絶滅危惧種タマカイの3歳未成魚のオス化に世界で初めて成功 高級ハタ類の養殖研究の発展に期待
2019.07.17
- 研究所
オス化したタマカイ(体重8.0kg)
【本件のポイント】
●絶滅危惧種であるタマカイを、3歳未成魚でオス化させることに世界で初めて成功
●天然資源の保護に貢献するため、タマカイの人工種苗生産、完全養殖技術の確立をめざす
●国内で採取した精子を用いた、クエタマを始めとする高級ハタ類の養殖研究の発展に期待
【本件の内容】
タマカイは主に熱帯域に生息する世界最大級のハタ科の魚類で、美味であることから東アジアや東南アジアでは高級魚として取引されています。しかし、乱獲によって天然資源の減少が進み、絶滅危惧種に指定されています。
タマカイは雌雄同体(一生の中で性が変わる)で生殖腺がまずメスとして成熟した後、性転換によってオスとして成熟する魚です。タマカイのオスは34~120kgと報告されています。30kgサイズ以上になるには通常5年ほどかかるといわれており、オス親魚の養成に年月がかかることが問題でした。
近畿大学水産研究所奄美実験場では、平成27年(2015年)11月に台湾から、ふ化後2カ月の稚魚260尾を導入し、タマカイの親魚養成の研究を進めてきました。天然よりも早い段階でオス化させることをめざし、3年育成した約3~9kgの未成魚31尾に雄性化ホルモンを投与したところ6月上旬現在で17尾の個体から精液を排出させることに成功しました。東アジア・東南アジアにおいては交雑種を含めて広く人工種苗による養殖が行われていますが、日本国内でのタマカイのオス化は体重50kg以上の成魚で成功した例のみです。約3~9kgの未成魚のオス化は、世界的に見ても例のない成果です。
【研究の背景】
近畿大学水産研究所では、幻の魚といわれる高級魚「クエ」(メス)と、同じハタ科でより早い成長が期待される「タマカイ」(オス)との交雑種「クエタマ」の作出に成功し、研究を行っています。これまでは、タマカイ精子をマレーシアや台湾の養殖業者から入手し、凍結して持ち帰って研究を進めざるをえませんでした。
国外の遺伝資源(今回の場合は精子と稚魚)の利用には名古屋議定書の下で定められた国際ルールがあります。昨年はマレーシア政府の許可を得てタマカイ精子を持ち帰ったのですが、マレーシアでは今年の2月にABS(生物資源へのアクセスと利益配分)に関する国内法が施行され、国外への持ち出しがより一層厳しくなり、実質上困難な状況となりました。そこで、クエタマの研究と事業化を進めるために友好関係にある台湾から導入し親魚養成していたタマカイのオス化が喫緊の課題となりました。なお、台湾は名古屋議定書に批准しておらず、ABSによる国内法もありません。また、中国は平成28年(2016年)9月に名古屋議定書に批准していますが、国内法は施行されていません。
【今後の展開】
今回の成功により、国内で採取した精子を用いて、クエタマ種苗生産技術の向上および国内産ハタ類との交雑による新たなハタ類養殖魚種の作出を目的とした研究が可能となりました。
近畿大学水産研究所が研究しているクエタマについても、種苗生産技術の向上が期待されます。また、タマカイと国内産ハタ類との交雑による新たなハタ類養殖魚種の作出などの研究も可能となり、日本国内におけるハタ類研究がこれまで以上に発展することが期待されます。
関連URL:https://www.flku.jp/