NEWS RELEASENEWSRELEASE

肝がんの新規分子標的薬の有効性・安全性を実証 肝がん治療薬10年ぶりの承認へ道筋

2018.02.10

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)主任教授の工藤正俊らの研究グループが、肝細胞がん(肝がん)について20カ国154施設で実施した世界規模の臨床試験で、抗がん剤「レンバチニブメシル酸塩」(エーザイ株式会社、以下、レンバチニブ)の肝がんにおける生命予後向上について有効性・安全性を実証することに成功しました。
現状、肝がんに対して延命効果のある一次治療薬は1種類しかなく、「レンバチニブ」が承認されれば、約10年ぶりに肝がん患者にとって新しい選択肢が増えます。
本件に関する論文が、平成30年(2018年)2月10日(土)AM8:30(日本時間)に、医学・生命科学系国際学術誌の最高峰の一つである"The Lancet"のOnlineに掲載されました。

【本件のポイント】
●肝がんに対する有効な一次治療薬は1種類のみであったが、新規薬剤の有効性を証明
●肝がんの一次治療薬としては10年ぶりに成功した国際多施設共同臨床試験
●「レンバチニブ」が承認されれば、切除不能の肝細胞がん患者にとって大きな朗報

【本件の概要】
肝がんは、がん死亡原因としては世界で2番目に多く、我が国でも毎年約3万人が亡くなる極めて予後の悪いがんです。
工藤正俊が主導する研究グループは、エーザイ筑波研究所で創薬された「レンバチニブ」(根治切除不能な甲状腺がんの効能・効果で平成27年(2015年)に国内承認取得)について、全身化学療法歴のない切除不能な肝細胞がん患者に対する臨床第III相試験(REFLECT試験)を行いました。その結果、これまで肝がんの唯一の標準治療薬であった「ソラフェニブ」と比較し、生存期間の延長効果において劣らないことを証明しました。さらに、腫瘍縮小と腫瘍進行速度の抑制においても効果を証明し、治療開始から病気が悪化するまでの期間も延長されることを確認しました。切除不能であった腫瘍が縮小することによって、切除やラジオ波による治療などが可能になるなどの効果も期待できます。
本臨床試験は、肝がんに対する一次治療薬としては「ソラフェニブ」の臨床試験成功以来、実に10年ぶりに成功した唯一の臨床試験であり、大変画期的な成果です。本研究結果に基づき、現在、エーザイ株式会社が「レンバチニブ」の肝がんに対する適応追加を厚生労働省に申請中で、承認されれば肝がん患者にとっては非常に大きな朗報になると期待されます。

【掲載誌】
雑誌名:"The Lancet" 医学・生命科学系国際学術誌の最高峰の一つ、最新の文献引用影響率が世界第2位(インパクトファクター:47.831/2017)
論文名:Lenvatinib versus sorafenib in first-line treatment of patients with unresectable hepatocellular carcinoma: a randomised phase 3 non-inferiority trial
    (切除不能肝細胞がんに対する一次治療薬としてのレンバチニブとソラフェニブの無作為化比較臨床第III相試験)
著 者:Masatoshi Kudo, M.D.;1 Richard Finn, M.D.;2 Shukui Qin, M.D.;3 Kwang-Hyub Han, M.D.;4 Kenji Ikeda, M.D.;5 Fabio Piscaglia, M.D.;6 Ari Baron, M.D.;7 Joong-Won Park, M.D.;8 Guohong Han, M.D.;9 Jacek Jassem, M.D.;10 Jean Frederic Blanc, M.D.;11 Arndt Vogel, M.D.;12 Dmitry Komov,M.D;13 TR Jeffry Evans, M.D.;14 Carlos Lopez, Ph.D.;15 Corina Dutcus, M.D.;16 Matthew Guo, Ph.D.;16 Kenichi Saito, M.S.;16 Silvija Kraljevic, M.D.;17 Toshiyuki Tamai, M.S.;16 Min Ren, Ph.D.;16 Ann-Lii Cheng, M.D.18

1 Kindai University Faculty of Medicine, Osaka, Japan; 2 Geffen School of Medicine, UCLA Medical Center, Santa Monica, CA, USA; 3 Nanjing Bayi Hospital, Nanjing, Jiangsu, China; 4 Severance Hospital, Yonsei University, Seoul, Korea; 5 Toranomon Hospital, Tokyo, Japan; 6 University of Bologna, Bologna, Italy; 7 California Pacific Medical Center, San Francisco, CA, USA; 8 National Cancer Center Korea, Goyang-si,Korea; 9 Xijing Hospital, Fourth Military Medical University, Xi’an, China; 10 Medical University of Gdansk, Gdansk, Poland; 11 University of Bordeaux, Bordeaux, France; 12 Hannover Medical School, Hannover, Germany; 13 N.N. Blokhin Cancer Research Center, Moscow, Russia; 14 University of Glasgow, Beatson West of Scotland Cancer Centre, Glasgow, UK; 15 Marqués de Valdecilla University Hospital, Santander, Spain; 16 Eisai Inc., Woodcliff Lake, NJ, USA; 17 Eisai, Ltd., Hatfield, UK; 18 National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan.

