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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

「地図に残る仕事」から「人の役に立つ仕事」へ
「土木」が担う、人と環境の未来
近畿大学理工学部 社会環境工学科 准教授
河井克之

青春期に土木を志す

私が過ごした高校時代、我が国はまさに第四次全国総合開発計画の真っただ中にあり、青函トンネル(1988年)、瀬戸大橋(1988年)の開通と、世界に日本の土木技術の高さを誇る出来事が立て続けに起こりました。さらには関西国際空港や明石海峡大橋の工事が始まったのもこの時期です。当時、「地図に残る仕事」がしたいというのは、希望に胸を膨らませた高校生が土木を志すには十分な理由でした。

阪神大震災発生

神戸大学で4年生になり、進路を決める頃にはすでにバブル経済は崩壊しており、「地図に残る仕事」自体が減退期に入って来ました。そこで本当にしたいことを探す2年間にしようと、とりあえず大学院に進みました。大学院で当時指導教官であった軽部大蔵先生は神戸大学の看板教授のひとりで、土木学会、地盤工学会の論文賞を受賞しておられ、私自身研究にはやりがいも感じていました。
そんな折、大学院1回生の冬に阪神・淡路大震災が発生しました。私も大学の地震調査隊の一員となり、カメラと大量のフィルムを持たされて、自転車で神戸市内を走り回りました。震災では私の実家も全壊しましたが、神戸の惨状は、そんな自分の状況が特別に感じられないほどでした。普段なら電車で1時間足らずの通学が、震災直後は自転車で2時間かけて通うことになりましたが、まさに戦場のような街で、大量の物資を抱えてやってくるボランティア、瓦礫撤去や道路の修復に奔走する人を見ながらの通学は、それほど苦ではなかったような気がします。やがて復興が進むにつれて自宅の最寄り駅から、少しずつ神戸方面へ電車が延伸して行き、その度に大学までの通学の時間が1時間半、1時間と短くなって、大学の最寄り駅まで開通した時には、世界が変わったような気がしたものです。こうしてそれまで断絶していた物資と人の交流がようやく成し遂げられたことに感動を覚え、自分の専攻している「土木」に使命感も抱き、そんな経験もあって「多くの人の役に立つ仕事」をしたいと思うようになりました。

不飽和土の力学

(図1)地盤材料に作用する力

私たちが普段何気なく歩いている地盤は、細かな土粒子が集まったものです。それぞれの粒子はバラバラでありながら、私たちの身体を無理なく支えられるだけでなく、巨大な橋や人工島もそんな地盤の上に建設されています。ただ、水を張った田んぼや乾燥した砂浜の上を歩きにくいように、地盤材料である土は含水量で強度や圧縮性が全く異なってしまいます。自然環境の中では降雨や蒸発、地下水位の変動などによって地盤は常に含水量が変化しています。豪雨時に発生する土砂崩れや河川増水時の堤防決壊などは、含水量が低い状態では安定していた地盤構造物が、含水量の増大によって不安定になることで発生します。

地盤材料をある大きさで見ると、土粒子が作る骨格の隙間に水と空気が存在する三相構造になっています。土粒子接点では力を伝達し合っており、外力が等方的に作用する場合、より強固な土骨格となりますが、接点ですべりを生じさせるようなせん断力が作用すると、たちまち不安定になります。地盤はこの等方的な力とせん断力の比がある値に達すると破壊します。土間隙に存在する水と空気はこの接点での力の比を変化させ、すべりに影響を及ぼします(図1)。

一般的に、地下水位以下の地盤は間隙が水で満たされた「飽和状態」にあり、地下水位以上の領域では空気も混在する「不飽和状態」です。私の専門は、この「不飽和状態」から「飽和状態」までを包括的に表現できるモデルを構築し、地盤構造物の品質評価手法を確立することです。水と空気が混在している「不飽和状態」が土の一般形で、その中で空気がゼロの特別な状態が「飽和状態」であるにも関わらず、三相構造は二相構造に比べて力学挙動が著しく複雑になるため、「不飽和状態」の力学モデルが注目されるようになって来たのは、ごく最近になってからのことです。地盤材料は「不飽和状態」ではより大きな強度で圧縮性も透水性も小さくなることから、「飽和状態」を考慮した設計、維持管理が安全側に作用することも、「不飽和状態」の力学モデル構築が遅れた原因と言えます。降雨や河川水の浸透による地盤構造物内部の含水量変化や変形を予測することができれば、その品質変化の過程を知ることができ、構造物の適切な維持管理や補強に役立てることができるようになるだけでなく、災害時の警報発令・解除の基準を明確にできます(図2)。

