近大理工通信

令和8年度 近大理工通信(第6号)

令和8年10月5日

コラム

超高層大気をレントゲンの原理で観測するX線カメラ「SUIM」が宇宙へ

超高層大気専用エックス線カメラ「SUIM」実物の写真
超高層大気専用エックス線カメラ「SUIM」実物の写真
イージスエアロスペース社(米国テキサス州ヒューストン)でのSUIM引き渡しの様子(中央が信川)
イージスエアロスペース社(米国テキサス州ヒューストン)でのSUIM引き渡しの様子(中央が信川)

理学科物理学コースの信川久実子准教授と学生らの研究グループは、株式会社エクセディと共同で、超高層大気を国際宇宙ステーション(ISS)から観測する独自のX線カメラ「SUIM(Soipix for observing Upper atmosphere as Iss experiment Mission)」を開発しました。

「SUIM」は、米国イージス・エアロスペース社が運用する、国際宇宙ステーションの宇宙実験装置「MISSE」に搭載されます。2025年12月には、米国テキサス州ヒューストンに所在する同社を訪問し、三井物産エアロスペース社の支援のもと、「SUIM」の引き渡しを行いました。、「SUIM」を搭載した「MISSE-22」は、2026年5月16日(土)午前7時5分(日本時間)に米国フロリダ州ケープカナベラル空軍基地からSpaceX CRS-34によって打ち上げられ、翌17日(日)に国際宇宙ステーションへ到着しました。2026年度内に国際宇宙ステーションの船外に設置され、約6カ月間にわたって運用される予定です。

「SUIM」プロジェクトには、大きく3つの目的があります。

1つ目は、これまで観測データが乏しかった高度約100kmの超高層大気を観測することです。この高度の大気は、地球温暖化による影響と、太陽活動など宇宙からの影響の双方を受けています。「SUIM」では、宇宙X線が大気を透過する際に受ける吸収量から大気の密度を測定します。これはレントゲンの原理と同じです。本研究によって得られる観測データは、気候変動の理解を深めるとともに、今後ますます需要が高まる「宇宙天気予報」の高度化にも役立つことが期待されます。

2つ目は、独自に開発している半導体イメージセンサーの宇宙実証です。「SUIM」には、近畿大学、宮崎大学、京都大学などが共同で開発した独自のX線イメージセンサー「SOIPIX(ソイピックス)」が搭載されています。「SOIPIX」は、常温でも高いX線感度を有することが特長で、本プロジェクトが初めての宇宙実証となります。また、「SUIM」は約6カ月間の運用終了後、地球へ返還される予定です。宇宙環境にさらされた後のセンサーの性能を評価することで、次世代のX線カメラ開発にもつなげていきます。

3つ目は、人材育成です。これまでに信川研究室の学部生・大学院生10名以上が「SUIM」の開発に主体的に携わってきました。自ら開発に携わった観測装置が実際に宇宙へ行く経験は、学生にとって非常に貴重であり、学びへの大きなモチベーションになっています。信川研究室の学生は理学科・理学専攻で学んでいるため、これまで本格的なものづくりを経験する機会がほとんどありませんでした。しかし、株式会社エクセディとの共同研究を通じて、プロの技術者とともに装置の開発・製作に取り組むことで、ものづくりに対する考え方や技術、仕事に向き合う姿勢を直接学ぶことができました。また、多様なキャリアや経験を持つ方々との交流を通じて、自身の将来やキャリアについて視野を広げるきっかけにもなり、専門的な知識や技術の習得にとどまらない、広い意味での人材育成につながっています。

多くの学生や研究者、企業の技術者が力を合わせて開発してきた「SUIM」が、宇宙からどのような成果を届けてくれるのか、今後の活躍が楽しみです。

(理学科物理学コース 信川 久実子)

理学科物理学コースに着任して

今年度から近畿大学に着任しました、大下と申します。これまで重力や宇宙に関する理論研究を行ってきました。現在は主に、ブラックホールから生じる重力波について理論的な研究をしています。

アインシュタインの一般相対性理論は、現代の私たちの生活とも意外なほど身近なところで関わっています。例えばGPSでは、地球の重力による時間の進み方の違いを一般相対論に基づいて補正することで、正確な位置情報を得ています。その意味では、地球周辺の比較的弱い重力について、一般相対論は極めてよく検証されていると言えるでしょう。

