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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

ナノサイエンス・テクノロジーを駆使して
エネルギー・環境問題に解決の道筋を!
近畿大学理工学部 応用化学科 教授
多田弘明

私たちの研究のコンセプト

私たちの夢は、化学の力で目に見えない極微の(光)触媒材料をデザイン-合成し、これを用いて現在人類が直面しているエネルギー・環境問題の解決に貢献することです。
スペースも限られているので、ここでは私たちの主研究テーマの一つである“ソーラー酸素サイクルケミストリー”について説明します(図1)。これは、太陽光エネルギーを駆動力として、水 → 酸素(O2) → 過酸化水素 → 水からなるサイクルを回すというもので、つい最近私たちがアメリカ化学会の物理化学雑誌に発表したコンセプトです。

図1 “ソーラー酸素サイクル”の概念図。
Photocatalyst,Thermocatalystは、それぞれ光触媒、熱触媒を表わす。

現在の化学工業プロセスのうち、約30%が酸化プロセスを含んでいると言われています。化学物質変換では、反応速度を上げることもさることながら、欲しいものだけを選択的に得ることが最も重要です。しかし、燃焼反応を考えればわかるように、酸素分子を用いて高温で酸化すると、有機物はノンストップで二酸化炭素まで酸化されてしまいます。二つの不対電子をもち、言わば“化学的じゃじゃ馬”である酸素分子(O2)に二つの水素原子を結合させて“落ち着かせた”過酸化水素(H2O2)を酸化剤として、室温で選択的に酸化反応を進めることができれば、反応後に過酸化水素は水に戻るので、エネルギー・環境の観点から理想的な物質変換プロセスになると期待されます。
以下、“ソーラー酸素サイクル”のステップごとに解説します。

ステップ1:ソーラー水分解

中島君写真

“ソーラー酸素サイクル”のスタートポイントは、水を分解し、酸素(O2)を得る反応です。この反応はエネルギー的に上り坂(アップヒル)で非常に起こり難く、2,500℃に水を加熱しても、その分解率は僅か2%に過ぎません。そこで、半導体光触媒(*1)の登場です。バナジン酸ビスマス(BiVO4)は、可視光を照射することにより水を酸化してO2を生成することが知られていますが、残念ながらその効率は高くありません。最近、私たちは、銅ポルフィリン錯体とBiVO4からなるハイブリッド光電極を組み込んだ光電気化学セルを用いることによって、可視光照射下で効率良く水を酸化することに成功しました。さらに詳しく調べたところ、これはBiVO4の水の酸化特性と錯体の電極触媒作用の協奏効果によるものであることが明らかになりました。この研究は、中島脩君(大学院博士前期課程1年生)、根岸凌君(大学院博士前期課程2年生)と一緒に行ったもので、その成果はイギリス王立化学会の代表的な雑誌に掲載されました。
現在、更なる活性向上と長寿命化を達成すべく、新奇な可視光応答型ハイブリッド光触媒の開発に取り組んでいます。

図2 銅ポルフィリン錯体表面修飾バナジン酸ビスマスによる水の光酸化反応。
SHEは標準水素電極電位を表わし、縦軸の値が低い(上方)ほど電子エネルギーが高いことを示す。

ステップ2:ソーラー過酸化水素合成

次のステップはO2からの過酸化水素(H2O2)合成です。この反応はエネルギー的に下り坂(ダウンヒル)で熱力学的には起こりやすいのですが、困ったことにH2Oへの還元の方がもっと起こりやすいのです。また、H2O2は不安定であるためにいったん生成しても分解されやすいという問題もあります。そこで、O2還元反応を低温で行い、かつH2O2で止めることがポイントになります。約5年前、私たちは微量のエタノールを含む水中で金ナノ粒子を担持した酸化チタン(Au/TiO2)に紫外光を照射することにより、室温でミリモル濃度レベルのH2O2が生成することを見出しました。TiO2光触媒系でもH2O2は生成するのですが、Auナノ粒子を担持することによって、何と約1,000倍も濃度が上がったのです。この研究は近畿大学有害物質処理室の納谷真一博士、寺西美和子さんとの共同研究で行ったもので、その成果は化学の主要誌の一つであるアメリカ化学会の専門雑誌に掲載されました。現在、H2O2の濃度を約20ミリモル濃度にまで高めることに成功しており、さらに可視光応答型光触媒によるH2O2合成に挑戦しています。うれしいことに私たちの研究がきっかけとなり、今では国内外の多くの著名な研究グループが光H2O2合成の研究を始めています。
ところで、近畿大学有害物質処理室では従来の排水分析・管理に加えて、業務の一環として環境関連の基礎研究を行い、その成果を情報発信しています(ホームページ参照:http://www.kindai.ac.jp/rd/research-center/hazardous-substances/index.html)。おかげで、外部の企業・大学から依頼分析を受注できるようになってきています。

図3 Au/TiO2光触媒によるO2からのH2O2合成。
IETは界面電子移動を表わす。

ステップ3:過酸化水素によるグリーン物質変換プロセスの開発

清長友和 博士

最後はいよいよ収穫の段階、すなわち合成したH2O2を酸化剤として用いた地球環境に優しい“グリーン”物質変換プロセスの開発です。私たちは2009年にAu/TiO2などの金ナノ粒子を担持した金属酸化物(Au/MOs)が、H2O2を適度に活性化する熱触媒としても働くという事実を突き止めまたした。この研究は、近畿大学で博士号を取得した清長友和君と一緒に行った研究です。その後、清長君は光触媒で著名なWongyong Choi教授(韓国POSTEC大学)、さらに錯体化学で世界をリードされている北川進教授(京都大学)の研究室でポスドクを務め、2015年度から久留米高等工業専門学校の助教として教育、研究に従事しています。