(図2)外部からの水分供給が地盤構造物に及ぼす影響

また、地盤内の空気の挙動に注目することで明らかになってくる挙動も多くあると考えます。例えば、斜面崩壊の前兆現象として知られている「異音」や「異臭」の発生については、そのメカニズムがよく分かっていません。ただ、音も臭いも空気を媒介にして伝わるものと考えると、崩壊前に地盤内で空気圧が局所化することが原因とも考えられます。このような挙動をいち早く観測できれば、避難行動の迅速化にもつながるのではと考えます。

(図3)不飽和地盤を介した水収支

不飽和土の力学の適用範囲は、このような防災、減災にとどまりません。地盤の水収支を考えた場合、気圏と地圏の水分移動は必ず不飽和地盤を介することになります。この不飽和地盤は地球規模ではごく薄い範囲ですが、私たち人間を含めた動物、植物のほとんどは、この不飽和地盤を生活空間としており、環境の観点からも非常に重要な役割を担っていると言えます(図3)。

地中の塩類が上昇し、地表面で集積することによって発生する塩害は、地表面からの蒸発量が地盤への水の供給量を上回ることで発生します。つまり、蒸発量を抑制することが、地盤内で地表面に向かう物質移動を抑制することに繋がります。不飽和土の力学を用いることで、蒸発量抑制のためにどのような地盤改良を行えばいいかが分かります。タイの東北部は地中深くに海水相当の高濃度地下水があり、それが地表面で塩類集積を引き起こし、農地被害が出ています。この地域では古くからこの地下水を汲み上げ、製塩を行っているのですが、地下水汲み上げによる地盤陥没も多発しています。物理学的に言えば、物質移動問題と変形問題が混在した状態ですが、一つの力学モデルの中でこれらの挙動を連成させて表現することで、効果的な対策を導くことができます。つまり、環境に配慮したインフラ構築が行えるということです(図4)。

(図4)不飽和土の力学の環境問題への適用

こうして自然との調和の中で、自然災害から「人の生活を守る」ことに貢献することが、阪神大震災の時に思った「多くの人の役に立つ仕事」につながるのではないかと、私は考えているのです。

メッセージ

社会環境工学科で学ぶ「土木」の語源となっている「築土構木」とは、安全・安心な人間生活のために国づくりの基盤を整えるという思想です。昔の土木工事が僧侶を中心として行われていたように、「土木」は仕事そのものが社会貢献につながります。
これから大学や大学院で学ぶ学生の皆さんには、「人の役に立つ」ことに喜びを感じ、志を持って、自らの知識・技術を高めていってほしいと思います。

用語説明
前兆現象とは
土砂災害発生に先立って様々な前兆があることが知られている。斜面の亀裂や孕み(はらみ)といった直接的なものや、すべりによって樹木の根が切れる音といった間接的なものが挙げられる。その中で異音や異臭については過去の経験から伝承されているものの、力学的な説明は未だなされていない。
築土構木とは
中国の淮南子(えなんじ)という思想書の中に記されている言葉。昔の人類は洞窟などを住居としていたので暑さ寒さに耐えるしかなかったが、土を築き、木を構えて住居とすることで、安心して生活できるようになったということ。

社会環境工学科 准教授
河井克之

所属 学科 / 社会環境工学科専攻 / 環境系工学専攻
研究室 環境地盤工学研究室
略歴
1994年 神戸大学 工学部 土木工学科 卒業
1996年 神戸大学大学院 自然科学研究科博士前期課程 建設学専攻 修了
1996年 西日本旅客鉄道株式会社
1998年 神戸大学 工学部 建設学科 助手(~2007) 助教(2008~)
2008年 神戸大学 都市安全研究センター 助教(~2009) 准教授(2009~)
上記期間のうち
2004年 文部科学省短期在外研究員(米国 バージニア工科大学)
2004年
~2006年
日本学術振興会海外特別研究員(米国 バージニア工科大学)
2015年 近畿大学 理工学部 社会環境工学科 准教授
受賞
2001年 土木学会論文奨励賞 (土木学会)
間隙比の影響を考慮した水分特性曲線モデル
2003年 前田工学賞 (前田記念工学振興財団)
水分特性曲線のモデル化および不飽和土における土骨格と土中水の連成問題
2008年 地盤工学技術奨励賞 (地盤工学会)
タイ東北部の塩害調査と「ジグソー・ピーシズ作戦」
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