近大理工通信

令和4年度 近大理工通信(第2号)

令和4年10月7日発行

教育・研究

2種類の超流動体の界面模様の形成機構を解明:
学生による研究成果がアメリカ物理学会刊行の“Physics Magazine”に、ニュースとして取り上げられました。

2種類の超流動体(赤と青の領域)の界面(黄緑)が形成する様々な模様を表した数値シミュレーション結果
2種類の超流動体(赤と青の領域)の界面(黄緑)が形成する様々な模様を表した数値シミュレーション結果

 密度などが違う2種類の流体が接していて、お互いの流れる速度が異なる場合、その境界面には波が発生することが知られています。この現象は「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」と呼ばれ、空に浮かぶ波状雲や木星の渦巻き模様が発生する仕組みとして理解されています。このような現象を流体の粘性が消失した超流動体を用いて研究することによって、流体力学の基本的な理解をミクロの物理法則である量子力学の領域にまで拡張させることができます。
 本研究では、超流動体のケルビン・ヘルムホルツ不安定性に関して系統的な数値シミュレーション解析を実施し、不安定性によって生じる界面模様の挙動が、古典流体力学で知られる模様から、古典流体では見られない量子流体力学特有の模様に変化する様子を明らかにしました。また、その変化が「ウェーバー数」と呼ばれる普遍定数によって特徴付けられることを理論的に示しました。
 この研究は近畿大学大学院総合理工学研究科前期博士課程の小久保治哉君(現在、後期博士課程1年)が行なった数値シミュレーションが主たる内容となっており、物理学で最も著名な雑誌である、アメリカ物理学会刊行のPhysical Review A 誌に令和3年(2021年)8月14日に掲載されました。また、アメリカ物理学会刊行のオンラインマガジン “Physics Magazine” に、ニュースとして取り上げられました。

掲載論文:Pattern formation of quantum Kelvin-Helmholtz instability in binary superfluids
Newsの記事:Superfluid Interface Mixes Classical and Quantum Behavior
本学プレスリリース:世界初!2種類の超流動体の界面模様の形成機構を解明 量子流体力学の発展につながる研究成果

(理学科物理学コース 笠松 健一)

理学科化学コース 森澤勇介 准教授が二国間交流事業オープンパートナーシップ共同研究に採択(独立行政法人日本学術振興会)

 森澤勇介 准教授が独立行政法人日本学術振興会の二国間交流事業オープンパートナーシップ共同研究に採択されました。実施期間は2年間の2022年4月~2024年3月です。
 研究タイトルは「遠紫外-シンクロトロン連続放射光共鳴ラマン分光法による細胞中生体分子の非破壊分析」です。イタリアとの海外共同研究を推進していきます。
 

(理学科化学コース 若林 知成)

理学科化学コース 杉本邦久 教授が学術変革領域研究(A)の計画研究の研究代表者として採択

 理学科化学コースの杉本邦久 教授が参画している学術変革領域研究(A) 研究領域「超セラミックス:分子が拓く無機材料のフロンティア」が採択され、杉本教授は計画研究の研究代表者として革新的な特性や機能を有する新材料の創製を目指します。
杉本 教授のテーマ「超セラミックスの高度構造解析」
研究期間2022年06月16日~2027年03月31日
今後の最新の研究成果が期待されます。
 

(理学科化学コース 黒田 孝義)

世界がキャンパス!! 応用化学科, ZOOMによるリアルタイム海外バーチャル留学・学生目線による近大紹介英語動画の作成

インスブルックをリアルタイム散策中:キャンパスから見たアルプス
インスブルックをリアルタイム散策中:キャンパスから見たアルプス
ZOOMを用いての国際交流
ZOOMを用いての国際交流
First Year in RIKO
First Year in RIKO

