低風速から強風域まで表層の流れが風波に影響することが判明

2020.09.16

  • 研究

本文
兵庫県立大学大学院工学研究科の高垣直尚助教、近畿大学理工学部機械工学科の鈴木直弥教授、ロシア科学アカデミー応用物理学研究所Yuliya Troitskaya博士らの研究グループは、気候システムの変動・変化の最も基本的な要素の1つである大気・海洋間運動量輸送の正確なモデル化で重要となる風波の発達におよぼす表層の流れの影響を知るために、本学、京都大学、ロシア科学アカデミーの3種の海洋シミュレーション装置である風波水槽を用いて風速7m/s~67m/sにおいて風波の発達を比較することで、低風速のみでなく砕波を伴う強風域でもドップラーシフトが発生していることが確認された。
本研究成果は、令和2年9月10日にヨーロッパ地球科学連合(European Geosciences Union)の 学術雑誌Ocean Scienceに掲載されました。

概要
海洋の表面上は、純粋な風波のみでなく、うねりや表層の流れ(海流を含む)が混在しています。したがって風波の発達における表層の流れの影響を調査することは重要であり、特にドップラーシフトと呼ばれる風波における表層の流れの加速効果において強風域での研究例はほとんどありません。
そこで本研究では、近畿大学・京都大学・ロシア科学科学アカデミー応用物理学研究所の3種の海洋シミュレーション装置である風波水槽を用いて、風速7m/s~67m/sにおいて27ケースの表層流を伴う風波を再現し、表層流の影響の1つである風波のドップラーシフトについて検討しました。その結果、低風速のみでなく砕波を伴う強風域でもドップラーシフトが発生していることが確認されました。また、ドップラーシフトによって風波が加速されるため、測定された風波の位相速度が、表層流の速度と理論的に計算した位相速度の和で表すことができることがわかりました。

背景
近年、地球温暖化による海水面の上昇、砂漠化、異常気象などが深刻化しており、特に巨大化した台風・ハリケーンや爆弾低気圧などの異常気象による被害が急増しています。これらの被害の対策を講じるためには、地球温暖化による気候変動の予測を正確に行うことが重要であり、そのためには、気候システムの変動・変化の最も基本的な要素の1つである大気・海洋間での乱流輸送(運動量・熱・物質)を正確に評価することが重要です。その中でも、特に大気・海洋間の運動量は、風波や海流などの主エネルギー源であり、大気・海洋間熱・物質輸送の促進力に繋がるため、大気・海洋間運動量輸送は重要です。
一般的に大気・海洋間運動量フラックスは経験的な式で求められています。しかし、この式には係数が使用されていますが、便宜的に風速のみの関数で与えられているだけであり、表層の流れ、うねり、風波、砕波、気泡生成までの異なるスケールの様々な現象を含む海面境界過程の影響は考慮されていません。そのため、風速に対する係数の値は大きく変動しており、未だ正確に評価できるモデルは確立されていません。
外洋での観測においては、測定器設置場所の制限があることや時々刻々と風および波が変化する非定常で複雑な海表面においては個々の現象を抽出して流速、温度、濃度等の正確な計測が困難であることがあげられます。さらに、台風やハリケーンなどの強風域での計測は非常に困難です。そこで低風速から高風速に至る広風速域における定常の風波乱流場で正確な乱流計測を可能にする海洋のシミュレーション装置である風波乱流水槽を用いて個々の現象を再現することで流速、温度、濃度等の正確な計測が行うことで、大気・海洋間運動量輸送の詳細なメカニズムを解明することは重要です。

掲載論文
雑誌名:"Ocean Science"
論文名:「Effects of current on wind waves in strong winds」
著 者:高垣直尚(兵庫県立大学)、鈴木直弥(近畿大学)、Yuliya Troitskaya(ロシア科学アカデミー)、田中千晶(近畿大学)、Alexander Kandaurov(ロシア科学アカデミー)、Maxin Vdovin(ロシア科学アカデミー)
掲載日:2020年9月10日
DOI:https://doi.org/10.5194/os-16-1033-2020

研究助成
(1)研究費名:科学研究費補助金
研究種目:基盤研究(B) 
研究題目:風の海面摩擦係数における波浪・風速変動の影響
研究代表者:鈴木直弥(近畿大学)

(2)研究費名:科学研究費補助金
研究種目:基盤研究(C)
研究題目:高速気流により水面に生成される超高密度気泡層を通しての
運動量輸送機構の解明
研究代表者:高垣直尚(兵庫県立大学)

(3)研究費名:科学研究費補助金
研究種目:国際共同研究強化(B)
研究題目:強烈な台風下の海水面を通しての熱・運動量輸送機構の解明と
そのモデル化
研究代表者:高垣直尚(兵庫県立大学)

(4)研究費名:2国間交流事業(共同研究)
   研究題目:強風下における大気海洋表面を通しての熱・物質・運動量輸送に関する実験的研究
   研究代表者:高垣直尚(兵庫県立大学)

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風速約26 m/s(実際の海洋の高度10m風速:約35 m/s)のときのサンプル写真(近畿大学風波水槽)

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海洋シミュレーション装置の風波水槽の概要図
上段:近畿大学 水槽部の長さ6.5m、幅0.3m、高さ0.8m
中段:京都大学 水槽部の長さ15m、幅0.8m、高さ1.6m
下段:ロシア科学アカデミー応用物理学研究所
水槽部の長さ15m、幅0.4m、高さ1.9m