工学で挑むSDGs

Message VOL.10

新しいガスセンサーや
次世代を担う電池など
社会に役立つ
技術を開発

工学部 機械工学科

教授

井上 修平

Syuhei Inoue

「熱物理学研究室」所属。微小エネルギーの有効利用、親和性の高い次世代電池の開発、ナノスケールのセンサー開発など、物理化学の原理を研究する。

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
井上 修平 教授
POINT
カーボンナノチューブから次世代電池まで、
未来につながる技術の可能性を切り拓く研発室。

「質量分析」という物理化学に
出会って世界が広がった。
ここからガスセンサーや
次世代電池開発への道がひらけます。

大学院時代の私の指導教員は、炭素分子「C₆₀(フラーレン)」を発見してノーベル化学賞を受賞したリチャード・スモーリー教授のもとで研究を行っていました。その装置が日本に持ち帰られたことをきっかけに、私の所属する研究室では「質量分析」という物理化学の研究が進められていました。私はもともと、「なぜそうなるのか」を突きつめることに興味があり、機械工学科にいながらも、この研究をとても楽しく感じていました。2004年に助手として大学に着任したとき、教授から「自分の好きなテーマで研究してみなさい」と言っていただき、研究室の予算で簡単な装置を自作して研究を始めました。その際には、大学院時代の先生方や仲間にも助けてもらいながら、カーボンナノチューブの研究に取り組みました。これがのちに、ガスの応答原理を利用したガスセンサーの研究へとつながっていきます。

学⽣の卒論研究を指導する際に、カーボンナノチューブの薄膜を作り、ガスの応答原理を調べるための信号をとり始めました。仮説を立て、実験とシミュレーションを繰り返して一致を確認し、論文として発表しています。

Discover1

10億分の1メートルの「スパゲッティ」が
命を守る技術へつながる?

⼯場などで働く⼈々にとって、⽬に⾒えない「危険なガス(有機溶剤など)」は命に関わる脅威です。しかし、従来のセンサーは400℃もの⾼温で作動させる必要があり、コストもエネルギーもかかるため、こまめな設置が難しいのが現状でした。

そこで井上先⽣が注⽬したのは、カーボンナノチューブ(CNT)。直径わずか1ナノメートル(10億分の1メートル)という極細の筒状炭素素材です。

研究紹介

カーボンナノチューブは炭素原子だけで構成されている物質で、直径が1ナノメートルほどの円筒(チューブ状)になっています。長さは1マイクロメートルから長いもので1ミリメートルまであるのですが、「どうやって成長するのか」「そもそもどうやってそんなものができるのか」成長機構の研究だけでも約10年を費やしました。ただ、工学の本質は社会に役立つものを創造することなので、どんな応用ができるのかも検討していかなければなりません。そこで、カーボンナノチューブが室温でもガスに応答を示すことが報告されたことから応答原理の解明につながり、さらにカーボンナノチューブを紙状に成形することで、フレキシブルな形態での使用が可能になるのではと、研究開発を進めています。ここでポイントになるのが、やはりガスの応答原理を解明したことでした。

ガスの応答を見るために使う機械。水と有機溶剤の入ったガラス瓶を真空にし、ガスと混ぜたときの蒸気圧の値を変えながら応答を確認していきます。

現在は、紙のように薄いカーボンナノチューブの膜を使ったガスセンサーの開発を進めています。センサーは、カーボンナノチューブの電気抵抗がガス分子の吸着によって変化するという性質を利用しています。その仕組みはこうです。ガス分子がナノチューブ同士の接点に吸着すると、周囲の誘電率が変化し、電子が別のナノチューブへ移るために必要なエネルギーが大きくなります。これは、コンデンサーに誘電体を挟むと容量が変わるのと似た現象で、その結果、電気抵抗が変化するのです。この応答は分子の誘電率や大きさといった固有の性質に依存するため、限られた候補の中から分子の種類を判別できる可能性があります。将来的には、有機溶剤を扱う作業現場で使う防毒マスクにセンサーを組み込み、フィルターの寿命を知らせる仕組みの実現をめざしています。室温で動作するカーボンナノチューブは、その用途に最適であり、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のプロジェクトとして実用化に向けた研究を進めていました。

紙状のカーボンナノチューブとは、お皿の上のパスタを思い浮かべてもらって、1本1本のパスタがカーボンナノチューブだとイメージするとわかりやすいです。防護マスクへの応用は、カーボンナノチューブが室温でもガスに反応するという特徴が大きなメリットになります。今使われている半導体式のガスセンサーをマスクの中に入れられるかというと、半導体式のセンサーの場合、応答性を高めるために400度くらいまで加熱する必要があるため無理だからです。一方、カーボンナノチューブであれば、室温、厳密には常温(35度+-15度程度)でも応答し、かつ費用も抑えられます。

また、カーボンナノチューブとは別に、コモンメタルからできる多価イオン電池のメカニズムの解明と開発にも取り組んでおり、研究の比重としてはこちらの方が大きくなります。性能の良さではやはりリチウム電池が一番ですが、資源となるリチウムが採れる場所は偏在しています。そこでポストリチウムとして期待されている「多価イオン電池」にスポットを当てて研究を行っています。マグネシウムやアルミニウムを使った多価イオン電池は、次世代の電池材料として世界中で研究が進められています。私が注目しているのは、紫外線を当てると黒く変色するフォトクロミック材料を利用した電池です。光を当てると見た目が変わるだけでなく、フォトクロ反応により材料の界面に電解質相が形成され、電池として機能するようになるのではないかと考えています。ただし、その反応の詳しい仕組みや化学式はまだ明らかではなく、現在はその原理の解明を進めている段階です。リチウムイオン電池と比べると重量あたりのエネルギーは劣ると考えられますが、多価イオンなので体積あたりのエネルギー密度を高められる可能性があり、新しい蓄電材料として期待しています。

Discover2

リチウムの次はポストリチウム:
多価イオン電池の可能性を探る

スマートフォンやEVに⽋かせないリチウムイオン電池。しかし、リチウムはレアメタルであり、産出国が偏っているため供給リスクがあります。そこで井上先⽣が挑んでいるのが、「多価イオン電池」の開発です。

資源リスクの回避

リチウムに代わる資源で、かつ安価で日本でも調達しやすい材料を使った電池なら、国際的に起こり得る、不測の事態に備えるためにも重要となります。

KEYWORD
#カーボンナノチューブ 
#ガスセンサー研究 #多価イオン電池 
#次世代の電池素材 #微小エネルギー 
#物理化学 
#エネルギー自給率 
#レアメタル供給リスク

理論と予想の域を超えた新しい技術開発。
期待に満ちた発見があるから、
機械工学は面白い。

技術が進歩するにつれ、これまで理論でしか予想されていなかったことが実現できるようになってきました。また、微小エネルギーの獲得といって、量としては非常に小さいけど、未利用のエネルギーを賄えるところに使っていこうという動きもあります。例えば、熱電発電といって、熱エネルギーを直接電力に変換するという面白い技術がありますが、20年以上前から予想されていたものの加工する術がなく、今になって再注目されています。開発中の多価イオン電池は、現時点ではリチウム電池に遠く及びませんが、完全上位互換である必要はありません。それぞれのいいところを合わせてエネルギー自給率を上げ、適材適所で技術を応用し、先入観なく社会に役立つものを創り出せる仕組みづくりが重要です。もちろん研究者として、いつかは何か作ってみたいと思いますが、開発中の技術を次の世代の研究者が発展させてくれることにも大いに期待しています。

井上 修平 教授

※掲載内容は取材時(2025年度)のものです。