
Message VOL.12
工学部 ロボティクス学科
教授
岩谷 靖
Yasushi Iwatani
「ロボット情報学研究室」所属。ロボットが自身の位置や姿勢を知ることで可能になる事前予測や、周囲の状況を理解して動くための基礎理論を研究する。



はじめにロボットとは何かについて紹介します。ロボットとは基本的に、「機械」「電気・電子」「情報」の3つの要素が組み合わさったものです。プログラムが情報を処理してモーターを動かし、モーターが機械を動かすといった形で、相互に情報を行き来させながらバランス良く作られることでロボットは正しく動きます。人間に例えると、骨や皮ふが「機械」、筋肉や神経が「電気・電子」、脳が「情報」にあたります。その中で私は、「情報」分野を中心に研究に取り組んでおり、特に画像処理や数理モデルの解析といった情報技術を応用した生物学のためのロボット製作と、さらには生物行動を解析するためのロボット開発などを行っています。多くの方がイメージされるロボットとは違うかもしれませんが、ロボット技術にはさまざまな分野に応用できる大きな可能性があります。
研究にはシーズ型とニーズ型があります。プロダクトを開発する際の違いで、ニーズ型が具体的な目的や消費者視点の開発で、シーズ型はすでにある技術やノウハウを提供するやり方になります。
私が参画している研究を二つ紹介します。一つ目は、「コオロギの気流刺激に対する逃避行動分析」です。私が製作した球形トレッドミル装置を用いた行動観察実験によって、コオロギが刺激に対してそのまま逃げるのではなく、一時停止してから逃避するという行動原理を発見しました。一見、生物学寄りな話に聞こえますが、ここにもロボット技術が大きく貢献しています。刺激に対する応答を観察するには、刺激装置とコオロギの相対的な位置・姿勢を、常に一定の値に保つ必要があります。これが一定でない場合は、刺激の強さや方向がバラバラになってしまい、刺激応答のデータを正しく取得できません。当然コオロギは勝手に動き回りますので、何もしなければ刺激装置とコオロギの相対的な位置・姿勢を一定の値に保つことはできません。そこで開発したのが、トレッドミル(ルームランナー)を二次元に拡張したもので、コオロギの乗る球をコオロギの動きと逆方向に回転させる球型トレッドミル装置です。これにより初めて、「刺激装置とコオロギの相対的な位置・姿勢を常に一定の値に保つ」ことができ、刺激に対する応答を正しく観察できるようになりました。
通常のカメラは1秒間に30枚しか写真を撮ることができませんが、ここで使用している高速カメラは、1秒間に164枚の写真を撮ることができます。これにより、より細かなロボット制御が可能になります。
さらにプラスアルファとして、高速カメラと高速画像処理の導入も行いました。これにより刺激装置とコオロギの相対的な位置・姿勢をより詳細に取得することが可能になり、ロボット(球形トレッドミル装置)を滑らかに動かすことができるようになりました。コオロギが乗るロボットがガタガタと動いてしまっては、それがまた別の刺激となり、コオロギの動きが不自然になってしまう可能性があります。高速カメラと高速画像処理の導入によりロボットが滑らかに動くことによって、コオロギに不要な刺激を与えずに、我々が観察したい自然なコオロギの動きが観察できるようになります。
二つ目は、「草むらの中で虫を見つけ、その動きを観察する移動ロボットの開発」です。草むらの中で、ロボットの移動機構として普通の車輪を使うと、二つの問題が生じます。一つは、ロボットの車輪が草に絡まって動けなくなってしまう可能性があることです。もう一つは、草むらに轍を作ってしまい、虫が棲む環境を破壊してしまうことです。そこで、タイヤとリム(外周輪)が無く、スポークだけからなる車輪を採用することにしました。スポークが草花を跨ぐような動きをするので、前述の二つの問題を回避できます。このロボットはまだ試作中ですが、これまでの研究で培ったロボット技術や情報技術を活用しながら、鋭意取り組んでいるところです。
まだ試作中の移動ロボットですが、特徴としてはロボットの足が地面に点で設置することにあります。通常の車輪では草むらに轍ができたり、草が車輪に絡むことがありますが、この車輪はそれらの影響を低減できます。
生物学をテーマとした研究に参画していると、人間と生物・地球環境の間のインタラクションが解明できるのではないかとの期待を抱きます。SDGsの観点で見ると「海や陸の豊かさを守る」ことにもつながり、巡り巡って人の営みを支えます。私にできることは、視野を広く持って物事を捉え、これからも多くの分野や研究者と協働し、課題解決へとつながる道を模索することだと考えています。
※掲載内容は取材時(2025年度)のものです。