NEWS RELEASENEWSRELEASE

ルミノール反応による便潜血の検出法を確立 法医学で血痕検出に用いられる試薬の応用

2018.08.25

ルミノール反応による発光の違い正常マウス(左)と小腸潰瘍マウス(右)の糞便

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)微生物学教室 講師 朴雅美らの研究グループは、マウスを使った実験により、便に含まれる微量の血液である便潜血について、ルミノール試薬を用いて検出する手法を確立しました。動物実験における安価で簡単な検出方法の確立により、今後は胃潰瘍や大腸がんなどの研究が進展することが期待されます。本研究成果は、平成30年(2018年)8月24日(金)に、科学雑誌「BioTechniques」にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●ルミノール試薬が便潜血の検出に有用であることを発見
●従来の便潜血検出試薬で課題とされてきた、便に含まれる潜血の量が分からない、高価であるなどの問題を解決する画期的な手法
●胃潰瘍や大腸がんなどの動物実験における標準的な手法となり、薬や治療法の研究に役立つことが期待される

【本件の概要】
便潜血とは、便に含まれる肉眼では分からない微量の血液のことで、胃潰瘍や大腸がんなどで消化管から出血した場合などにあらわれます。これまでも便潜血を検出する試薬はあったものの、便に含まれる潜血の量が分からない、高価であるなどの課題がありました。
今回、犯罪捜査で血痕の有無を青い発光で検出する方法としてよく知られている、ルミノールの血液に対する検出感度の高さに着目し、便潜血の検出への応用を考えました。
本研究では、マウスの小腸潰瘍モデルを用いて、ルミノール試薬を使った便潜血の検出とその発光強度の測定を行い、この試薬が非常に優れた感度と定量性を持つことを明らかにしました。さらに、この手法を普遍的に使用できるように、留意点や混ぜるべきでない溶液などを調べ、標準的手法を確立しました。
本研究成果により、動物実験において、便潜血の検査が簡単かつ安価に実施できることとなります。胃潰瘍や大腸がん等の研究に貢献するとともに、今後は人の便潜血の検査に応用されることが期待されます。

【研究詳細・論文について】
本研究では、マウスの小腸潰瘍モデルを作成するために痛み止めの薬であるインドメタシンをマウスに投与しました。その後1時間毎に便を採取し、ルミノール試薬を加え、暗所にて青い発光の有無を確認しました。その結果、4時間以後で発光が確認できました。
また、便の一部を水で懸濁し、その上澄み液とルミノール試薬を加え測定装置にて発光強度を測定することで血液量を測定することができました。この測定では実験でよく用いられるリン酸緩衝液(PBS)が測定値を下げることなども明らかにし、便中血液量の測定に最適な種々の条件を決定し、報告しました。
本研究論文はイギリスの科学雑誌「BioTechniques, August 2018」(インパクトファクター2.03)に、「Forensic luminol reaction for detecting fecal occult blood in experimental mice(法医学にて使われるルミノール反応を便潜血の検出に応用)」として掲載されました。

【本件の背景】
人の便潜血の測定にはグアイアックテストと免疫化学的手法の2種類が一般的に用いられています。グアイアックテストは比色法で簡便ではあるものの定量性がなく、他の因子の影響を受けやすいなどのデメリットがあります。免疫化学的手法はヘモグロビンに対する抗体を用いる方法で高感度かつ定量性はあるものの、高価であるというデメリットがあります。これらの方法を動物実験に用いるには上記のようなデメリットのため汎用されることがなく、多くの研究者は便の目視による判定に頼っていました。しかし、目視でわかるレベルの血便は重度の潰瘍が起きている状況であり、軽度なものは見逃してしまいます。こういったことから、実験動物での便潜血を安価で簡便に測定できる方法が求められていました。

【今後の展開・期待すること】
本研究で見出したルミノール試薬を用いた便潜血測定法は、安い・速い・感度が良い・定量可能である、という多くの利点があり、実験動物を用いた消化器の潰瘍・癌研究の標準的な手法となりうると考えます。しかし、このルミノール試薬による便潜血の測定を人へと応用するには、少しハードルがあります。それはこの試薬はわさびなどの食物由来の成分によって影響を受ける場合があるためです。この問題を解決できれば、より広く利用可能となるなど、今後の展開が期待できます。

【研究者プロフィール】
医学部医学科微生物学教室医学部講師 朴 雅美(ぱく あみ)
学 位:博士(医学)
専 門:微生物学・フリーラジカル
受賞歴:米国メトロポリタン DC 胸部協会年次総会最優秀賞
    第38回日本炎症・再生医学会 優秀演題賞 など
著 書:「酸化ストレス・レドックスの生化学」(共著) など

【関連リンク】
医学部医学科 講師 朴 雅美(パク アミ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1601-ah-mee-park.html

関連URL:https://www.kindai.ac.jp/medicine/