工学で挑むSDGs

Message VOL.13

100年住宅の実現へ
隠れた場所に潜む
材料劣化に切り込む

工学部 建築学科

講師

吉谷 公江

Kimie Yoshitani

「建築環境研究室」所属。建築のサスティナブルな利用を実現するために、居住環境の総合的な性能向上をめざし、目に見えない部分に使用される材料について研究を行う。

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任つかう責任
吉谷 公江 講師
POINT
100年住める建築の秘密。
その鍵のひとつが建築物に使用される材料です。
いかに建物を長持ちさせるかを考えたとき、
材料研究を応用することが、建物の未来を救う鍵となります。

Discover

時間を早送りするように、
材料の劣化を明らかにする実験で、
建物の未来を救う

建築材料に強力な光や熱を当てて、10年分、20年分のダメージを短期間で再現する「促進劣化試験」。どんな材料なら長持ちするのか?どう施行すれば水が入らないのか?それを科学的に証明し、建物の寿命を延ばす研究を行っています。

研究紹介

100年住宅を実現するには、どうすればよいか。
メンテナンスの在り方に建築工学で
アプローチしています。

建築とは大きく、建築計画・建築構造・建築環境に分かれますが、私の研究は建築環境に入ります。建築環境には給排水といった衛生などのほか、照明や電気といった設備面も含まれ、さらには居住環境といって、居心地の良さなどを追求する側面もあります。これらをまとめて、いかに快適に過ごせるかを検討することが建築環境という分野です。現在、私が行っている研究では、建築物の中で隠れた部分に使用される材料の劣化特性について調べています。不具合がない段階でメンテナンスを行うことが、建物にとっても人にとっても、快適を維持する上で必要性が高いと感じ、私は材料の劣化特性に着目しました。さらに、企業に勤めていた約10年で防火関係の部署、その後、防水や材料の劣化など耐久性に関わる部署を経験した中で、メンテナンスの重要性は居住者には伝わりにくいという現状を知ったことがきっかけです。

(写真)防水パッキンの防水性試験の様子。ネジを打ったパッキンを水にさらし劣化具合を検証しています。(写真)透湿防水シートの引張試験の様子。

日本は一国一城の主というイメージが強く、新築を建てることに重きを置く文化です。古い建物を使い続けるヨーロッパのような国柄とは違い、作っては壊すを繰り返すため、建物の寿命が短いとされてきました。しかし最近では、中古住宅市場の拡大や建物の性能表示制度が一般的になりつつあり、「100年住宅」をめざした取り組みも推進されています。では、実際に中古住宅を購入する人は、その家の性能をどこまで把握しているでしょう。たとえば、地震の多い国なので耐震等級は多くの方が気にされると思います。大事なことではありますが、生活してみて発揮される性能は、実は遮音性や断熱性、さらに気づかないところで防水性だったりします。そして、その防水性能が保障されるのは、新築住宅の場合10年であることがほとんどなのです。

構内では熱を与える機械を使い材料の劣化を促進。本来、材料に劣化を与えるのは湿度などさまざまな要因があり、そこはフィールドワークで確認する場合もあります。

しかし、10年とは言うものの、本当に10年で交換が必要な劣化になっているのか、もしかしたら8年かもしれないし15年かもしれない。研究ではそこを検証、解明していきます。具体的には、材料を機械にかけ、熱を与える促進劣化という形で調べていて、これまでの研究ではパッキン材やフィルムを対象としてきました。1週間で約1年経過するよう設定し、5年、10年と変化を観察しながら、変形具合や引張試験、防水性チェックなどを行います。ただ、実在する建物との乖離の程度は不明なので、後追いになったとしても、実際の使用環境においての材料劣化も行い、促進劣化との比較や、材料単体だけでなく、壁や床の性能がどのように変化するかも把握する必要があります。また、バルコニーには防水シート、壁にはアスファルトと鉄粉を混ぜた遮音材など、場所によって使用されている材料が異なるので、いずれは幅広い材料の劣化特性を調べることも目標のひとつです。

引張試験を行う予定のパッキン。パッキンは樹脂系の素材が多く使われていますが、防水には適していても防火には向いていません。また、新築時に初期性能として表示された防火性や遮音性の数値は、中古市場で特に明示する義務がないことも、材料劣化の現実に気づくタイミングを遅らせてしまう懸念があります。

私の研究の重要なポイントはやはり、隠れた部分に使用される材料を研究対象にしていることです。紫外線劣化など、目に見える部分の材料については多く研究されていますし、外回りがしっかりしていることは建物にとって大事です。ただ、屋根を剝がさないと交換できない天窓の防水テープや、外装と内装の間で部材の継ぎ目に使われるパッキンなど、見えないから気づかず、気づいたときには深刻な影響をもたらす可能性のある材料は多くあります。建物は、雨風や地震をはじめ、粉塵やカビが含まれる空気質など、同時多発的にさまざまな影響を受けています。できるだけ長く使用するためには、必要なタイミングで必要なメンテナンスを行えるようにすることや、交換しやすいよう工法を工夫することで、都市を構成する建築物に対して安全で快適な生活空間をつくり、持続可能な社会につながると考えています。

KEYWORD
#100年住宅 #建築環境 
#建築材料 #促進劣化試験
#建物メンテナンス 
#産業廃棄物の減少

何のために“快適”な環境を作ることが
求められるのか。
その意識が、建物と社会の構成を
持続可能にしていく。

実は、同様の研究は少ないのが現状です。しかし、共同研究で促進劣化を行っている材料もあり、成果を共有できれば今後のメンテナンス性の改善、中古住宅の性能の信頼性向上、市場の拡大、建物の長期利用、廃棄物の減少など、地球環境の保全に役立つことが考えられます。また、建物の“快適“をどう感じるかは人それぞれですし、意外と不安定な中に成り立っていることを危機感として忘れないでいたいと思っています。その上でどう向き合うか。生活する上での困りごと解決が建築環境の入口であるなら、何のために、誰のために快適な環境を作るのかがより意識された建物が増えることで、持続可能な社会が構成できればと考えています。

吉谷 公江 講師

※掲載内容は取材時(2025年度)のものです。