論文、レポートの書き方

法学部のシラバスを読めば、専門科目、全学共通科目を問わず成績評価方法としてレポートの提出を課す科目があることが分かるでしょう。レポートは、基礎ゼミや一般演習、コース演習などの演習科目だけではなく、講義科目においても学期途中で提出が求められたり、最終試験の代わりに課せられていたりします。また、3年次からの必修科目である専門演習(ゼミ)の中には、単位取得条件として論文(ゼミ論)の提出が必須となっているところもあります。これらは、まさに卒業を決める重要な論文となります。
法学部の論文、レポートでは基本的な形式に従うことが求められています。論文、レポートの形式を踏み外していれば、採点対象にはなりません。ここでは、このような法学部生に求められている論文、レポートの書き方について説明していきます。あくまでも書き方(方法・技術)ですので、最初に修得しておけば後が楽になります。

1.テーマ、提出条件の確認

レポートの場合、あらかじめ担当者からテーマが指定されていることがあります。説明はゼミの時間や講義内、あるいはユニバーサルパスポート(ユニパ)で発表されますので、まずそこでテーマ内容を確認します。タイトルだけではなく、出題の意図が示されることも多くあります。レポートは提出さえすればよいとの考えは間違いであり、出題意図から外れたレポートは点になりません。
また、テーマやタイトルが決められていない場合も、例えば、憲法の講義、ゼミであれば当然憲法の範囲内で書く必要があることは示されますので、確認が必要です。テーマを自分で決めることができる場合には、関心のあるものを選べるはずですので一見簡単そうですが、そもそもレポートとして成り立つ内容なのかどうかについても自分で管理する必要があり、資料集めを頑張らなければなりません。日本評論社が出版している雑誌、『法律時報』では毎年12月号において法学各分野の代表的な出版物、論文の紹介が特集されています。過去10年分も眺めれば、どのようなテーマが注目されているものか分かり、参考になります。
レポートの文字数にもさまざまあり、基礎ゼミ等でのレポートであれば、1,000字から4,000字程度、ゼミ論にいたっては10,000字から20,000字といった大作が求められています。さらに、提出の条件、締め切り日時、提出方法、提出場所等も大切です。これらの諸条件に反した場合、レポートを受け取ってもらえない、あるいは採点対象外となることは当然と考えておいてください。

2.論文作成の準備、資料収集

法学部で求められる論文、レポートでは、資料(根拠)に基づいて書かれていることが重要です。このため論文、レポート作成の準備は、まず資料集めということになります。
資料集めは、与えられたテーマ(あるいは自分で決めたテーマ)について理解することから始まります。まずは、教科書等を利用してテーマ内容を理解、把握しましょう。中央図書館に行けば法学分野だけでも多くの本が並んでいます。初学者向けの教科書、司法試験レベルまで使える体系書(基本書)、論文集、専門雑誌が集められています。テーマそのものをタイトルにした本が見つかればラッキーです。
テーマ内容を把握すれば、次に、近畿大学中央図書館の検索データベース、法学分野であればD1-Law.com(第一法規)等を利用し、資料の収集に入ります。データベースを利用すれば、適度な数の重要な資料が集まります。本であれば図書館、雑誌であれば中央図書館か法学部資料室で在庫している可能性が高いです。判例が資料となる場合には、同じくD1-Law.com、Westlaw Japan等のデータベースからダウンロード、あるいは法学部資料室の判例集、判例雑誌を利用します。資料集め自体は時間や手間がかかりますが、この作業なしに論文、レポート執筆は進められません。
ここで注意しなければならないのは、インターネットを利用した資料集めです。インターネットを利用すれば、例えば、与えられたテーマをGoogleなどで検索すれば簡単に何千、何万というサイトがヒットしてしまいます。この方法では、資料の重要度の判定が難しくなります。レベルの低い、あるいは内容が不正確なサイトを根拠資料として利用すれば、合格点を得られない場合もありえます。

