識改革だが、
その牽引に期待されるのは
バイオマスの力です。

工学部 化学生命工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻
生物化学コース
教授

白石 浩平

Kohei Shiraishi

「生体材料化学研究室」所属。石油原料に依存しないプラスチックの創出や活用法を研究。幅広い分野と技術を連携し、地球環境の未来を応用的に考察する。

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさを守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
白石 浩平 教授

工学部 化学生命工学科
大学院システム工学研究科 システム工学専攻
生物化学コース
教授

白石 浩平

Kohei Shiraishi

「生体材料化学研究室」所属。石油原料に依存しないプラスチックの創出や活用法を研究。幅広い分野と技術を連携し、地球環境の未来を応用的に考察する。

バイオマスの力で
プラスチックの概念を変えていく
成果を求めた研究で、
まずは意識を変えるSDGsを

私たちの身の周りには多くのプラスチック製品があふれています。しかし、生活に欠かせないものでありながら、多くの環境問題ともつながっていて、海洋汚染は近年、特に注目されています。私は長年、生体材料化学の研究を続け、その後、対象を生分解性素材へと拡大し、2000年頃からバイオプラスチックへと世界を広げました。日本のバイオプラスチックの定義は、25%が植物性であればよいとされていますが、100%に近づける研究にまい進したのです。そんななか2004年、産官学連携のプロジェクトとして、自動車モジュール部品の新規開発に参画。マツダ株式会社や西川ゴム工業株式会社などと協力して、耐熱性、耐衝撃性、高強度だけでなく、97%植物由来のバイオプラスチックの開発に成功しました。

針がポリ乳酸でできた採血器具

(左)針がポリ乳酸でできた採血器具「ランセット(商品名:ピンニックスライト)」。針を覆う緑部分ケースまでを生分解で構成。複雑な構造を整形するのに、自動車部品開発時のノウハウが役立ちました。(右)工学はとても重宝される学問になりました。実験だけやる時代は過ぎ、コンピューターの前に一日座ってサイエンスと向き合うこともあります。

そもそもバイオプラスチックとは、区別される2つのプラスチックの総称です。ひとつは、トウモロコシなどの植物由来の資源(ポリ乳酸)を原料とする「バイオマスプラスチック」。もうひとつは、微生物によって分解され、最終的には自然に還ることができる(生分解性)機能を持った「生分解性プラスチック」です。バイオマスプラスチックは、その化学構造によって生分解するものとしないものがあります。私が追求してきたのは、あくまで生分解できるバイオマスプラスチックの開発。ここに共感してくれた兵庫県の会社から、糖尿病患者などが微量採血する際に使用するランセットの部分的な素材開発を依頼されたこともありました。以前は、コストの面から生分解性樹脂の供給が厳しかったのですが、いまは徐々に解消されています。何よりSDGsの提唱により再注目される素材でもあり、これまでの研究が今まさに芽吹こうとしているのです。

プラスチックとバイオ材料では物性が異なるため混ざりにくいのですが、微生物を使って加工することで均一な混合を目指しています。

プラスチックは、本来リサイクル可能な素材です。しかし、最終手段として燃やしたり埋め立てられるプラスチックがあるのも事実。しかし、廃棄されるはずのプラスチックに新たな価値を付けたらどうでしょう。応用に使うのは、近大で誕生したバイオコークスです。バイオコークスとは、植物由来の有機性資源(バイオマス)から製造できる次世代の固形燃料。木材や食品残渣などの原材料を粉砕し、シリンダーに充填して加圧成型されますが、ここに細かく粉砕した廃プラを混ぜた、廃プラ入りバイオコークスの研究を進めています。目標のイメージは、廃棄される人工物の活用⇒最終処分としてバイオコークスを作製⇒エネルギーとして回収⇒化石燃料の削減です。そして、今まさにカタチになろうとしているのが、産学連携プロジェクトで進めてきた、デニム廃材を活用したバイオコークスなのです。

バイオコークス

植物素材で作るバイオコークス。材料によって仕上がりも変わり、デニム廃材なら藍色に、茶葉の残渣なら香りが残ります。

このプロジェクトの一番のメリットは、廃材の素性がわかっていることでした。廃プラといっても様々な種類があり、プラスチックが混ざりあった海ゴミにいたっては有害化している可能性もあります。しかし、原料を提供してくれたデニムメーカーでは、素材の配合を把握しており、必然と一定の品質を保ったコークスの製造が実現します。さらに、これまでお金を払って廃棄してきた月に何十トンもの廃材を活用し、燃料化するだけでなく、コークス自体も同じ工場内で作れば、完全なエネルギーの循環が生み出せるのです。同じようなシステムの研究を、次は牡蠣の養殖業者さんたちと計画しています。牡蠣いかだに取り付けられたポリスチレンの浮きは、入れ替えの度に廃棄できず山積みになっているそう。そこで、いかだに使われる竹(バイオマス)と混ぜてコークスを産出し、島全体で熱源を生み出していこうという取り組みです。

地球はがんばってくれている
だからこそ、
貢献できる技術でムーブメントを

プラスチックとバイオマスを混ぜてエネルギーになることがわかれば、リサイクルの概念は変わります。とうぜんプラスチックの価値も変わり、適切に使って廃棄する流れへとムーブメントを起こすでしょう。サイエンスを駆使して技術に貢献することが工学である以上、課題に対してあらゆる手段で解決を導くのが研究者です。いずれはこの活動が多くの他技術と繋がり、拡がることで持続可能な社会や地球環境となり、人類が自然と共存しうる未来になると信じて、今後も様々な構想を実現していきたいと思っています。

白石 浩平 教授