新しい発見は、しっかりとした基礎研究の土台があってこそ。熱力学で分子認識のメカニズムを解き明かす。

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コップの水(液体)も水分子の集合体

分子というのは別な分子をお互いに認識し合って混ざる、固まる、凝集するなどの反応をしています。それぞれに意志はないけれど、相性によって互いに近づいたり離れたりもする。では、どういう分子同士が相性がいいのか、どういう形をしていたら相性が悪くなるのか、その法則性を明らかにして行こうというのが私たちが手がけている分子認識のメカニズムを解明する研究です。

様々な条件下での分子の変化を熱力学で探る

分子は熱を加えたり圧力を加えたりすると性質がよく見えて来ます。例えばタンパク質はそれぞれの個性に応じて安定性や反応の速さや反応時に発生するエネルギーが変わって来る。その1個1個の性質から法則性を見つけて行きます。そのときに重要なのが熱力学の法則です。私たちは様々な反応や認識機構を熱力学の法則に従って、そのメカニズムを解明して行こうとしているわけです。

分子は相手をどうやって見分けているのか

“包接”とはある分子が形成する空間に別の種類の分子が取り込まれることで、分子が互いをどのように認識しているのかを考える上で非常に興味深い研究対象です。例えばシクロデキストリンという糖は底の抜けたバケツのような構造をしていて、バケツの中に別の分子を閉じ込める機能を持っています。このような現象も熱力学で理解することができます。発展させれば、どのような分子構造にすればより認識されやすくできるか、という応用にもつながります。

基礎研究のその先にあるもの

タンパク質は分子量が数万もある大きな分子で、種類も多く非常に大きくて複雑なため、まだまだ分からないことがたくさんあります。それをどういう条件下でどういう分子認識になるか、きちんと法則性を見つけ、数式化してきっちりと条件分けして行けば、例えば薬が生体内の複雑な環境下で体のタンパク質にくっつくためにはどんな形状、またどんな環境にすればいいかが解って、将来的には新薬の開発にもつながってきます。分子同士の認識のための情報が非常に大事になる所以です。分子認識とはこのように非常に幅の広い分野であり、シンプルだがその理解は難しく大変なもの、でもそこがやっていて楽しいところでもあるのです。

基礎研究という土台があってこそ次へ進める

昨今はすぐに社会に還元できる、成果がすぐに応用できるものを求められる風潮が確かにあります。でも基礎研究という土台がなければ、やはり次に進めないことも確かです。学生の皆さんには学びの土台、基礎の部分をしっかりと積み上げていくことを意識して欲しい。社会へ出て企業やその他の様々な分野で活躍するためには、ここで化学をしっかり学んだことが大事になって来ます。まず基礎の部分がないと、背伸びしてもやっぱりなかなか力は発揮できないものだと思いますから。

神山 匡
理学科 教授

所属: 学科 / 理学科 化学コース
研究室:物理化学研究室

略歴 2001年 近畿大学助手
2005年 近畿大学講師
2006年
- 2007年
ミュンスターヴィルヘルム大学物理化学研究所(ドイツ)客員研究員
2010年 近畿大学准教授
2016年 近畿大学教授

スポットライト -最先端研究一覧

生命活動の根幹、タンパク質の機能解析から種の進化に伴うタンパク質の機能変遷の痕跡を追う。

近畿大学理工学部 生命科学科 講師
分子機能制御研究室 島本 茂

光合成を化学の眼で理解する・化学の力で造る。

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化学のラビリンスを照らす“光”。
鏡の国のアリスの世界に光で挑む。

近畿大学理工学部 応用化学科 准教授 今井 喜胤

生命のしくみを解き明かせ
~液体界面で起こる特異な現象の観測~

近畿大学理工学部 理学科 准教授 矢野 陽子

明日の社会基盤を創造する ~安全・安心、“人と環境にやさしい”をめざして~

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電磁界シミュレーションの可能性 ~ワイヤレス
給電の飛躍的な普及を目指して~

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結び目の数学
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細胞移動のメカニズムを解明し癌転移、
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近畿大学理工学部 生命科学科 准教授 早坂 晴子

元素を自在に結合させて世の中を一変させる
新しい高機能材料を創出する。

近畿大学理工学部 応用化学科 准教授 松尾 司

ブラックホールで拓く、新しい宇宙像。

近畿大学理工学部 理学科 教授
一般相対論・宇宙論研究室 石橋 明浩