物質がつながり、形を変えていく。
有機合成は
“未知のレシピ”を探す旅。
その先で見つかる新しい
合成方法が、
環境にやさしい
化学の一助になります。
Vol.12


化学生命工学科4年
谷口 太郎
Taro Taniguchi
「有機変換化学研究室」所属。有機化学、無機化学、物理化学など、化学全般の知識を養う一方で、有機合成プロセスの効率化や分子の新しい反応性を探求する。
中学生の頃から化学に興味を持ち始め、特にさまざまな化学結合を見せる「炭素」に大きな魅力を感じて近畿大学工学部化学生命工学科への進学を決めました。現在の研究は、物質と物質がどうやったらつながるかをテーマに進めています。有機合成で機能を持った物質を作るのではなく、「こうすると新しい機能が生まれるのでは」と仮定して、原子をどう結びつけるかを検討しています。具体的には炭素と、ミネラルの一つであるケイ素で形成された環状の化合物(シラシクロブタン)、化学反応を促進させる触媒量の塩基を用いて、新しい有機ケイ素化合物を合成するための方法を開発しています。
炭素だけでできている有機化合物に比べ、炭素にケイ素が入った有機化合物は、元素が一つ違うだけで用途が広がります。僕たちが取り組んでいるのは、さまざまな役立つ分子を合成する起点(原料)となる反応を明確化し、効率よく供給できる方法を探ることです。
炭素とケイ素は理論的にはつながりやすいとされています。ただ、本当にそうなのか、他に組み合わせはないかなど、実験を繰り返していろいろな方法を試すことがこの分野では大事です。なぜなら、単純に炭素とケイ素を混ぜたら化合物ができるわけではなく、何か別の薬品を加えるなど工夫が不可欠だからです。僕たちがめざすのは、パターンを変えながら薬品を試し、この試薬ならもう少し狙ったところにケイ素が入るのではないか、別の試薬ならもっとコストを下げられるのではないか、有機合成の土台にアプローチしながら手段の可能性を広げることです。
実験はご飯を炊くことをイメージするとわかりやすいです。まずお米を洗い、所定量の水を入れ、決まった時間で炊きます。ただし、米の種類、精米時期、水に浸す時間や量など、炊き上がりは条件によって異なります。有機合成も同じで、反応時間や試薬の種類を細かく試して良い状態を見極めないといけません。僕が研究を面白いと感じるのはそこで、検討を繰り返した先に新しいレシピの発見があるからです。先行研究を参考に、経験や仮説を元にトライ&エラーを繰り返し、反応溶液の色の変化を分析前に確認できたときなどは醍醐味や奥深さを強く感じます。
僕が行っている研究では、化学反応が目的通り進行したときに見た目(反応溶液の色)が変化します。それが確認できると上手く進んでいることがわかるのでモチベーションも上がるのですが、他の物質でも同じかといえばそうではありません。それを繰り返すことに研究の面白さがあると思います。
研究成果は、有機合成の研究に取り組む人たちにさまざまな方法を提供する形で役立てられます。また、合成に使用した材料が、最終的にどれだけ目的の物質に取り込まれるかを示す「アトムエコノミー(原子効率)」の向上にも貢献できると考えています。有機合成の実験ではどうしても溶媒や、原料の余りなどの廃棄物が出てしまいます。しかし、アトムエコノミーをできるだけ100%に近づける方法があれば、大気や水、土壌への化学物質の排出や廃棄物の低減につなげることができます。今後は大学院へ進学し、同様の研究をさらに進める予定で、自身の知識とアイデアを糧により多くの有機合成に取り組みたいと思っています。
※学生の所属および学年は、2025年度取材時のものです。