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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

元素を自在に結合させて
世の中を一変させる新しい高機能材料を創出する
近畿大学理工学部 応用化学科 准教授
松尾司

目に見える物質への関心から化学の道へ

私は北海道の生まれで、幼稚園の頃までは「北の国から」みたいな田舎で育ちました。高校では、目に見えない力を扱う「物理」よりも、目に見える物質を扱う「化学」の方が好きだったので、東北大学理学部化学科に進学しました。大学院博士後期課程から筑波大学でお世話になり(指導教員:関口 章先生)、博士号取得後も関口研究室で助手を続けました。その後、大学を離れて二つの研究所(分子科学研究所・理化学研究所)で11年間働きました。

理研では「研究のプロ」として鍛えられました。玉尾晧平先生(理化学研究所研究顧問)が特別推進研究をされるにあたり、副ユニットリーダーとして声をかけて頂いたのです。玉尾先生の親身なご指導の下、博士研究員(ポスドク)たちの昼夜をいとわぬ努力の甲斐あって、目標であったScience誌やNature Chemistry誌に研究論文を発表することができました。月刊「化学」の表紙に採用して頂いた(2011年8月号)のも嬉しかった記憶です。書店に並んでいるのを見た時には感動しました。ちょうど東日本大震災が起きた後の最初の夏でした。

理研から近大への異動は、まさにタイミングであり、「縁」だと思います。理研では5年間の時限付きの研究ユニットでした。異動前の2012年のお正月に厄払いに明治神宮を訪ねましたが、その時に「教育勅語」を頂いて、そこには「一人前の実力を養ったら、それを活かせる職業に就き、『喜んでお手伝いします』という気持ちで公=世のため人のため働きましょう。」と書かれていました。
研究所ではポスドクたちと一緒に研究に没頭して幸せな毎日でしたが、周囲に学生(教え子)はほとんどいなかった。だから、これまでにお世話になった多くの先生からの御恩に報いるためにも、近畿大学で多くの学生たちに化学を教えることは天職だと思っています。
近畿大学の学生は明るく元気でパワーがあります。私は研究室に配属されたら学生でも研究者として接するように心がけており、「元気の良さ」は研究活動でも大変重要だと思っています。

主宰する応用元素化学研究室の「元素化学」とは

「元素」とは物質を構成する最も基本的な要素であり、人工的につくられたものを含めると118種類が知られています。2015年末に、113番、115番、117番、118番の新元素の発見が認められました(理研の「113番元素の命名権獲得」がニュースになりましたね)。1869年にロシアの化学者メンデレーエフは、当時知られていた元素を重さ(原子量)の順に並べ、性質の似た元素が周期的に現れることをみつけました。これを「周期律」といいます。性質の似た元素を同じ列に並べたものを「元素周期表」と呼び、化学や物理学を学ぶ基本となっています(「一家に1枚周期表(第8版)」、 科学技術週間ホームページからダウンロードできます)。

人間にそれぞれ個性があるように、元素にもそれぞれの個性があります。元素の本質的特性に着目した「物質創成」を「元素化学」と呼んでいます。私は東北大学4年生の時に、「全ての有機ケイ素化合物は、人類の英知が生み出した人工物質である。」という櫻井英樹教授の言葉に感銘を受けて、櫻井研究室に入りました。周期表では、炭素もケイ素も同じ14族元素です。炭素もケイ素も「手の数」(何個の原子と結合をつくるか)は4つであり、互いによく似た性質が多くみられます。ところが不思議なことに、自然界における炭素とケイ素の役割は大きく異なるのです。炭素は私たちの体をつくる有機物の基本元素です。一方、ケイ素は酸化物として地殻(砂、岩石など)に豊富に存在し、ガラスや半導体としても利用される無機物の中心元素です。自然界に、炭素とケイ素が結び付いた有機ケイ素化合物は一つもありません。
「応用元素化学研究室」では、炭素やケイ素をはじめ、周期表にある様々な元素を従来にない形で結合させて、優れた機能をもつ新しい物質をつくり出そうとしています。内容については応用元素化学研究室ホームページもご覧ください。