【本件の背景】
肝がんは現在、世界で毎年約75万人が亡くなる難治性のがんであり、我が国でも毎年約3万人が亡くなる極めて予後の悪いがんです。治療法として、がんが肝臓内に限られている場合は、切除、ラジオ波治療(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などがありますが、これらの治療法で効果が得られない、もしくは脈管浸潤や遠隔転移などをきたして進行がんになった場合は、薬物療法が主な治療法となります。
薬物治療に使用する抗がん剤(一次治療薬)としては、平成19年(2007年)に主として欧米で行われた国際共同試験において有効性・安全性が証明された「ソラフェニブ」(商品名:ネクサバール)が唯一の薬剤であり、我が国でも「切除不能肝細胞がん」に対する適応を平成21年(2009年)に取得し、承認されています。ただし、その生存期間延長効果は限定的であり、かつ手足症候群などの副作用も強いため、これに変わる新たな薬剤の開発が期待されてきました。しかしこれまで、切除不能肝がんの一次治療薬の臨床試験は困難を極め、平成29年(2017年)までに計8件の新規薬剤等の国際共同多施設臨床試験が行われましたが、そのすべてが失敗に終わっています。
今回の「レンバチニブ」の臨床試験は、実に10年ぶりに成功した臨床試験です。

【研究詳細】
今回の多施設共同国際第III相比較試験は、切除不能肝がん患者に対し、現在の肝がんの標準治療薬である「ソラフェニブ」と試験薬である「レンバチニブ」を全世界の医療施設で総計954例の肝がんの患者に無作為に1:1で割り付けて投与した後、その後の生命予後改善効果を比較するという非劣性試験のデザインで行われました。世界20カ国154施設が参加した大規模な国際共同試験であり、プライマリーエンドポイントは全生存期間(OS)の延長効果です。非劣性マージンは1.08に設定されたため、少なくとも生存曲線が標準薬よりも上まわり、かつ95%信頼区間の上限が1.08を下回らないと臨床試験として成功とはいえないデザインでした。
その結果、レンバチニブの全生存期間は13.6カ月(中央値)、標準薬の全生存期間は12.3カ月(中央値)であり、プライマリーエンドポイントである非劣性を統計学的に証明することができました(ハザード比は0.92(95%信頼区間 0.79-1.06))。2次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、無増悪期間(TTP)、腫瘍縮小効果(奏効率:ORR)、等でした。独立画像判定による無増悪生存期間はレンバチニブ群が7.3カ月(中央値)、標準治療群が3.7カ月(中央値)(ハザード比 0.64,p<0.0001)、無増悪期間はレンバチニブ群7.4カ月(中央値)、標準治療群3.7カ月(中央値)(ハザード比 0.60,p<0.0001)、奏効率はレンバチニブ群が40.6%、標準治療群が12.4%(オッズ比 5.01,p<0.0001)と、統計学的に有意な差をもって全ての2次評価項目が標準治療を上回りました。この効果は、臨床的には大変意義のある差です。
なお、本試験のレンバチニブ投与群で高頻度に確認された有害事象(上位5つ)は、高血圧、下痢、食欲減退、体重減少、疲労であり、これまでに認められた安全性プロファイルと同様でした。
本臨床試験においては、工藤正俊が臨床第II相試験時点から深く関与し、臨床第III相試験では研究計画の立案計画・PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)への機構相談ならびに国際多施設共同試験のGlobal Steering Committee Member(治験運営委員)などを務めるなど、本臨床試験の中心的な役割を果たしました。工藤正俊は主任研究者として本臨床試験を主導したことによって、研究グループを代表して今回の主解析論文の筆頭著者となりました。また、米国FDAへの申請時のデータ提出もグループを代表して工藤正俊の名前で行われました。

【今後の展開】
現在、本臨床試験の成功を受けて、エーザイ株式会社が厚生労働省に対して「レンバチニブ」の肝細胞がんに対する適応追加の承認申請を提出しており、今年中には承認される見通しです。また、米国、欧州、中国、台湾などにおいても承認申請中です。肝がんに対する承認が得られれば、多くの肝がん患者にとって治療の選択肢が広がり、さらなる予後の延長効果が期待されます。

【用語解説】
■臨床第III相試験
新しい医薬品や治療方法についての有効性や安全性を確認し、国の承認を得るために行われる臨床試験の最終段階。第I相で安全性、第II相で有効性が見られた薬剤に関して、同意を取得した多数の患者を対象に既存の標準的な治療薬・治療法との比較により新薬の有効性・安全性を確認する試験。抗がん剤の場合は一般に世界規模で行われ、生命予後の延長が得られるか否かを確認することが一般的。

■全生存期間 OS(Overall Survival)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標。対象となる患者の試験登録日もしくは治療開始日から死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

■無増悪生存期間 PFS(Progression-Free Survival)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

■無増悪期間 TTP(Time To Progression)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪までの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

■奏効率 ORR(Objective Response Rate)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、治療前の腫瘍サイズに比べ、最大の腫瘍縮小効果(もしくは腫瘍壊死効果)が100%(腫瘍の完全消失もしくは完全壊死)の場合を完全奏効(complete response:CR)と呼び、30%以上の腫瘍縮小効果(もしくは腫瘍壊死効果)が得られた場合を部分奏効(partial response:PR)と呼ぶ。奏効率とは全体集団の中でのCR+PRの症例の割合を表す言葉であり、高ければ高いほど抗腫瘍効果が強いとされている。

【関連リンク】
医学部医学科 教授 工藤 正俊(クドウ マサトシ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html

関連URL:http://www.kindai.ac.jp/medicine/