NEWS RELEASENEWSRELEASE

脳梗塞、ALS、アルツハイマー病などの新たな治療法の開発に期待 神経幹細胞が炎症で異常に分化する仕組みを解明

2017.02.27

近畿大学医学部(大阪狭山市)リハビリテーション医学教室と同医学部附属病院高度先端総合医療センター再生医療部(教授:福田寛二)の研究チームは、神経幹細胞が炎症によって異常に分化する仕組みにおいて、微小なリボ核酸(マイクロRNA-155)の働きが関与していることを解明しました。本研究成果は、英国のオンライン科学誌「Scientific Reports」に平成29年(2017年)2月27日(月)日本時間19:00に掲載されました。

【本件のポイント】
●炎症中の神経幹細胞に影響を及ぼす、マイクロRNA-155の新たなメカニズムを解明
●脳梗塞や中枢神経疾患※で見られるマイクロRNA-155の異常増加が、本研究チームが解明した現象と同じ事を引き起こしている可能性があり、脳梗塞や中枢神経疾患の新たな治療法の開発に期待
※ALS(Amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)、アルツハイマー病など

【研究の詳細】
これまで、炎症中の神経幹細胞内で、マイクロRNA-155が大量に出現することは分かっていましたが、その機能は解明されていませんでした。本研究チームは、分子生物学的な手法を用いて、マウスから取り出した神経幹細胞で働きを調べたところ、神経幹細胞が多能性を維持するために必要な遺伝子をマイクロRNA—155が抑制し、分化に向かわせていることを解明しました。さらに、研究グループはヒトのiPS細胞から作成した神経幹細胞においても同じ現象が見られることを確認しました。
これまでに、脳梗塞やALS(Amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)、アルツハイマー病など幅広い中枢神経疾患で、マイクロRNA-155が異常に増加することが発見されています。その機能は解明されていませんが、これらの現象において炎症中の神経幹細胞内のそれと同じメカニズムが働いている可能性があります。
マイクロRNAを標的にした治療法が、新しい医療分野として注目を浴びる中、本研究成果が脳梗塞や中枢神経疾患における新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

【論文掲載誌】
■雑 誌 名:「Scientific Reports」
       英国のオンライン科学誌、インパクトファクター5.228
■論 文 名:Inflammation-induced miRNA-155 inhibits self-renewal of neural stem cells via suppression of CCAAT/enhancer binding protein β (C/EBPβ) expression
       (炎症で誘導されるmiRNA-155はC/EBPβの抑制を介して神経幹細胞の自己複製を阻害する)
■共筆頭著者:大洞 佳代子、小野寺 勇太(責任著者:福田 寛二)

【研究の背景】
脳梗塞やALSなどの一部の中枢神経疾患では、神経幹細胞の分化が起こることまではわかっていましたが、それを引き起こす原因は解明できておらず、有効な介入方法がないまま、リハビリテーションや再生医療への期待が大きくなっていました。本研究チームでは、効率的な運動機能回復には脳本来の自己治癒機能を保たせることが重要であると考え、それを阻害する要因について研究を進めてきました。

【共筆頭著者プロフィール】
氏名:大洞 佳代子(おおぼら かよこ)
職名:近畿大学医学部リハビリテーション医学教室 医学部助教
   リハビリテーション科専門医として、リハビリテーションの中で嚥下に関する検討・研究を行う。

氏名:小野寺 勇太(おのでら ゆうた)
職名:近畿大学医学部附属病院 高度先端総合医療センター 再生医療部 助手
   日本再生医療学会認定培養士の資格を有し、ES,iPS細胞などの細胞培養を研究。

【用語説明】
■神経幹細胞…脳の海馬に存在する幹細胞。神経再生に関わっていると考えられている。
■マイクロRNA…21-23塩基からなる短い核酸分子。様々な生命現象を制御しているとされるが、その機能は未解明な点が多い。
■マイクロRNA-155…マイクロRNAの一種。

【関連リンク】
医学部医学科 教授 福田寛二(フクダ カンジ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/601-fukuda-kanji.html

関連URL:http://www.med.kindai.ac.jp/