最近の研究成果

ケイ素の二重結合(Si=Si結合、ジシレン)と炭素のパイ電子(*1)を組み合わせた「ジシレン化合物」に関する研究成果があります。2015年11月と2016年1月に、アメリカ化学会誌(JACS)に2つの論文がアクセプトされました。1つの論文は理研の時の仕事をまとめたもので、Si=Si結合と芳香族化合物(*2)の代表格であるベンゼン環が交互に配列した新しいパイ共役系(*1)物質の創成に関するフルペーパーです。Si=Si結合やベンゼン環の数が増えて分子が長くなっていくと、化合物の色は黄色、赤色、紫色、青色へと鮮やかに変化します。
もう1つの論文は、近大で早川直輝君(大学院博士後期課程1年)と一緒に研究したコミュニケーション(速報)です。予期せずにZ体(シス体)(*3)のジシレンが選択的に生成しました。ベンゼン環が4個ひし形のように結合したピレン環が互いに重なり合って安定化しています。この化合物は、溶媒の誘電率の違いによって発光波長が変化します。特異な分子内電荷移動発光の化学現象について明らかにしました。

そもそも第3周期以降の元素の二重結合や三重結合は結合力が弱く、空気中の酸素や水と反応してすぐに壊れてしまいます。1981年にウィスコンシン大学のWest先生は、ケイ素の二重結合をもつ化合物(ジシレン)の合成に初めて成功しました。それはケイ素の周りを「防御壁」で包む方法であり、この防御壁となる原子の集団(置換基)は「立体保護基」と呼ばれています。理研では、新しい立体保護基として「縮環型立体保護基(Rind基(*4))」を開発しました。空気中ですぐに壊れていたジシレンが、Rind基を用いると固体状態で1年以上も安定になったのです。例えば、ベンゼン環が2個結合したナフタレン環とケイ素がつながった「ナフチル置換ジシレン」は、固体状態で数年以上も安定であり、室温で顕著な発光を示します。有機EL(*5)素子の発光層として機能することも明らかにしました。ジシレンを有機電子デバイスに応用した初めての例です。このジシレン化合物は、2014年に東京化成工業(株)から試薬製品化されました。高周期元素の多重結合化学種を初めて市場に送り出すことができました。

近畿大学では平成26年度から文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成(研究代表者:藤原 尚)」がスタートしました。私はこのプロジェクトの研究者を担当しており、早川君はリサーチアシスタント(RA)としてサポートを受けています。早川君は「発光性ジシレン化合物」を研究課題としており、ドイツや韓国で開催された国際会議に出席してベストポスター賞を受賞しました。2016年度から日本学術振興会特別研究員(DC2)の採択が内定しています。私自身は博士課程で学振の特別研究員に採択されませんでしたので、早川君を羨ましいと思いつつ、自分よりも優れた研究者に育ってほしいと願っています。

これから目指す化学の方向性

近大に異動した2012年に、先に述べたウィスコンシン大学のWest先生が近大を訪ねてくれました。ケイ素化学の世界の研究拠点の一つに近大を認めて頂いたことがとても嬉しかった。ですから、ジシレンの基礎化学から物質科学への展開(ケイ素のπ電子(*1))に関する研究は、これからも世界をリードしていきたいと思います。
化学には2つの顔があります。「新しい物質を生み出すこと」「役に立つ物質を創り出すこと」。応用化学科には、日々チャレンジする先生、大学院生、学生がたくさんいます。化学の多様性があること。これが最大の特長だと思います。多様な価値観を学んで、自分の物質観を磨いていきたいと思います。

私は2015年3月までJSTさきがけ研究員「新物質科学と元素戦略(研究総括:細野秀雄先生)」を兼任し、多くの材料科学者と触れ合うことができました。これは、自然界に豊富に存在するケイ素や鉄などのありふれた元素から新しい物質・材料を創り出そうというもので、資源の乏しい我が国がイニシアチブを握っています。「元素戦略」「分子技術」「マテリアルズインフォマティクス」、新材料の設計や発見に理論科学、実験科学に加えて、計算科学の重要性が高まっています。また私は、新学術領域研究「感応性化学種が拓く新物質科学(領域代表:山本陽介先生)」の計画班員を担当しています。独自の低配位化合物に関する研究成果とともに、共同研究成果も世に送り出したいと思います。

