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レーザーを用いたエナメル質修復の新技術 生物理工学部 教授・本津 茂樹らの研究成果

2015.01.23

レーザーを用いた歯のエナメル質修復

近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)医用工学科教授・本津 茂樹(ほんつしげき)らの研究グループは、ハイドロキシアパタイトの膜を、レーザーを用いて直接歯に堆積させ、エナメル質を修復する技術を開発しました。本津らはこれまでにも、「歯のばんそうこう」と呼ばれる、柔軟に曲がる極薄のハイドロキシアパタイトシートを開発しておりましたが、今回の技術では大きくえぐられた欠損の修復にも適応することができます。
現在歯の治療には主にレジンなどの高分子材料が用いられますが、歯の成分と全く異なるためにアレルギー反応を起こすリスクがあります。今回本津らが開発した技術では歯の主成分であるハイドロキシアパタイトを用いるため、治療に用いてもアレルギー反応を起こすことがなく安全であり、今後は虫歯や知覚過敏の治療への応用が期待されます。

【研究のポイント】
● レーザーを用いて、ハイドロキシアパタイトの膜を直接歯の上に形成する新しい技術
● ハイドロキシアパタイトは歯の主成分であり、人体に安全でアレルギー反応もなく、 虫歯や知覚過敏といった症状に対する治療へ応用が期待できる

【本研究の発表について】
本研究は、日本歯科保存学会の平成26年度(2014年度)春季学術大会で発表され、大会のカボデンタル優秀発表賞に選ばれました。また、秋に開催されました第26回日本レーザー歯学会総会・学術大会において優秀発表賞を受賞しました。
今後、平成27年(2015年)2月4日(水)~6日(金)にインテックス大阪で開催される「メディカル・ジャパン2015」において、本研究に関する本津らの発表が5日(木)16:50~17:30に行われます。

【研究の背景】
歯の表面部分を占めるエナメル質は、一度欠損してしまうと二度と再生しない組織です。虫歯や摩耗などで欠損した場合、これまでには主にレジンなどの高分子材料が歯の修復に用いられてきました。しかし、レジンは歯の成分と全く異なるためにアレルギー反応のリスクがあり、治療を受けられない人もいます。また、レジンの性質は歯の性質と全く異なるため、歯との間に亀裂や剥離が生じるという問題が指摘されています。
本来、歯の治療は歯の主成分であるハイドロキシアパタイトを用いて行うことが理想ですが、ハイドロキシアパタイトのようなセラミックスを互いにくっつけることは非常に困難であるため、いまだ実現されていません。本津らはこれまでにも、「歯のばんそうこう」と呼ばれる、柔軟に曲がる極薄のハイドロキシアパタイトシートを開発しておりますが、大きくえぐられた欠損の修復には適応できないという課題が残されていました。

【研究の詳細】
本津らは、大阪歯科大学 (大阪府枚方市)歯科保存学講座・吉川一志(よしかわ かずし)准教授、およびモリタ製作所 (京都市伏見区)と共同で、Er:YAGレーザーと呼ばれるレーザーを用いてハイドロキシアパタイトの膜を大気中で生成することを試みました。
Er:YAGレーザーは虫歯の治療において、う蝕部を削るのに使用されています。本津らはこの削るというレーザーの分解、剥離反応を着目して、歯の表面上でレーザーをハイドロキシアパタイトなどの材料に照射すれば分解、剥離反応により粒子が飛散し、ハイドロキシアパタイトの膜を形成できると考えました。
実際に、α-リン酸三カルシウムの材料(アパタイト前駆体ターゲット)にレーザーを照射し、歯のエナメル質に膜を形成させたところ、約3時間でほぼハイドロキシアパタイト膜が生成され、エナメル質の修復に活用できることが確認されました。
また、象牙質上に膜を形成させると、ハイドロキシアパタイト膜が人工エナメル質となって象牙細管を完全に封鎖できることから、象牙質知覚過敏(※)の治療にも応用できることがわかりました。

【今後の展望について】
今回の研究結果は、本手法が虫歯の治療や象牙質知覚過敏の治療に使用できることを示しており、さらに歯質の保護、エナメル質のマイクロクラック(細かなひび割れ・亀裂)の修復や審美歯科にも応用できる可能性があります。
本技術は歯の延命化につながり、高齢者の口腔機能維持によるQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上、さらには将来的に8020運動(はちまるにまるうんどう:満80歳で20本以上の歯を残す)を達成し、医療・福祉経済の安定化にも貢献できるため、歯科医師会及び歯科機器メーカーの協力を得て臨床研究及び治験を実施できる体制を整えて実用化を目指します。

【補足説明】
■株式会社モリタ製作所について
  代表取締役社長:塚本耕二
  業種:精密機器
  本社住所:〒612-8533 京都府京都市伏見区東浜南町680番地
  創業:1916年
  社員数:623名(2014年4月現在)
  売上高:188億1940万円(2014年3月現在)
  資本金:3億9500万円
  工場:京都(本社及び久御山)
  営業所:東京、名古屋、福岡 (駐在事務所:ドイツ フランクフルト)
  事業内容:歯科・医科医療器械器具の製造・販売

■象牙質知覚過敏とは
歯の表面部分のエナメル質が不適切な歯磨きや過度の咬合力により削れたり、また歯周病によって歯肉が退縮したりして、本来露出していない象牙質がむき出しになり、象牙質に存在する象牙細管に温度や風等のさまざまな刺激が加わったときに歯の神経までその刺激が直接伝わることで、歯がしみる症状のこと。

■私立大学戦略的研究基盤形成支援事業について
今回の研究は、近畿大学が文部科学省の支援を受けて「ライフイノベーションの推進」として取り組んでいる「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の一環として行われました。この事業は、私立大学がそれぞれの経営戦略に基づいて行う研究基盤の形成を支援するため、研究プロジェクトに対して文部科学省が重点的かつ総合的に補助を行う事業であり、それによってわが国の科学技術の進展に寄与することを目的としています。

関連URL:http://www.kindai.ac.jp/topics/2015/01/post-720.html

口腔内でのエナメル質の修復(左)と人工のエナメル質形成による象牙細管の封鎖(右)

象牙細管をもつ象牙質(左)にハイドロキシアパタイトの膜を形成すると、象牙細管を完全に封鎖できる(右)