化石燃料からバイオマスへ。
シフトチェンジを行うための
基礎研究がめざすのは
新たなプラットフォームの創出。

森口 大輔

Vol.4

有用物質の効率的生産をめざし、
酵母のストレス耐性を解析!

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 8 働きがいも経済成長も
  • 9 産業と技術の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
森口 大輔

大学院 システム工学研究科
システム工学専攻 生物化学コース1年

森口 大輔

Daisuke Moriguchi

化学生命工学科・環境化学コースから「食品プロセス工学研究室」に配属され、大学院 システム工学研究科・生物化学コースへ進むことに。化学と、特に生物への興味が強く、学部時代から環境問題への意識も向上。社会に貢献できる技術の実用化に向けて研究に取り組む。

エネルギーからお酒づくりまで、
酵母の力がおよぶ分野は幅広く存在。
バイオリファイナリーにも欠かせない
酵母の育種や
機能向上で、循環型社会をめざします。

近年、低炭素社会の実現に向け、石炭や石油、天然ガスなどの化石資源ではなく、カーボンニュートラルで再生可能資源であるバイオマスを原料にしてバイオ燃料や化学品を生産するバイオリファイナリー技術の確立と普及が求められています。バイオリファイナリーはさまざまな利点がありますが、現在は海外でトウモロコシやサトウキビなどの農作物からバイオエタノールを生産する以外、商業的な利用は広く普及しているとはいえません。一方で、それら農作物は食料と競合することが問題となっていて、トウモロコシや砂糖の価格上昇だけでなく、家畜飼料や肉の価格上昇につながる懸念があります。そこで注目されているのが、木や草など木質由来の「リグノセルロース系バイオマス」です。

ストレス耐性遺伝子を導入した酵母株を用いて、低pHや高濃度の塩などのストレス条件下で培養試験や発酵試験を行い、ストレス耐性能力を評価します。これらの実験で扱う試薬も様々です。

バイオ燃料などの生産に主に利用されている微生物として酵母が知られていますが、酵母を用いた有用物質(発酵)生産工程の前に、リグノセルロース系バイオマスの前処理や糖化(加水分解)が必要です。これらの工程では、硫酸などの酸を使用する場合があり、糖化後に硫酸は再利用のために得られた糖溶液から回収されますが、完全には除去できないことから、得られた糖溶液の中和が必要となります。その際、中和剤を添加しますが、これによって生成する塩が環境ストレスとして酵母に負荷されます。さらに、バイオマスの過分解によって有機酸などの発酵阻害物質が生じて発酵槽内のpHを低下させますが、このような低pHストレスも酵母に悪影響を及ぼします。僕たちの研究では、これら環境ストレスに対する耐性を付与した酵母の育種開発に重点が置かれており、すでに低pHや高濃度の塩に対して優れた耐性を付与する遺伝子の単離・同定に成功しています。

しかし、まだまだこの遺伝子が関与するストレス耐性機構については解明されていない部分が多く、現時点で有用物質生産に与えるメリットも限定的であるため、分子レベルでの解析にも取り組んでいます。耳馴染みとなった「PCR検査」は遺伝子のDNA配列を増幅させる手法ですが、僕たちの実験では、酵母のストレス耐性遺伝子など特定の遺伝子を薬剤耐性遺伝子に置き換えて破壊株をつくるため、“相同組換え”の手法を使っています。そのために、遺伝子の配列を自分で設計したり、温度や時間などいくつかのパラメータを変えてPCRの反応条件を検討したりしていますが、これら結果のひとつひとつが実を結んで学術論文や学会発表などの研究成果が得られたり、社会実装や実用化につながると思うと、難しさのなかにも面白さや醍醐味を感じています。また、このようなストレス耐性遺伝子を利活用すれば、リグノセルロース系バイオマスを酸で加水分解する際に物質生産性を大幅に向上させることができ、またバイオ燃料だけでなく、乳酸を代表とする有機酸なども大量かつ安定的に生産することができるなど、画期的な技術開発につながることに期待を膨らませています。

実験では、マイクロ単位の量で液量を測りとったり、遺伝子を操作したりするので、手先の器用さが求められます。時間配分や優先順位付けなどスケジュール管理も実験する上で大切です。

とにかく僕は実験が好きで、努力次第でいくらでも結果は出せると思っています。社会に役立つ研究成果を上げていけるように、日々研究活動を進めていますし、その先の研究成果の技術移転や実用技術の開発にも取り組みたいと思っています。将来はこれらの技術を環境・エネルギー関係の分野や産業界で生かすことが夢です。現在進めている研究がうまくいけば、物質生産プロセス(バイオものづくり)を効率化・高度化することができるようになり、最終的には生産コストを抑えることが可能になると考えています。また、酵母の産業利用への応用が広がりますし、発酵産業やバイオ産業といった産業界も活性化すると思います。さらに、化石資源の依存度を減らすことにつながり、低炭素社会の実現に近づきます。そういった意味でも、酵母における有用物質の生産性を向上するための研究には大きな意義を感じています。