「木質バイオマス※1を用いた林業再生の可能性」奈良県南部と岡山県真庭市※2の比較検討を通じて 近畿大学経済学部
2015.07.27
- 経済
プレゼンの様子
※1バイオマス:動植物から生まれた再生可能な有機性資源
※2岡山県真庭市:人口48076人、岡山県北部にあり岡山県最大の面積を有する自治体、蒜山高原や湯原温泉がある「バイオマスタウン真庭」としてバイオマス発電などバイオマスの有効利用に取り組んでいる
【本件のポイント】
● 欧米の林業と比較することで、日本の林業の構造転換を提言
● すそ野産業である製材業の存在が重要な要素、無駄のないバイオマス利用を図る
● 学生自らテーマを設定、スケジューリングも行い、現地調査を実施し、検討・プレゼンを行うことで、社会人基礎力が飛躍的に向上
【本件の概要】
本研究では、間伐材(森林を管理するために伐採する間引き材)に注目し、木質バイオマスとして再生エネルギーとしての利用による地域活性化について調査を行いました。具体的には奈良県担当者へのヒアリングを行い、次に先進事例としてバイオマスタウン※3として有名な岡山県真庭市に赴きヒアリング調査を行い、その上で両県における取り組みの共通点と相違点を比較検討するというアプローチを取っています。さらに、中・北欧など外国の林業と比較することで、日本の林業の根本的問題にも検討を加えています。
それらの分析の結果として、
(1)すそ野産業である製材業の存在が重要な要素、無駄のないバイオマス利用を図る
(2)林業を商業ベースにのせるため、切り出す木材を30年物から70年物へと大型化させ、商品価値を高める
(3)第一の対策として山林所有者の集約化に取り組み、インフラ整備を進める
(4)第二の対策として移行期間である約40年間において林業を絶滅させないための補助スキーム(枠組み)を作る
を提言しました。
※3バイオマスタウン:バイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれた総合的利用システムが構築され、安定的かつ適正なバイオマス利用が行われているか、あるいは今後行われることが見込まれる地域
【本件の背景】
奈良県には古来より豊富な森林資源があるにもかかわらず、林業は衰退の一途をたどり、すそ野としての製材業等も事業者の高齢化や事業継承の問題を抱えております。その原因はコストの低い外材(主に北欧、カナダおよびロシア産)需要の水準が圧倒的に高いことにあります。本調査は、学生自身が地元である奈良県南部の林業の現状に問題意識を持ち、フィールドワークの対象とし、バイオマス先進地域や中・北欧の林業との比較研究を企画したことに始まります。
【担当教員コメント】 経済学部 准教授 新井圭太
当日は岡山県担当者(真庭市バイオマスリファイナリー事業推進協議会事務局長 仁枝章様)および奈良県担当者(奈良県農林部奈良の木ブランド課 西卓宏様)にも御参加頂き、学生たちのプレゼンテーションをもとに多くの質疑や討論が展開されました。
仁枝様には、バイオマス産業杜市"真庭"の実現に向けて(木質バイオマスの利活用と地域創生)について、解説していただきました。
ディスカッションの中心は、学生たちが提言したコンセプトに対する、現場における実現可能性にありました。外国産材との価格競争のさらなる深刻化や、そもそも30〜40年後に林業や製材業を担ってくれる人材をどこまで確保できるのか、といった多くの問題点をもとに様々な議論がなされました。また、岡山県産木材(主に檜材)に対して奈良県産材(吉野杉)が持つ材質のちがい・マーケットの相違点が指摘され、岡山県真庭市モデルをそのまま奈良に移植する手法の課題も浮き彫りになりました。これらの問題が認識できたことは、学生のみならず教員も含めて皆が勉強になりました。その意味では非常に素晴らしい討論会になったと思います。
【フィールドワークIIについて】
「フィールドワークII」は、経済学部総合経済政策学科の特色あるカリキュラムの一つの演習科目です。本学科では、2005年度より「フィールドワークI」(2年生対象)と「フィールドワークII」(3年生対象)を開講してきました。「フィールドワークI」では、研究課題の設定から報告書の執筆までフィールドワークの一連の流れを体験し、「フィールドワークII」では、自らテーマを設定し、自らヒアリングに向けたスケジューリングも行い、関西圏以外の遠方地域に出向いて現地調査を実施し、関西圏との比較分析を行います。
本件の詳細は添付のPDFをご覧下さい。
【関連リンク】
経済学部 総合経済政策学科 准教授 新井 圭太
http://www.kindai.ac.jp/meikan/193-arai-keita.html