工学で挑むSDGs

Message VOL.8

AI技術と
⼈に寄り添う発想で、
未来の製造現場を
デザインする

工学部 情報学科

教授

片岡 隆之

Takayuki Kataoka

「経営情報システム研究室」所属。企業との共同研究を重ね、需要予測などをAI技術で支援。人間とロボットの共創を考慮した近未来型生産システムを研究する。

  • 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 8 働きがいも経済成長も
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
片岡 隆之 教授
POINT
無駄の削減、予測精度の向上など、
情報とAIの力で“あったらいいな”を形にする。
製造現場に新しい付加価値と働きがいを
生み出すことをめざします。

精度の高いシミュレーションや
モデル構築が可能に。
情報をデザインする力が
ものづくりの現場を支えます。

生産活動における効率化や品質向上を工学的にアプローチしていくIE(インダストリアルエンジニアリング)は、日本の高度経済成長期を下支えしてきました。この経営工学に、新たな手法として90年代以降に台頭してきたのが“情報”です。目的は変わりませんが、解決法にAIや数理モデルを用いることで、より精度の高いシミュレーションやモデル構築が可能になり、生産現場をはじめとするさまざまな産業に革新的な変化を生み出しました。今や社会のあらゆる場面で必要とされる情報ですが、“あったらいいな”をどのように形にするかは生産現場や状況によって異なります。そこで本研究室では、できるだけ多くの企業からの相談テーマを共同研究につなげ、それぞれの課題解決までのプロセスを学習させることで、実学を身につけています。既存のアプローチによるシミュレーション実験に加えて、AIの学習機構における新たな組み合わせの発見を模索することは研究意義が大きく、非常に魅力的でもあります。

共同研究では、実際に企業の方が大学に来られて打ち合わせを行うこともあります。学生は議論で出た課題を宿題として検討し、次のディスカッションに向けてシミュレーションを重ねるなど準備を行います。

Discover

鉄を溶かす「エネルギーのムダ」をなくせ!
with 鋳造メーカー

ドロドロに溶けた鉄を型に流し込む「鋳造」(ちゅうぞう)。もし不良品が出れば、また鉄を溶かし直さなければなりません。そこには莫⼤なエネルギーとCO₂のムダが発⽣します。

⽚岡研究室では、AIを使って不良品の発⽣を予測。「温度」「成分」「気圧」など300〜400種類のデータを解析し、「これ以上やると失敗する」という境界線を⾒つけ出します。不良品を減らすことは、そのままSDGsの⽬標となる「エネルギーの節約(SDGs 7)」と「つくる責任(SDGs 12)」に直結するのです。

研究紹介

共同研究の一つに、鋳物製造における不良率の低減に向けた予測モデルの構築があります。これは、広島県府中市にある株式会社北川鉄工所と取り組んでおり、製品の不良率に寄与する要素を選び出すとともに、それらを事前に制御することで不良品の発生を抑えることを目的としています。不良品の発生には、温度や湿度、圧力の強度などさまざまな条件が関係しますが、まずは実際に不良が出た際、何が影響を与えているかを300以上のデータから精査します。データクレンジングといいますが、この条件で製品を作ろうとしたら不良が出るというパターンをAIに学習させ、どう条件を変えれば不良が出ないか予測と制御まで行えるシステムの構築をめざしています。これに関しては、不良品を出さないことによる廃棄ロスはもちろん、この先データを駆使していく時代に、正しいデータを蓄積することで、数年後の生産性向上にもインパクトを与える研究だと考えています。

AIや数理モデルは、統計学的に説明が叶うきれいなデータ=美しいデータを用いることで、その能力を最大限に発揮できます。しかし、実際の現場におけるデータの取り方は人によって違ったり、曖昧なケースが多く、局所的な問題解決には役立ちますが、大規模データを用いた分析には適さないこともあり、そこが研究の課題でもあります。

すでに研究成果を実際の現場に導入し、生産性の向上を実現している事例もあります。その一つが、機械の稼働データをもとにAIが作業内容を自動で判別し、無駄(段取りロス)を見つけ出す仕組みを開発する研究です。この研究では、機械の稼働情報から「段取り (準備作業)」「加工」「非稼働」といった状態をAIが自動で判断し、段取り作業の中にある”許容できない無駄(段取りロス) "をリアルタイムで検出します。この取り組みは、広島県府中市の株式会社内海機械との共同研究として進めているものです。たとえば、ひとつの製品をつくり終えて次の製品を生産するまでの間に機械が止まっている時間があった場合、その時間が本当に必要な準備のためなのか、あるいは短縮できる無駄な時間なのかをAIが分析します。さらに、通常より段取りに時間がかかっているときにはアラート (警告)が出る仕組みを導入。作業の見直しと改善を繰り返すことで生産効率を高め、最終的には企業の受注増加にもつながる成果を上げています。

稼働ログ分析による作業効率化では、まずは稼働実績データを取得し、AIを用いて段取り・加工・非稼働に自動分類します。そこからさらにAIを用いて段取りロスを明確化し、最終的に作業効率化を導き出します。

私たちの役割は、情報をもとにシステムを構築し、生産性や稼働率の向上をめざすことです。しかし、忘れてはならないのは、ものづくりの中心には“人”がいるということです。たとえば、株式会社内海機械の事例では、数値データだけでは見えない人の心理的な要素が、作業に影響を与えていることがわかりました。アラートが出ることで作業者が意識的に動き、結果として成果につながるという、人の行動変化が生産性向上に貢献しているのです。では、私たちの真の役割とは何でしょうか。それは、求める成果に向けて情報や仕組みをどう整理し、どのようにデザインするかにあります。「Human Centered Design (HCD) =人間中心設計」という考え方がありますが、私たちは、使う人の視点を最優先に、システムや社会の仕組みそのものをより良い形に変えていくことを大切にしています。AI技術によって人員や材料といった資源のムダを減らすことができれば、その分、人間にしかできない創造的で人間的な付加価値の高い仕事が増え、働きがいの向上にもつながるのではないかと考えています。

KEYWORD
#AI技術 
#IE(インダストリアルエンジニアリング)
#人間中心設計 #廃棄ロス 
#データ解析 
#情報工学 #産学連携

AIは過去のデータからしか生みだせない
本当に感動するものは人だけが
創りだせるのです。

これまでにない付加価値を生み出すことは、まさに「創造」の世界です。そして、創造的な仕事をするためには、心にも時間にも“余裕”が必要です。たとえば、人間がやっても機械がやっても同じ成果が得られる仕事なら、その部分は機械に任せ、人はもっと豊かな暮らしや新しい価値を生み出す方向に力を注ぐ―――そんな考え方を、私はドイツで学びました。さらに、研究を進めていて強く感じるのは、人間の対応力の高さです。どんなにデータ化や自動化が進んでも、それだけで現場の課題がすべて解決するわけではありません。大切なのは、どこで「人が担う部分」と「デジタルが担う部分」の線引きをするかということです。この線(しきい値)は、時代や環境によって常に変化していきます。だからこそ、その最適なバランスを見極め、人に寄り添った技術を生み出し続けることが、情報分野に携わる私たちの使命であり、これからの企業や社会の成長を支える鍵になると考えています。

片岡 隆之 教授

※掲載内容は取材時(2025年度)のものです。