では、重力が極限まで強くなったブラックホールの近くではどうでしょうか。そこでも本当にアインシュタインの理論は正しいのでしょうか。現在では、LIGO・Virgo・KAGRA collaborationによって、ブラックホール連星が合体するときに放出される重力波が数多く観測されています。観測された波形を正確に理解するための理論モデルを構築し、理論予言と観測結果を比較することは、ブラックホール近傍という極限環境で重力(つまり時空の物理)を検証する上で非常に重要です。私はこうした問題を中心に研究を進めています。

私自身は2019年に東京大学で博士号を取得し、その後、妻と当時まだ生後半年ほどだった息子と一緒に、最初のポスドク先であるカナダのペリメーター理論物理学研究所へ渡りました。家族とともに異国の地で暮らしながら研究をする日々は、今振り返っても新鮮な経験の連続でした。ところが、その約一年後には新型コロナウイルスの流行が始まり、カナダで過ごした最後の一年ほどは、ほとんどロックダウンの中で研究生活を送ることになりました。

「この先いったいどうなるのだろう」と思いながら帰国し、その後は理化学研究所の数理創造プログラム(現:数理創造研究センター)や京都大学の白眉センター・基礎物理学研究所などで研究を続けました。この時期に(そして現在も)大きく世の中を変えたものがAIです。研究に使えるAIの性能が急速に向上し、論文を読む、文章を書く、プログラムを作る、アイデアを整理するといった研究の営みも大きく変わりつつあります。コロナ禍をきっかけに定着したオンラインでの議論や研究会とあわせて、研究の進め方そのものが、ほんの数年前とはかなり違ったものになったと感じています。

私が研究対象としているブラックホールや重力物理学の分野自体も、重力波観測の発展とともに目まぐるしく変化しています。研究の生産性が飛躍的に向上する一方で、AIをどのように利用すべきか、人と人との議論にはどのような価値があるのか、そして大学では何をどのように教えるべきなのか、新しい課題も次々と現れています。

この秋からは、重力物理学研究室にも学生が配属されます。これからどのような時代になるのか、研究や教育の形がどのように変わっていくのか、私にもまだ分かりません。だからこそ、学生の皆さんと楽しく研究やゼミに取り組みながら、ときには一緒に試行錯誤し、新しい時代に合った教育と研究のあり方を考えていければと思っています。近畿大学でこれからどのような研究や出会いが生まれるのか、楽しみにしています。

(理学科物理学コース 大下 翔誉)

応用化学科に着任して

 2026年4月に応用化学科に着任いたしました、菊嶌 孝太郎(きくしま こうたろう)と申します。このたび、理工通信への寄稿の機会をいただき、私の経歴や専門・研究についてご紹介させていただきます。
 私はこれまでに国内外の複数の大学に所属し、有機合成をベースとした研究・教育に取り組んでまいりました。長らく助教を務めてまいりましたが、この度、研究室主宰者として本学にお迎えいただいたことを大変嬉しく思うとともに、温かく迎えてくださった関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
 私の専門は有機合成化学およびグリーンサスティナブルケミストリーです。有機合成は、新たな材料や医農薬を創出する上で基礎となるプロセスであり、人類の豊かな暮らしに直結する分野です。しかし、この分野は成熟しつつある現在においても、「合成未達成の有機化合物の構築」「多段階を要する合成プロセスの短縮」「高毒性・高価な試薬に依存しない持続可能な手法への刷新」など、多くの課題を残しています。私はこれらを長期的に取り組むべきグランドチャレンジと捉え、特に含フッ素有機化合物の新規合成法開発や、希少金属に頼らない環境低負荷型結合形成法の開拓に取り組んでいます。さらに、単に物質を合成するだけでなく、環境破壊物質や廃棄物を分解して元素循環させる「アップサイクルシステム」の構築にも注力しています。こうした研究成果を活かし、当研究室で創出した機能性化合物の他分野(有機材料・ケミカルバイオロジーなど)への提供や、他研究室で開発された新規触媒の用途開拓なども含めて、学内連携にも積極的に取り組んでいきたいと考えております。
 本学に着任して強く実感したことは、学生の皆さんの元気さと意欲の高さです。現在、当研究室には5名の学部生が所属しています。先輩がいない状態でのスタートではありましたが、自ら調べ、互いに相談しながら日々熱心に実験に励んでいます。先日の卒業研究中間発表会では、完成度が高く工夫を凝らした発表内容に大変驚かされました。
 学生の進路は様々ですが、研究活動を通じて論理的思考力や伝える力、そして自身の課題に向き合う真摯な姿勢を身につけてほしいと願っております。研究の過程には辛いこともありますが、それを乗り越えた先にある「研究の面白さやワクワク感」をぜひ実感していただきたいと考えています。自身の幸せや将来、ご家族を大切にしながら、社会に大きく貢献できる人材へと成長していただければ、教員としてこれ以上の喜びはありません。
 最後になりますが、講義の準備や研究室の立ち上げにあたり、温かくご指導・ご支援を賜りました学科長や応用化学科の先生方、ならびに事務スタッフの皆様に深く御礼申し上げます。研究と教育、そして人材育成を通じて近畿大学ならびに社会の発展に貢献できるよう尽力してまいります。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

