キャリア
修了生のロールモデル
修了生(薬学研究科・薬科学専攻 2022年度修了)
Q.博士課程へ進学したきっかけをお聞かせください。
A.大学生の頃、医療ビッグデータを用いて、抗血小板薬の副作用に関する研究に取り組んでいました。当時の私は、複数の薬剤をすべて「抗血小板薬」として捉えており、薬剤ごとの特徴や、実際の治療でどのように組み合わせて使われるのかまでは、十分に意識できていませんでした。ところが、5年生の病院実習で、抗血小板薬が、薬剤の特徴や患者さんの病態、背景に応じて使い分けられ、1剤で使用される場合もあれば、複数の薬剤をさまざまな組み合わせで使用される場合もあることを目の当たりにしました。それまで教科書や研究データの中で見ていた薬が、医療現場では患者さん一人ひとりに合わせて選択されていることを実感し、薬の見方だけでなく、研究の見え方も大きく変わりました。
同時に、「臨床を知らないままでは、本当に医療に役立つ研究はできないかもしれない」と、悔しさも感じました。研究をもっと続けたい。でも、病院でも働いて実臨床を思う存分学びたい。そんな私にとって、大学院で研究を続けながら、病院薬剤師として臨床経験を積むことのできる「連携大学院」は、まさに夢のような進路でした。
「研究も臨床も、どちらも諦めなくていい。これは私のためのコースだ!」と思い、迷わず進学を決めました。
Q.現在のお勤め先について、どのようなお仕事をされているか、お聞かせください。
A.現在は、母校である近畿大学薬学部で教員として、学生の教育と研究に携わっています。
教育では、病院薬剤師として働いた経験をもとに、講義や学内実習、病院・薬局での実務実習に臨む学生の指導などを担当しています。薬の知識を教えるだけでなく、医療現場での薬剤師の役割や、患者さん一人ひとりに応じて考えることの大切さを後輩たちに伝えています。かつて自分が学んだ場所で、今度は教員として学生の成長を支えられることに、大きなやりがいを感じています。
研究では、大学生の頃から取り組んできた医療ビッグデータを活用し、医薬品の安全性や有効性、薬物間相互作用、医療費などについて研究しています。医療ビッグデータには、実際の医療現場で行われた膨大な診療の記録が蓄積されています。その中から、まだ明らかになっていない薬の特徴や課題を見つけ出し、より安全で適切な薬物治療につなげることを目指しています。
臨床で得た視点を研究に活かし、研究で得た知識や考え方を教育に還元できることが、この仕事の魅力です。
Q.博士課程で培った能力が、現在どのように活きているか、お聞かせください。
A.博士課程で培った力の一つは、臨床で生じた疑問を、研究によって検証できる「問い」に変える力です。連携大学院では、一人ひとりの患者さんに向き合う臨床と、多くの患者さんのデータを俯瞰する研究の両方を経験しました。
そのため、解析結果だけを見るのではなく、その背景にある患者さんの病態や治療経過を想像し、研究の限界も踏まえて、結果が臨床でどのような意味を持つのかを考えられるようになりました。現在はこの視点を研究に活かすとともに、学生にも、知識を覚えるだけでなく、臨床で疑問を持ち、根拠をもとに考えることの大切さを伝えています。
Q.今後のご自身の目標や、博士課程への進学を検討している方へのメッセージがあればお聞かせください。
A.今後は、医療ビッグデータと病院薬剤師として培った臨床の視点を活かし、医療現場で生まれた疑問を、より安全で適切な薬物治療につなげる研究を進めていきたいと考えています。研究によって新たな根拠を生み出し、教育を通して、その根拠を患者さんに届けられる薬剤師や研究者を育てる。研究と教育の両輪を通して、より多くの患者さんが安心して医療を受けられる未来に貢献することが、私の目標です。
博士課程と聞くと、研究が大好きな人や、特別に優秀な人だけが進むところというイメージがあるかもしれません。しかし、私が進学を決めたきっかけは、病院実習で感じた「もっと臨床を知りたい」「患者さんのためになる研究がしたい」という純粋な気持ちでした。
医療現場では、十分なエビデンスがない場面でも、患者さんの状態やこれまでの経験を踏まえ、「こちらの治療の方がよいのではないか」と考え、医師に提案することがあります。大学院では、そうした臨床での気づきや疑問を、そこで終わらせず、自分の手で確かめることができます。
