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大学発の創薬研究による難病の医薬品開発へ ~小児の難病である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型を対象としたフェニル酪酸ナトリウムの第II相試験(医師主導治験)を開始~

2017.02.01

1.発表者:林  久允(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻医療薬学講座 助教)
      近藤 宏樹(近畿大学医学部奈良病院 小児科学 講師)

2.発表のポイント:
◆小児の難病である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2)を対象に、大学発の医薬品候補であるフェニル酪酸ナトリウムの有効性、安全性を確認するための治験(注1)を開始します。
◆現在、PFIC2に有効な薬はありません。今回が、PFIC2に対する世界初の医薬品開発となります。
◆治験を経てフェニル酪酸ナトリウムのPFIC2に対する効能が承認されれば、肝移植に代わる新たな治療法として普及することが期待されます。

3.発表概要:
東京大学大学院薬学系研究科の林久允助教を中心とした研究グループは、日本小児栄養消化器肝臓学会からの推薦を受け、大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部未来医療センター、国立成育医療研究センターの支援のもと、小児の難病である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis type 2; PFIC2)患者を対象に、大学発の医薬品候補であるフェニル酪酸ナトリウム(NaPB)の有効性と安全性を確認するための第II相試験(医師主導治験、注2、注3)を開始します(治験調整医師:近畿大学医学部奈良病院 近藤宏樹)。本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)の創薬基盤推進研究事業として、全国6施設(大阪大学医学部附属病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、済生会横浜市東部病院、久留米大学病院、宮城県立こども病院、鳥取大学医学部附属病院)で実施します。
PFIC2は小児慢性特定疾病に指定されており、無治療の場合、幼児期に肝不全へと進行し、死に至る難病です。現在、肝移植が本疾患の唯一の治療法となりますが、ドナー不足や、身体的、経済的な負担の大きさなどの問題から、薬による治療法の開発が切望されています。林助教らは、基礎研究から医薬品候補NaPBを見出し、探索的臨床研究により、本薬剤のPFIC2に対する有効性を示唆する知見を得ています。この成果を踏まえ今回、本薬剤の薬事承認を目指し、医師主導治験を計画しました。本治験では、オーファンパシフィック社より提供を受けた製剤から製造した治験薬(開発コード:KDN-413)を用い、合計6例のPFIC2患者さんに参加頂く予定です。今回の治験により、大学発の創薬研究による難病の医薬品開発が大きく前進するものと期待されます。

4.発表内容:
PFIC2は、小児慢性特定疾病に指定されており、無治療の場合、幼児期に肝不全へと進行し、死に至る難治性希少疾患(注4)です。本疾患は、肝実質細胞の毛細胆管側膜に発現するBile Salt Export Pump(BSEP)の遺伝子変異が原因となり発症しますが、BSEP遺伝子の変異がどのようなメカニズムでBSEPの機能低下を引き起こすかが不明であるため、医薬品の開発は進んでいませんでした。
林助教らは、PFIC2症例では多くの場合、肝実質細胞の毛細胆管側膜におけるBSEP発現が減弱し、肝実質細胞当たりのBSEP機能が低下していることを突き止めました。さらに、種々の既存医薬品の薬理作用を再評価することにより、尿素サイクル異常症の治療薬であるNaPBが、BSEPの細胞膜発現量を増強することを見出しました。本薬理作用は、動物実験においても確認され、尿素サイクル異常症患者の肝組織、血液を用いたレトロスペクティブ解析(注5)においても、NaPBの服用開始後に、BSEP発現量が増加し、BSEP機能の指標となる血液中胆汁酸濃度が改善していることが明らかとなりました。
以上の知見を踏まえて実施した、PFIC2患者を対象としたNaPBの用量漸増試験では、本薬剤の服用により、肝機能の指標となる血中ビリルビン濃度が改善し、最終的には検査値が正常化しました。また、肝組織学的検査では、NaPBの服用により、BSEP発現量が増加し、肝内胆汁うっ滞、巨細胞性変化といったPFIC2に特徴的な病理像が改善していました。試験期間中、NaPBに起因すると考えられる副作用も認められませんでした。
以上の成果を経て、林助教は、近畿大学医学部奈良病院小児科学の近藤宏樹講師、大阪大学大学院医学系研究科小児科学の長谷川泰浩特任助教とともに、大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部未来医療センター、国立成育医療研究センターの支援のもと、本薬剤の薬事承認を目指した医師主導治験を計画しました。今回の治験は、第II相試験になります。オーファンパシフィック社より提供を受けた製剤から製造した治験薬(開発コード:KDN-413)を24週間、患者さんに投与し、肝生検による肝組織像の変化からその有効性を評価します。全国6施設で合計6例のPFIC2患者さんに参加頂く予定です。治験期間は2018年3月までを予定しています。

5.特記事項:
本治験の実施については、大阪大学医学部附属病院の治験審査委員会(IRB)の承認を受けており、2016年11月4日付けで医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届が受理されました。本治験情報は、以下のサイトにも掲載されておりますので、ご参照ください。

大学病院医療情報ネットワーク臨床試験登録システム(UMIN-CTR):
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000028256

今回の医師主導治験は、日本医療研究開発機構(AMED)(創薬基盤推進研究事業)の研究課題「ドラッグ・リポジショニングによる難治性小児肝内胆汁鬱滞症の特効薬開発を指向したフェニル酪酸ナトリウムの有効性と安全性の検討を目的とした臨床研究」(研究開発代表者:近畿大学医学部奈良病院 小児科学 講師 近藤宏樹)の一環として行われています。

6.用語解説:
(注1)
治験:医薬品、及び医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために実施される臨床試験

(注2)
医師主導治験:医師自ら企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験。医療現場でのニーズが高く、有望な医薬品・医療機器を研究開発した場合においても、採算性や開発リスクの観点から製薬企業が治験を行わないことがあります。2003年の薬事法改正により、このような場合に、医師が主体となり、一般の製薬企業と同様に、治験を実施することが出来るようになりました。

(注3)
第II相試験:治験の3つの段階のうち、2段階目の試験。主に治験薬の安全性、有効性、用法、用量を調べるために実施します。

(注4)
希少疾患:患者数が極めて少ないまれな疾患

(注5)
レトロスペクティブ解析:過去にさかのぼってデータを集めて行う解析

【関連リンク】
医学部奈良病院 講師 近藤 宏樹(コンドウ ヒロキ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/1399-kondou-hiroki.html

関連URL:http://www.kindainara.com/