さらにこの研究を発展させるべく、私たちはAu/MOs-H2O2熱触媒系による物質変換プロセスの開発を粘り強く続けています。これまでに幾つかの物質変換プロセスの開発に成功していますので、以下に紹介します。

(1)アルコールからアルデヒドへの低温酸化
Au/TiO2-H2O2熱触媒系により90℃でシンナミルアルコールからシンナムアルデヒドへの化学選択的な酸化反応が進行することを見出しました。アルコールからアルデヒドへの酸化反応は、物質変換の基幹プロセスの一つであることから、様々なアルコールへの応用が期待されます。

(2)Auナノ粒子-ポリアニリン複合体の室温合成
Au/TiO2-H2O2熱触媒系により室温でアニリンが重合し、TiO2とポリアニリンの重合体が生成することを見出しました。得られたAu/TiO2とポリマーの複合体は光触媒、太陽電池、エレクトロクロミックデバイス(*2)、リチウムバッテリー、ガスセンサーなどへの様々な応用が期待されます

(3)2-ナフトールからビナフチル(BINOL)の室温合成
Au/SrTiO3-H2O2熱触媒系による2-ナフトールの酸化的二量化が室温で進行し、BINOLが選択的に生成することを明らかにしました。BINOLは医薬品や農薬の不斉合成(*3)に使用される重要な化合物であることから、この研究成果は最近、Chemical Communicationsに掲載されるとともに、扉ページのメインイラストに選ばれました。

図4 Au/SrTiO3-H2O2触媒系による2-ナフトールからのビナフチル合成。

現在も新しい“グリーン”プロセスが芽生えつつあり、単なるアカデミア研究で終わらせることなく、実用に耐え得るような確固とした技術に成長させたいと考えています。同時に、これらの研究を通じて学生諸君が“自立した研究者・技術者”への歩みを進めてくれることを願っています

最後に

私の専門は光電気化学ですが、以上説明した通り、私たちの研究はそれに止まらず有機化学から固体物理まで多岐に渡ります。これまでの研究成果は、藤島武蔵講師(無機固体化学)、納谷真一博士(有機物理化学)をはじめ、近畿大学応用物理化学研究室の多くの学生諸君の真摯な研究活動によって得られたものです。また、ここでは触れませんでしたが、理論的な研究では量子計算を専門とする小林久芳教授(京都工芸繊維大学)、Michael Nolan博士(University College Cork,アイルランド)との共同研究を進めています。研究資金面では、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C))に加え、文部科学省私立大学戦略的基盤研究形成支援事業「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」にも支えられています。関係各位へは感謝の気持ちでいっぱいです。

メッセージ

太陽光エネルギーの全量は?現在人類が1年間に消費している全エネルギーは、1時間に地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーに相当します。このことは太陽光のエネルギーの1/1000を集めて、それを10%の効率で利用することができれば、私たちが必要とするエネルギーを太陽光エネルギーだけで賄えることを意味しています。光は波ですが、粒子(フォトン)の集団とみることもできます。太陽光のスペクトルでは、波長約500 nmでエネルギーが最大になります。波長500 nmのフォトン1個のエネルギーは?温度に換算すると、何と約30,000℃になります。エネルギー的には水を分解して水素と酸素を得ることも夢ではありません。一方、私たちの化学のキー材料の一つはナノスケールの半導体です。半導体の光吸収特性、さらに化学反応性は基本物性であるバンドギャップに依存します。ある半導体の粒子サイズをナノレベルで厳密にコントロールすると、そのバンドギャップを広い範囲で連続的に変えることができます。従って、同じ物質からなる半導体のサイズを制御することは、バンドギャップの異なる無限個の材料を合成することと等価です。どうですか?一見不可能が可能になる予感がしませんか?
“地球スケールとナノスケールを結びつける半導体・金属ナノ構造体の光電気化学”を一緒に開拓しましょう!

用語説明
*1 半導体光触とは
光を吸収することにより表面で酸化還元反応を誘起する半導体であり、その代表が酸化チタンである。半導体光触媒の研究は、ノーベル賞候補との呼び声も高い藤嶋昭先生(現在、東京理科大学学長)らが1972年にNature誌に発表した“本多-藤嶋効果“が引き金になっている。
*2 エレクトロクロミックデバイスとは
電圧の極性を反転させることによって可逆的に色変化を起こす電気化学デバイスである。導電性ポリマーであるポリアニリンやポリチオフェンは、エレクトロクロミック特性を示すことが知られている。
*2 不斉合成とは
通常の有機化学反応によって不斉炭素原子をもつ化合物を合成しても、光学活性は示さず、ラセミ体が得られるのみである。しかし光学活性体の影響のもとに合成を行うと、光学活性の物質を合成することができる。

応用化学科 教授
多田弘明

所属 学科 / 応用化学科専攻 / 物質系工学専攻
研究室 応用物理化学研究室
略歴
1982年 京都大学大学院工学研究科修士課程修了
1982年 日本板硝子株式会社 入社
1997年 日本板硝子 退社
1997年 近畿大学環境科学研究所 助教授
2002年 カリフォルニアバークレー校客員研究員
2005年 近畿大学理工学部 応用化学科 教授
受賞
1991年 色材協会論文賞
2007年 色材協会論文賞
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