3.構成、章立て

論文、レポートの構成、章立ては、設計図に当たります。字数に限らず章立ての基本形は、「序論」(はじめに)、「本論」、「結論」(終わりに・結び)の3つです。はじめに「序論」ではテーマ、問題意識、タイトルの意味説明などを分かりやすく書きます。次に「本論」はまさに論文、レポートの本体部分になります。論文、レポートが皆さんのオリジナルの文章であり、アイデアも表現も自分自身のものであることから、「本論」は自由に執筆してよいものです。最後の「結論」では、テーマに関する賛否、自説の方向性などを示します。結論で本論の要約をすることもあります。自分の能力あるいは資料の限界などにより積み残した問題、テーマに関する将来の展望、あるいは次の機会があれば書くべきと考える事項について触れてもよいでしょう。
大学生としてのレポート、論文を書くにあたり、まずは基本的な章立てを利用すること、先人のレポート、論文の型を踏襲することは勉強になります。
例えば、一つの判決について紹介し、自分の意見を書く場合、ジュリスト(有斐閣)の『判例百選』で用いられている章立てが参考になります。判例百選は、一つの判決につき4,000字程度で書かれています。ここでの章立ては、まず「事実の概要」、次に「判旨」、そして「解説」と続きます。「事実の概要」は判決に至る事情と判決に影響した事実、いわば事件の概要と、第1審、第2審の要約です。「判旨」は、長い判決文を要約し、判決のうち重要部分、特に先例として用いられる文を抜き書きします。「解説」では、判決の位置づけ、判決の意義、事件で問題となった論点、判決の射程などをまとめることになります。判例百選の「解説」はその分野の専門家が書いているのですが、学生のレポートの場合には専門家の意見をまとめ、自分の考えを結論として付け加えることになります。
4,000字のレポートといえば多いようにも感じられるかもしれませんが、章立てを考えるときに、「序論」400字、「結論」400字とし、「本論」3,200字を3つのパートでそれぞれ1,000字程度ずつに分ければ、一つずつのパートは小レポート程度の分量となります。例えば、本論のパート1が三つの判決の紹介であれば、一つは400字弱、パート2を学説の要約とすれば、例えば賛成説、反対説、折衷説それぞれで400字です。パート3は自説になりますが、さすがに社会科学系のレポート、論文で大学生が完全オリジナルの自説を展開することは難しいと思われます。パート3ではパート2で上げた3つの学説について、それぞれを400字程度で批判し、最終的にいずれかの説を支持する形が通常になります。
このように、これまでに示された形式を借りればレポート、論文の構成、章立て自体は容易に作ることができます。しかし、判例紹介や学説の紹介部分で異なるタイプの資料が3本以上集まっていなければ、上に挙げたような章立てにはなりません。「(2)論文作成の準備、資料収集」で示した資料収集の重要性はここにあります。結局、多くの資料を集め、資料を読み込み、これ以上の資料がないと確認した上でないと、章立てを作ることはできないことになります。

4.オリジナリティの重要性

さて、大学における論文、レポートで重要なのは、オリジナリティ(独創性)です。論文、レポートでは、自分の意見、考えを書きます。他人の意見、考え、アイデアを自分のものとして書いてしまったり、不適切な引用をしていれば、論文、レポートとして成立しません。大学生の論文、レポートは本や雑誌、あるいは小説や音楽のように販売されたりするものではありませんが、オリジナリティは同様のレベルで求められています。
もっとも、「3、構成、章立て」で説明したように、論文、レポートの骨格である章立てについても、本や論文を参考にすることになっています。法学はもちろん、すべての文化は先人からの影響なしに発展することはできません。
そこで、重要となるのは適切な引用を行うことで、他人のプライオリティ(優先権)への尊重を示し、同時に自分のオリジナリティを主張するという作業です。研究者、専門家による学説でなくとも、新聞、インターネット上の情報等も同じようなルールに基づき引用することです。また、裁判所の判決は公的な財産であり、私たちが自由に利用することができますが、その際にも内容の客観性を示すために公式判例集からの引用を明示する必要があります。
正しい引用方法については十分な方法論が示されており、あとは実行するだけといえます。引用の場合は正確に抜き書きし、括弧でくくって示し、引用元を明示するなど、正しい引用方法を習得してください。詳しくは末尾の参考図書を読んでください。特に法律文献の引用方法については、法律編集者懇話会による「法律文献等の出典の表示方法」(2014年版)があり、法学に関する論文、レポートを書く場合には参考にすべきです。
すべての大学教員は論文を書くという点では専門家です。いわゆるコピペを判定するソフト等を利用しなくても、問題のある論文、レポートは一読すれば気付きます。このような不正を見抜く力は、大学生であっても、上で述べたような論文、レポートの書き方を理解すれば、容易に身に付けることができます。インターネット上の資料をそのままコピーし、しかもそこに引用が付されていなければ、そのレポート自体を無効と判定されても仕方がありません。不適切な引用が行われていたのであれば、カンニング等と同様に不正行為の一種とみなされる危険性すらあります。このような問題が剽窃(ひょうせつ)、盗用となれば著作権法という法律違反にもなりえますし、学問にかかわる研究倫理に反する行為ともいえます。大学生に限らず私たち皆が簡単にコピペできてしまう世の中にいるわけですが、問題の重要性と重大性を知っておく必要があります。