「本当にこの治療の方がよいのだろうか」「ほかの患者さんにも役立つのだろうか」そんな疑問を研究課題に変え、基礎実験や臨床研究など、その疑問に合った方法で検証し、新たな根拠を生み出す。大学院は、すでにある答えを学ぶだけでなく、まだ誰も知らない答えを自分で探しにいける場所です。私は、そこに研究の一番の面白さがあると思っています。
もちろん、研究が思うように進まず、悩むこともあります。それでも、何度も試行錯誤した先で、自分の研究から新しいことが明らかになった瞬間の喜びは、博士課程だからこそ味わえるものです。
私にとって連携大学院は、研究か臨床かのどちらかを選ぶのではなく、臨床で感じた疑問を研究につなげ、研究で得られた成果を再び臨床へ還元できる場所でした。「なぜだろう」「もっとよい方法があるのではないか」という小さな疑問が、研究の出発点になります。「もっと知りたい」「自分で確かめてみたい」という気持ちがある方には、ぜひその好奇心を大切にしてほしいと思います。その疑問が、いつか多くの患者さんを支える新しい根拠になるかもしれません。

修了生(薬学研究科・薬科学専攻 2021年度修了)
Q.博士課程へ進学したきっかけをお聞かせください。
A.率直に言えば、「大学院で人生を変えたい」と思ったことがきっかけです。学部時代の私は、何かに熱中して取り組んだという経験がなく、学生生活で大きく成長したという実感もありませんでした。就職活動でも、自分の強みが何なのか分からず、思うような結果も得られませんでした。自分は社会から必要とされていないのではないかと落ち込んだ時期もあります。でも、もしかしたら大学院進学は自分を変えるチャンスかもしれない。研究という一つのことに本気で向き合い、自分を成長させることができるかもしれない。当時そう考えたことを今でも鮮明に覚えています。
Q.現在のお勤め先について、どのようなお仕事をされているか、お聞かせください。
A.現在は、国立研究開発法人理化学研究所の研究員として、免疫学の研究を行っています。具体的には、がんや感染症に対する防御を担う記憶T細胞が、どのように分化し、維持されるのか、その仕組みの解明に取り組んでいます。理化学研究所は国内で唯一の自然科学総合研究所で、国内外から多くの研究者が集まり、最先端の研究が日々行われています。研究に必要な設備や環境も充実しており、第一線で活躍する研究者と切磋琢磨しながら研究できることに、大きなやりがいを感じています。まだまだ研究者としては若手ですが、少しでも免疫学の発展に貢献できるよう邁進していきたいと思っています。
Q.博士課程で培った能力が、現在どのように活きているか、お聞かせください。
A.研究者として仕事をしている以上、博士課程で経験したことの一つひとつが、現在の仕事の基礎になっていると感じています。その中でも、特に博士課程で身についたのは挑戦する姿勢です。博士課程では研究を自ら計画し、実験を行い、結果を考察し、最終的には学術論文として公表するという長いプロジェクトを、自分の責任で進めていく必要があります。すなわち、何を学び、どのような研究者になるかは、自分の行動に大きくかかっています。私は博士課程でケモカイン受容体CCR4による乾癬病態形成機構について研究していました。その過程で、乾癬の再発における記憶T細胞の重要性に着目し、新たな研究計画を立案し実験系を構築しました。結果として仮説どおりには進みませんでしたが、新しいテーマに挑戦した経験が、現在の記憶T細胞研究につながっています。
Q.今後のご自身の目標や、博士課程への進学を検討している方へのメッセージがあればお聞かせください。
A.博士課程の最終試験で、「あなたの研究哲学は何ですか」と質問されました。当時の私は質問の意図が理解できず、主査の先生が納得できる答えを返すことができませんでした。正直、今でもはっきりとした答えを持っていません。しかし、こうして振り返ると、博士課程とは研究者として専門知識や研究技術を身につけるだけではなく、自分は何を明らかにしたいのか、どのような姿勢で課題や仕事と向き合うのかという、研究の枠を超えて自分の生き方を見つける時間でもあったように思います。実際に、大学院進学をきっかけに、研究者としてだけでなく人としても大きく成長できたと感じています。これからさらに成長したい、自分の可能性を広げたいと考えている方には、ぜひ博士課程を進路の一つとして考えてみてほしいと思います。博士課程は決して楽な道ではありませんが、自分自身の軸となるようなものがきっと見つかると思います。