(応用化学科 菊嶌 孝太郎)

令和8年4月 エネルギー理工学専攻開設

図1. エネルギー物質学科からエネルギー理工学専攻への教育・研究の流れ
図1. エネルギー物質学科からエネルギー理工学専攻への教育・研究の流れ
図2. エネルギー理工学専攻における教育
図2. エネルギー理工学専攻における教育

令和8年4月、総合理工学研究科に「エネルギー理工学専攻」が誕生しました。本専攻が養成を目指すのは、「エネルギー3分野のいずれかにおける広範な知識と専門性を備え、論理的思考力、倫理観、柔軟性、情報発信能力、コミュニケーション能力に裏打ちされた課題解決能力を有し、エネルギーに関わる基礎研究・技術開発・高等教育に寄与する人材」です。本稿では、基盤となるエネルギー物質学科、そしてエネルギー理工学専攻の設置申請に携わってきた立場から、学科のこれまでの歩みを振り返りつつ、新専攻についてご紹介いたします。
エネルギー物質学科は、令和4年4月に開設しました。そろそろ「エネ物」という略称も浸透してきたのではないかと思います。ほとんど広報活動もない中、果たして受験してくれる人はいるのだろうか、そんな不安に満ちたスタートでしたが、一期生の皆さんは、それぞれの思いを胸に集ってくれました。
機電系・化学系・生命系を網羅する学科ですので、まずは物理・化学・生物を幅広く学び、基礎固めに励んでもらいました。「どうして、やりたくもない科目をやらなければいけないのか」と思った人も多かったようです。ただ、「食べてみなければ、美味しいか不味いかは分からない」というのが我々のスタンスでしたので、学生も教員も根気強く取り組んできました。
その過程を経たからこそ、学生の皆さんは自分の得意・不得意を知り、学科の教育と研究の3本柱である「社会のエネルギー」「生命のエネルギー」「エネルギー技術のためのマテリアル」の中から、自分が興味をもって取り組める領域を選んでくれたのだと思います。そして3年後期からは研究室に配属されて卒業研究に熱心に取り組み、この3月、無事に卒業の日を迎えました。
さて、大学院の話に戻ります。エネ物一期生には、入学当初から大学院への進学を推奨してきました。エネ物には3~5セメスターにもゼミがありますので、そこでのキャリア教育でも、事あるごとに大学院について話すようにしてきました。もちろん当時は、学科に直結する専攻はありません。それでも、「安心して進学を考えてほしい」と、半ば自分自身にプレッシャーをかけるように学生に伝え続けながら、新たな専攻の構想を急ぎました(図1)。
考えるべきことは多々ありましたが、何はともあれ、まずは専攻名です。そもそも学科名を「エネルギー物質学科」としたのは、機電系・化学系・生命系のすべてを扱うという特徴を、「エネルギー」という言葉だけでは十分に包含できないと考えたからでした。高校生にとって「エネルギー」からまず連想されるのは物理学です。そのため、化学と生命科学の寄与を言葉で示すには、「物質」というキーワードが不可欠でした。一方、学生の皆さんは、我々と4年間を過ごす中で、「エネルギーといえば、その背後には多様な物質の世界がある」ということを十分に体得してくれます。そこで大学院では、よりシンプルに、そして「エネルギーに関わる理論の探究と技術の創出」を強調する名称として、「エネルギー理工学専攻」としました。
本専攻のカリキュラムの特徴は以下の通りです(図2)。特論科目は「次世代インフラエネルギー理工学」「ライフデバイスエネルギー理工学」「エネルギーマテリアル理工学」の3分野に分類されており、それぞれの分野に「総論」科目を設けています。学生は3つの総論から1つを選択し、学部で修得した専門知識を整理・体系化したうえで、より高度な学びへと進みます。また、専門知識だけでなく、トランスファラブルスキルの修得にも重点を置いています。その中心となるのが、「エネルギー理工学総合演習1」(M1前期)と「エネルギー理工学総合演習2」(M1後期)です。研究室内での活動にとどまらず、自らの研究内容を専攻の大学院生・教員全員の前で発表し、質疑応答を行います。M2の学生も特別研究の一環として参加しており、毎週金曜日の5限には、分野の垣根を越えた活発な議論が繰り広げられています。
幸い、一期生のおよそ4割が大学院へ進学してくれました。皆さん、それぞれの研究と勉学に励むとともに、TAとして後輩たちと接し、自らの姿を通して大学院で学ぶことの魅力を伝えてくれています。
そして、次に目指すのは博士後期課程の設置です。
エネルギー物質学科からエネルギー理工学専攻へ。学部から大学院へとつながる教育・研究の場が、ようやく一つの形になり始めました。今後のさらなる発展に、ぜひご期待ください。
 