終わりに

論文、レポートなどの文書は、自分自身も含めた誰かに内容を伝えるために書かれます。完成した論文、レポートを一度声に出して読んでみてください。友人、仲間、誰かに読んでもらってもよいかもしれません。いわゆる「てにをは」の誤用、誤字脱字、一文が長すぎるなど、気付かされることが多いです。誰もが最初から上手な文書を書けるものではありません。初学年のうちは、まず練習だと考えて、より丁寧に論文、レポートを書くべきです。最新のデータベースを利用して世界中から資料を収集し、時間をかけてよく読み込み、知識を深め、考え、疑問を持ち、解決策を模索し、それらを文書の形で表現すること、これが学問の世界です。

参考文献

広中俊雄・五十嵐清編『法律論文の考え方・書き方』(有斐閣、1983年)
大村敦志・森田宏樹・道垣内弘人・山本敬三『民法研究ハンドブック』(有斐閣、2000年)
山田剛史・林創『大学生のためのリサーチリテラシー入門』(ミネルヴァ書房、2011年)
西南法学基礎教育研究会『法学部ゼミガイドブック』(法律文化社、改訂版、2014年)
井田良・佐渡島沙織・山野目章夫『法を学ぶ人のための文書作法』(有斐閣、2016年)
弥永真正『法律学習マニュアル』(有斐閣、第4版、2016年)
法律編集者懇話会「法律文献等の出典の表示方法」(2014年版)
https://www.houkyouikushien.or.jp/katsudo/pdf/houritubunken2014a.pdf
(2020.01.31)

(土屋 孝次)

法学部共同研究室・資料室

1.施設概要

法学部共同研究室・資料室は、新法学部棟(C館)5階にあって、土曜・休日を除く毎日午前9時から午後5時まで開室しています(試験や一斉休暇など閉室する期間があります)。
資料室区画には、法学・政治学等関連図書資料のうち、ジュリスト・法律時報・法学教室・法学セミナーといった主要法律雑誌と国内の大学紀要を中心に開架所蔵し閲覧に供しています。当室に配架していない資料についても別室で閉架保管しているものがあります(一部閲覧できない資料があるほか、準備に時間がかかります)。
開架資料の中には、法学部学生にとって特に重要で、最新号には必ず目を通しておくべき雑誌資料も含まれていますので、皆さんの積極的な利用を期待しています。
また、共同研究室区画は、原則として資料閲覧のために設けられたものですが、授業や研究会等にも用いられることがあります。この場合、資料室利用者も自由に参加・退出できますので、興味のある会合が催されていたら是非耳を傾け発言などしてください(会合は予約制で法学部専任教員の申し込みが必要です)。

2.利用にあたっての注意事項

  • 共同研究室・資料室を利用することができる者は、法学部及び法学研究科学生並びに法学部専任及び兼任教職員並びに図書館職員です。これ以外の者は、法学部専任教職員の紹介を必要とします。
  • 室内は飲食禁止です。飲食を発見した場合、退室を命じます。飲料・食料等は鞄等に収めてください。
  • 室内では静粛を心がけてください。ただし、共同研究室区画において授業・会議等が行なわれている場合はこの限りではありませんが、この場合であっても必ず担当教職員の指示に従ってください。
  • 室内の資料・備品・機材等は帯出禁止です。ただし資料については、関連法規及び法学部が定めるところに従い、下記の注意事項を遵守して、これを複写することできます。
    • 複写は備付の複写機によることとし、所携のカメラ・スキャナ等による複写・撮影は認められないこと
    • 私的使用の目的によるものであること
    • 原則として著作物の一部分の複写に限ること
    • 複写は1部しか認められないこと
  • その他事務室職員の指示があるときはこれに従ってください。
  • 以上の注意事項に反する行為等が見受けられた場合、退室を命じます。この場合、学籍番号・氏名・所属(演習)を記録するとともに、氏名等を掲示した上で以後の入室を禁止します。