 近畿大学理工学部教育改革・学生支援プロジェクト「国際的学士・修士育成のための国際横断グローバルプロジェクト」(代表:応用化学科准教授 今井喜胤)において、応用化学科、物質系工学専攻の学生を対象に、ZOOMなどのオンラインツールを活用したリアルタイム海外バーチャル留学を行いました。
 本プロジェクトは、応用化学科において専門的な「科学技術英語」を担当する今井、中井英隆准教授と教養・基礎教育部門の照井雅子准教授とのコラボレーションによって実施され、これからの分野横断的な教育プログラムの一例となると考えています。
 まず、リアルタイム海外バーチャル留学として、 (1)「オンライン海外大学訪問」を行いました。理工学部の卒業生である上野那美博士の案内でオーストリアのインスブルック大学を、理工学部4年生の土谷さくらさんが留学中だったロシアのITMO大学をオンライン訪問しました。いずれも、ZOOMでリアルタイム中継しながら、大学さらには街へ繰り出し市街地を案内していただきました。 (2)「オンライン海外研究室訪問」では、企業研究者に御協力いただき、ドイツのミュンヘン工科大学の研究室を見学しました。実際の化学系実験室や測定室などをリアルタイムで案内いただきました。続いて、(3)「オンライン海外国際交流」として、「海外大学訪問」を実施したインスブルック大学の日本に興味を持つ研究室学生と、大学生活をテーマに、お互いスライドを使いながらリアルタイム国際交流を行いました。最後に、(4)「オンライン海外企業訪問」として、香港の企業経営者に、香港の様子や世界展開しているSDGs事業についての講演を依頼しました。ほとんどの学生が、遠く離れた海外の現在の様子をリアルタイムでZOOM視聴した経験は初めてであり、非常に高揚感に包まれた授業を展開できました。
 上記国際交流を行う中で、より円滑な学生間交流を行うため、理工学部応用化学科卒業生の黒田理恵さん、LI YUCHENG君、応用化学科4年生の鈴木聖香さんによる、学生目線の「近畿大学」、「理工学部」、「研究室の研究内容」を海外学生に紹介する3篇の英語国際交流動画を制作しました。それぞれの動画には、英語字幕版、日本語字幕版、字幕無し版があり、英語が苦手な日本人学生にも理解しやすいよう工夫しました。英語での紹介原稿や英語字幕には1年生を対象とした理工学部オリジナルの英語教科書『First Year in RIKO』を活用し、照井先生と科学技術英語教育・研究の第一人者である野口ジュディー神戸学院大学名誉教授が担当し、動画公開にあたっては教養・基礎教育部門のジョージ・トラスコット先生とナサニエル・ルドルフ先生に御協力をいただきました。そのため、Ice Breakerとしての役割に加え、英語教育におけるリスニング教材としても利用できる動画が完成しました。なお、本動画は、近畿大学の公式YouTubeチャンネルで公開されており、何かのイベントに御自由にお使いいただくことが可能となっています。
 2022年度は、新たに教養・基礎教育部門の荒木瑞夫教授、吉田諭史講師、三木浩平特任講師にも御協力いただき、応用化学科の学生を含む理工学部1年生が、台湾とインドネシアの大学生とのZOOMによるリアルタイム国際交流を予定しています。
 最後に、本プロジェクトは、理工学部学生センター、応用化学科の多大なる協力のもと、近畿大学教育改革・学生支援プロジェクト助成金によって実施されました。ここに感謝申し上げます。

 記事の中で紹介した動画のリンクとQRコードです。是非ともご覧ください。
 https://www.youtube.com/playlist?list=PLXPQjLdXyX272qNCsr_2sYWv4ufsGfVVa


(応用化学科 今井 喜胤)

