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固体状態で円偏光を放つCPL※発光体を開発 3D有機ELディスプレイや植物成長制御用LEDライトの省電力化に期待

2016.10.17

  • 理工

ケイ素ユニットを有する2種類の光学活性ビナフチル有機発光体からの溶液状態における円偏光発光(CPL)スペクトル

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科の准教授 今井喜胤と大学院生 佐藤琢哉らの研究グループが、らせん状に回転しながら振動する光である円偏光を溶液状態で発光することがすでに知られているビナフチルにケイ素を組み込むことで、固体状態でも円偏光発光する、安定性と実用性の高い発光体の開発に成功しました。このたび、本件に関する論文が、オランダのエルゼヴィア社が発刊する国際的学術雑誌「Tetrahedron」の電子版に平成28年(2016年)9月22日(木)に掲載されました。
※circular polarized luminescence 円偏光発光

【本件のポイント】
●固体状態で円偏光を放つ、実用性の高い有機発光体の開発に成功
●3D表示用有機ELディスプレイや植物栽培用LEDライト等の省電力化が期待される
●ケイ素を組み込んだ1種類のビナフチルから、光の回転方向が異なる2種類の発光体を作出可能になり、円偏光発光体の合成コスト削減が期待される

【本件の概要】
特定の方向に振動する光を偏光といい、振動方向が直線状のものを直線偏光、らせん状に回転しているものを円偏光といいます。円偏光は、3D表示用有機ELディスプレイに使用されており、また、植物の成長を制御する光としても実用化が期待されています。しかし、多くの発光体は直線偏光であるため、フィルターを用いて直線偏光を円偏光に変換しています。フィルターを通すため、光強度が減少してエネルギー効率が悪化します。
研究グループは、溶液状態で円偏光発光することがすでに知られているビナフチルにケイ素を組み込むことで、固体状態でも円偏光発光する、安定性と実用性の高い発光体の開発に成功しました。
また、円偏光発光体を光学材料として用いる場合、基本的に左・右回転の2種類の発光体が必要となります。通常は、異なる2種類の発光体を必要としていましたが、今回の研究では、1種類のビナフチルユニットで回転方向が異なる円偏光発光体を作出可能であることを発見し、今後の合成コストの削減が見込まれます。
将来的には、円偏光発光体により3D表示用有機ELディスプレイなどのエネルギー効率が向上し、省エネにつながることが期待されます。
なお、本研究は文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択された「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の一環です。

【掲載誌】
■雑誌名:『Tetrahedron(テトラヘドロン)』
     オランダの有機化学分野の国際的学術雑誌 インパクトファクター2.645
■論文名:Binaphthyl luminophores with triphenylsilyl groups: sign inversion
     of circularly polarized luminescence and circular dichroism
     (トリフェニルシリル基を有するビナフチル発光体:円偏光発光と円偏光二色性の符号反転)
■著 者:Takuya Sato, Nobuo Tajima, Hiroki Ueno, Takunori Harada, Michiya Fujiki, Yoshitane Imai
     ※本研究は、近畿大学、NIMS、大分大学、奈良先端科学技術大学院大学によるものです。ただし、
      近畿大学が主導した研究であり、殆どの研究データは、近畿大学の研究結果となります。

【研究の詳細】
研究グループは、光を回転させるキラリティー導入ユニット、また、光を放つ発光性ユニットとして光学活性ビナフチルユニットを用い、トリフェニルケイ素基を導入したオープンスタイルの光学活性ビナフチル発光体3,3'-bis(triphenylsilyl)-1,1'-bi-2-naphtholとクローズドスタイルの光学活性発光体3,3'-bis(triphenylsilyl)-1,1'-binaphthyl-2,2'-diyl hydrogenphosphateを精製し、クロロホルム溶液に溶解させ、希薄溶液にて円偏光発光(CPL)スペクトルを測定しました。
(CPL測定には、日本分光製CPL-300を使用)

オープンスタイル、クローズドスタイルの発光体からは、それぞれ、375nm、363nmの円偏光発光(CPL)を観測しました。CPLを光学材料として用いる場合、基本的に、左回転・右回転2種類のCPLが必要です。そのため、従来の手法では、キラリティーの異なるR体・S体2種類の光学活性な発光体を必要としていました。しかし、同じR体のビナフチルユニットを用いているにもかかわらず、オープンスタイルでは右回転、クローズドスタイルでは左回転となり、回転方向が異なることを発見しました。また、製品として利用する場合、固体状態で利用しますが、これら発光体では、固体状態であるPMMAフィルム状態、KBrペレット状態からもCPLを発していることを確認しました。

【今後の展望】
円偏光発光(CPL)に関しては、最近、様々な利用法が検討されていますが、CPLを生み出す高輝度・高円偏光度(高い光の回転度)を備えたCPL発光体は、まだ開発途中であり、開発に向けて試行錯誤が続いています。
今回の研究により、さまざまな種類のケイ素置換基を導入しても発光体が作れる可能性があることがわかりました。今後は試行錯誤を重ね、多彩な機能を持った円偏光発光体の作出や、さらに高輝度・高円偏光度の円偏光発光体の開発を進めていきます。

【「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の概要】
■研究内容
太陽光エネルギーを利用して水素ガスやメタノールといった1次エネルギー物質を生成する際に必要不可欠とされるソーラー触媒の開発や人工光合成における化学的機能の開拓(研究テーマ1)を推進します。同時に、ウェアラブル端末などに広く利用可能な薄膜太陽電池における光電変換効率の高効率化(研究テーマ2)、さらには、光磁気機能を駆使した省エネルギー記憶媒体に関わる基盤的物質の創成(研究テーマ3)を目指します。

■プロジェクトの波及効果
東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、わが国のエネルギー政策は歴史的な転換期にあり、利用可能なエネルギー資源の特徴を生かしつつ各々を効果的に運用していくための施策を必要としています。その際、立ち遅れの目立つ太陽光エネルギー利用についても可能性をポジティブに評価したうえで有効に活用していく必要があります。太陽光エネルギー利用の可能性を最大限に引き出すための基盤的研究を推進します。

■プロジェクトの将来と人材育成
総合理工学研究科・理工学部の教員16人の参画を得て発足した本研究プロジェクトは将来的に近畿大学における原子力、火力、太陽光研究をゆるやかに束ねる総合エネルギー研究開発拠点として社会基盤の整備等に関して科学的見地から発信力を強化していくことを目指します。また、活動を通じて優れた人材の育成に力を尽くします。

【関連リンク】
理工学部応用化学科 准教授 今井 喜胤
http://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

関連URL:http://www.kindai.ac.jp/sci/

「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」