(エネルギー物質学科・エネルギー理工学専攻 須藤 篤)

エネルギー物質学科着任に際して

令和8年4月、理工学部エネルギー物質学科に着任しました、大宅諒(おおや まこと)と申します。私の専門分野は「核融合」です。「夢のエネルギー」とも呼ばれる核融合発電の実現を目指して、研究をしております。近鉄長瀬駅のホームにも、「核融合」という言葉を使った広告があり、産業化への期待が膨らむなか、実現に向けて前進しているのを日々感じております。

私は、その核融合分野の中でも「核融合炉の壁材料」に関する研究を行っております。核融合プラズマを入れる容器の壁は、エネルギーの取出しの要になるだけでなく、1億度のプラズマから様々な影響を受けます。プラズマは密度が低いので、壁表面の温度が1億度になるわけではありません(サウナの室温は80~90度ですが火傷はしないのと同じ)が、数千度には到達します。また、燃料である水素同位体が蓄積するなど、プラズマに面する壁は、核融合炉の経済性・安定性に強い影響を与えます。エネルギー物質学科には、同じ研究分野の研究者として先達であり、出身大学の大先輩である渥美寿雄先生、前任校の先輩である大塚哲平先生がおられます。両先生に日々ご助力いただきながら、新しい研究環境の準備に励んでおります。

着任後に早速、1年生対象の「基礎物理学実験」という実験科目を担当しました。新生活に期待しながら、生き生きと実験に取り組む学生たちの姿が印象的でした。そのような姿に私も刺激を受け、学生たちが取り組みやすいよう、授業の進め方を工夫しています。先日は、新任教員FDの「授業づくりワークショップ」に参加しました。これまでの教育経験を振り返りつつ、授業の設計などを学びました。また、他学部の先生とのグループワークを通じて、それぞれの学部ならではの強みや悩みを共有し、自分の授業を冷静に考えることができました。

大学卒業後、9年ぶりに大阪に戻ってまいりました。その間、コロナ禍の発生と収束、大阪・関西万国博覧会の開催、Osaka Metroの民営化、梅田の大規模再開発など、様々なことがありました。懐かしさがありつつも、約10年の変化を感じ、新鮮な気持ちがあります。「初心忘るべからず」という言葉がありますが、今まさにその「初心」を感じているところです。この気持ちを忘れずに、これから教育・研究に励みたいと思います。

(エネルギー物質学科 大宅 諒)