スペイン・バレンシア大学での在外研究報告

 近畿大学の在外研究制度を利用して、2021年4月から2022年3月までスペイン国バレンシア州にあるバレンシア大学に留学しました。バレンシア州はイベリア半島の地中海沿い中ほどに位置し、バレンシア大学は州都であるバレンシア市内および近郊にある総合大学です。ただし、バレンシア市内にあるのはいわゆる文系の学部で、私が留学した研究室はInstituto de Ciencia Molecular(分子科学研究所)に所属しており、市内からトラムで20分ほどのBurjassotという町にありました。(ちょうど大阪市内と東大阪キャンパスとの位置関係くらいです) 研究室のリーダーはHendrik (Henk) J. Bolink教授で、もともとは有機LEDの研究をしておられましたが、最近は有機無機ペロブスカイト太陽電池の研究を精力的に進めています。特に、真空蒸着法を用いたペロブスカイト太陽電池の作製について優れた研究を発表しており、今回の留学の目的のひとつは、このペロブスカイト太陽電池作製技術を学ぶことでした。
 Henk研究室のメンバーはHenk先生に加えて、サブリーダー4名、ポスドク2名、技官1名、秘書1名、博士課程学生11名となかなかの大きさのグループでした。国籍もHenk先生がオランダ人なのをはじめ、スペイン、イタリア、ドイツ、セルビア、イラン、インド、アメリカ、ブラジル、韓国と非常に国際色豊かでした。日本(私)を入れると11か国で、これはヨーロッパの大学の研究室でもかなり多様な方だと思います。おかげで私の拙い英語でも気兼ねなく話せる雰囲気があり助かりました。(とはいえ、雑談などはスペイン語が主流になり、ついていけないことも多々ありましたが)また、Henk研究室のアクティビティを支える研究設備は非常に充実していました。研究室専用のクリーンルームがあり、その中で真空蒸着装置付きのグローブボックスが複数利用可能で、大気曝露無しで太陽電池を作製することが可能でした。太陽電池の評価用観測機器も種々所有していて、一研究室の設備でここまで揃っているところはなかなか無いのではと驚きました。Henk先生にどうやってこれらの装置を揃えたのかを聞いてみたところ、研究室の立ち上げ当初は中古の装置を格安で譲ってもらってきて、少しずつ手を加えて使えるようにしていき、それを基に研究成果を出し、EUのプロジェクト資金を獲得することで新しい装置を買えるようになったとのことでした。一から研究室を立ち上げて素晴らしいグループを築いたノウハウの一端を伺うことができ、大いに得るものがありました。充実した装置群のおかげで期待していた以上の研究を行うことができたと手ごたえを感じています。現在留学中の成果を論文化しているところであり、更なる研究展開のため、Henk研究室との共同研究を計画中です。
 さて、この在外研究ですが、当初は2020年9月から実施する予定でした。ところがCOVID19感染症による影響で2020年度の在外研究が延期されたため、一度は白紙になりました。それが2020年度終わりに一時的に感染者数などが減ったおかげで、2021年度に実施する許可が下り、半年ずれての開始となりました。ただ、在外研究許可が出たものの、スペイン滞在のビザが発行されるのか、そもそも飛行機が飛ぶのか、などいろいろと不確定要素が多くて、本当に留学できるのか直前まで確証が持てませんでした。また、スペインからの帰国直前にもオミクロン株の流行が始まり、日本への帰国が危うくなるなどがあったのですが、何とか無事1年間の留学を終えることができました。出入国はどたばたした一方で、幸いなことに、滞在中の生活ではCOVID19の影響をそれほど受けずに済み、スペインの観光地もいくつか訪れることができました。この文章を書いているとき、ちょうど1年前に休暇を使ってバルセロナを訪問した時の写真がGoogleフォトから通知され、懐かしく眺めております。今回は残念ながら家族を伴って行くことができなかったので、近い将来に家族で再びスペインを訪れる機会を作りたいと思っています。
 最後になりましたが、本在外研究を実施するにあたり、様々にご配慮いただきました学部学科の教員の皆様および事務職員の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りして深く感謝申し上げます。おかげさまで大変実りの多い1年間を過ごすことができました。在外研究に行く前には、ともすれば目先の教育・研究に追われて知らない間に時間が進んでいく感覚にとらわれがちでしたが、今回の在外研究で、少し視野が広くなったというか、目線が高くなった気がします。この貴重な経験を近畿大学での教育・研究活動に活かしていく所存です。


滞在した研究所(Instituto de Ciencia Molecular)の外観
滞在した研究所(Instituto de Ciencia Molecular)の外観
クリーンルームでの実験風景
クリーンルームでの実験風景

(エネルギー物質学科 田中 仙君)