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動脈硬化や高脂血症の予防作用を持つ"キトサン"を 捕らえるタンパク質を発見、世界で初めてその仕組みを解明!

2013.09.06

近畿大学農学部(奈良県奈良市)バイオサイエンス学科の深溝 慶(ふかみぞ たもう)教授による研究グループ(博士後期課程2年新家粧子、大沼貴之講師)は、福井県立大学および福井工業大学との共同研究により、サプリメントなどでも注目度の高い物質"キトサン"を混合物の中から捕らえるタンパク質を発見し、その仕組みを世界で初めて明らかにしました。キトサンは血中コレステロールの低下や整腸作用、脂肪吸着などその高い効能で知られていますが、今回の発見により、大量の廃棄物を出すことなく環境に優しい手法で、良質のキトサンを入手することができるようになることが見込まれます。なお、この研究成果は8月29日付(日本時間)で米国生物化学雑誌"Journal of Biological Chemistry(ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー)"電子版に掲載されています。

キトサンは多数のグルコサミンが鎖状に連なった多糖類の一種で、これまではエビやカニの甲羅から抽出されてきましたが、この抽出過程では高濃度の酸・アルカリなどの廃棄物を伴い、また得られたキトサンも甲殻類アレルギーを引き起こす可能性があるなど、問題も取り上げられてきました。今回、近畿大学・深溝教授は福井県立大学・木元久教授、福井工業大学・草桶秀夫教授と共同で、キトサンを捕える働きをもつタンパク質に着目して研究を進めた結果"ディスコイジン・ドメイン"と呼ばれるタンパク質に、キトサンだけを捕らえる働きがあることが明らかになりました。このようなキトサンだけを捕えることのできるタンパク質の発見は今回が世界初となります。今後は食品に利用されるキノコやカビ類からも、安全で良質のキトサンやグルコサミンを効率良く生産し、血中コレステロールを低下させるためのサプリメントなど、機能性食品に応用されるものと考えられます。



【参考資料】

<研究の背景と詳細>

キトサンは血中コレステロール低下や整腸作用、脂肪吸着などの効果で知られ、病気の予防やダイエットのサプリメントなど機能性食品に利用されています。キトサンの多くはエビやカニの甲羅から抽出されていますが、この抽出過程においては高濃度の酸・アルカリといった大量の廃棄物(環境負荷)を伴い、また得られるキトサンも甲殻類アレルギーの原因となりうることから、キトサンだけを効率よく捕らえる方法の開発が望まれていました。

そのような状況の中で、近畿大学農学部バイオサイエンス学科の深溝教授と福井県立大学の木元久教授は共同でキトサン加水分解酵素というタンパク質の研究に着手し、それらの酵素タンパク質の中の一つ (Paenibacillus sp. IK-5由来キトサン加水分解酵素)に存在する"ディスコイジン・ドメイン"というタンパク質に注目しました。深溝教授の指導の下、近畿大学大学院農学研究科博士後期課程2年の新家粧子は、ディスコイジン・ドメインを精製し、いろいろな糖質と混合させてみました。核磁気共鳴(NMR)法(※)を用いて調査した結果、キトサンだけがこのタンパク質に結合することを発見。ディスコイジン・ドメインはキトサンの捕獲に有用であり、またこのタンパク質を使った抽出であれば、従来型の高濃度の酸・アルカリといった廃棄物を伴わないため、環境にも優しくキトサンを入手できることが判明しました。

(※)核磁気共鳴(NMR : Nuclear Magnetic Resonance)法
   タンパク質を大きな磁場の中に置き、その構造や運動状態を調べる方法。
   タンパク質と低分子化合物との結合を調べるのに有力な方法である。

<掲載雑誌、論文名>
  ・雑誌名 : Journal of Biological Chemistry  ※インパクトファクター:4.651(2012年)
         米国生化学分子生物学会(American Society for Biochemistry and Molecular Biology)

  ・論文名 : The first identification of carbohydrate-binding modules specific to chitosan
         (世界で初めてのキトサンに特異的な糖質結合モジュールの発見)

  ・著者名
        新家粧子(近畿大学大学院農学研究科バイオサイエンス専攻 博士後期課程2年)
        大沼貴之(近畿大学農学部講師)
        山城玲奈(近畿大学農学部卒)
        木元久(福井県立大学教授)
        草桶秀夫(福井工業大学教授)
        Padmanabhan Anbazhagan (オウル大学博士研究員)
        André H. Juffer (オウル大学生化学科リサーチリーダー)
        深溝 慶(近畿大学農学部教授)

<研究費>
  文部科学省 平成23年~27年度 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業の一端でもあります。
  「環境調和を志向した革新的植物アグリバイオ技術の統合型研究拠点の形成」(代表:深溝 慶)

関連URL:http://www.kindai.ac.jp/topics/2013/09/post-481.html