長期的には、私は実験化学や合成化学を泥臭くやっていくことだと考えています。
「大切なことは自然が教えてくれる。」これは分子研でお世話になった川口博之先生(東京工業大学教授)の言葉です。予想通りに研究が進んだら、それはひょっとしたら簡単なことをしているだけかも知れません。仮説と検証を繰り返しながらも、イレギュラーなもの、予期しないものを見つけたい。そのために、研究室の大学院生や学生と一緒になって「化学の泥んこ遊び」を続けたいと思います。小さい頃、雪解けの時期に夢中になってダムを作ったり壊したり、ぐしょぐしょになって泥んこ遊びしたように…。

メッセージ

私の夢は「近大からノーベル賞」です。私が教えた学生が、いつかどこかでノーベル賞を受賞したらどんなに素晴らしいでしょう。元素の特性に着目した「物質創成」とともに、「物質変換」や「元素循環」もとても大切だと考えています。特に「炭素循環」は「人類の存続に貢献する知」の一つです。地球上に存在する元素の数(量)は有限であること、元素は核反応しない限り不変であること、「元素の有限性と不変性」に基づく理想的な炭素循環の姿(在り方)を人類は思い描くことができるでしょうか。私は、未来を担う若者にはそれができると信じています。
私自身もJST ACT–C(先導的物質変換領域)の共同研究者として、二酸化炭素や一酸化炭素、窒素分子、水素分子などの無機小分子の活性化と有用物質への変換に挑戦していきます。

用語説明
*1 パイ電子(パイ共役系/π電子)とは
パイ結合上の電子。結合の方向とは直交している。一般に共役系においてはパイ電子が動き回ることで分子が安定化する。共役系とは二重結合と単結合が交互に繰り返す系のこと。
*2 芳香族化合物とは
ベンゼンをはじめとする環状の共役系化合物。芳香族性を有する化合物。
*3 Z体(シス体)とは
化合物の立体化学において、二重結合を軸として2個の置換基が同じ方向に位置するものを表す。2個の置換基が互いに逆の方向に位置するものは、E体(トランス体)と表す。
*4 Rind基とは
1,1,3,3,5,5,7,7-octa-R-s-hydrindacen-4-ylの略。巨大な炭化水素の置換基。ベンゼン環を基本とするアリール基の一種。Rind基をつなげるとパイ電子系骨格の平面性が向上する特徴を持つ。これはRind基の内側の置換基がパイ電子系を上下から挟み込んで、ホッチキスのような役割をするため。
*5 有機ELとは
有機エレクトロルミネッセンス。有機化合物が電気によって発光する現象。

応用化学科 准教授
松尾司

所属 学科 / 応用化学科
研究室 応用元素化学研究室
略歴
1989年 北海道立北見北斗高校 卒業
1994年 東北大学理学部化学科 卒業(指導教官 櫻井 英樹 教授)
1996年 東北大学大学院理学研究科化学専攻博士課程前期課程 修了(指導教官 吉良 満夫 教授)
1999年 筑波大学大学院博士課程化学研究科 修了(指導教官 関口 章 教授)
博士(理学)取得
1999年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
1999年 筑波大学先端学際領域研究センター(化学系)助手
2001年 分子科学研究所錯体化学実験施設 助手(川口グループ 川口 博之 助教授)
2007年 理化学研究所フロンティア研究システム機能性有機元素化学特別研究ユニット 副特別研究ユニットリーダー
2008年 理化学研究所基幹研究所機能性有機元素化学特別研究ユニット 副ユニットリーダー(玉尾 皓平 ユニットリーダー)
2012年 近畿大学理工学部 応用化学科 准教授
受賞
2000年12月 筑波学都資金財団 平成12年度教育研究特別表彰
2001年2月 井上科学振興財団 第17回井上研究奨励賞 「四員環及び五員環を機軸とするケイ素置換π電子系アニオン種に関する研究」
2001年3月 日本化学会 BCSJ賞
2001年3月 日本化学会 第15回若い世代の講演会証
2003年3月 日本化学会 第52回進歩賞 「ケイ素基の特性を活用した四員環及び五員環を機軸とするπ電子系アニオン種に関する研究」
2010年11月 ケイ素化学協会 第15回ケイ素化学協会奨励賞 「π共役電子系へのケイ素導入効果の多角的研究」
2011年11月 日本化学会 BCSJ賞
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