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北川進先生のノーベル化学賞受賞について

2025.10.08

ノーベル化学賞の受賞が発表された北川進先生は、大学院修了後の昭和54年(1979年)4月から平成4年(1992年)3月までの13年間、近畿大学理工学部で教鞭をとられていました。
本件について、近畿大学学長 松村到と、当時の上司である近畿大学名誉教授 宗像惠のコメントです。


北川進先生、ノーベル化学賞受賞、誠におめでとうございます。
近畿大学の教員として過ごされた13年間は、非常に熱心に研究に打ち込まれたとお聞きしております。その研究が今回の受賞の礎となったとすれば、非常に喜ばしいことです。
本学は、北川先生が教鞭を取られていた理工学部をはじめとして、9つの理系学部を擁しています。今回の受賞は、その約17,000人以上の理系学生の大きな励みと目標になるに違いありません。第二、第三の北川先生を輩出できるよう、本学の教育・研究の活性化に邁進する所存です。

近畿大学学長 松村 到


北川進先生、ノーベル化学賞受賞、誠におめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
北川先生は、金属イオンと有機化合物との結合反応(配位結合)を利用することで、ナノメートルサイズ(10−9 m)の規則的な孔(あな)(空間)を無数に有する革新的な多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer:PCP)、または金属―有機骨格体(Metal-Organic Framework: MOF)と呼ばれる、まったく新しい概念にもとづく材料の開発に成功されたのです。孔を有するMOF/PCPの1gはサッカーコート1面に近い表面積(4000~6000m2)を有し、この表面積は活性炭やゼオライトをはるかに上回る画期的な材料であります。
大きな表面積を有するMOF/PCPは、重要なガス(水素、酸素、メタンなど)や有害ガス(二酸化炭素、一酸化炭素など)の選択的分離・回収につながる画期的な材料として高く評価されています。さらに二酸化炭素をメタノールに変換できるMOF/PCPも開発されています。
MOF/PCPは環境、エネルギー、産業など現代社会が抱える多くの課題を解決し、我々の暮らしに大きな変化をもたらす可能性があるからです。その一例として、二酸化炭素を選択的に吸着、回収できるMOF/PCPの活用で、地球の温暖化防止に大きく貢献することが期待されています。
北川先生がMOF/PCPの研究を始めた頃は、その意義を理解できる研究者はほとんどいませんでした。MOF/PCPの孔の重要性をいち早く見抜いた北川先生の優れた直感力に敬服する次第です。いつの時代にも独創的研究課題を見抜く優れた直感力を持った研究者が現れるのです。
北川先生は京都大学大学院工学研究科博士課程修了後の1979年4月に、近畿大学理工学部化学科(現理学科化学コース)助手(助教)として赴任されました。その後、講師、助教授(准教授)に昇任され、1992年3月までの13年間、"新しい研究分野の開拓"をモットーに、抜群の集中力をもって研究に日夜取り組まれました。1989年のある日、大型コンピューターで単結晶X線構造解析を行っていたとき、学生が「先生、この化合物、孔が空いていますよ」と言った。確かに均等な大きさの孔が並ぶハニカム(正六角形)構造になっていました。北川先生は「これは面白い」と直感的に感じ、その後、研究を続け世界に先駆けてMOF/PCPの合成に成功し、その化学を開拓しそれを世界に誇るべき科学・技術にまで発展させたのです。
北川先生は稀有な才能に恵まれた秀才ですが、決して威張ることなく、穏やかで、さりげなく気遣い、相手の立場を思いやることができる寛容の精神を持った人物です。どんなに多忙であっても、学生たちには常に丁寧に対応し、熱心に議論しておられました。
ゲーテは同時代の数学者ラグランジュを高く評価し、「いい仕事はいい人間しかできない。彼はいい人間だったからいい仕事ができたのだ」と言っています。
北川先生は優れた才能に加えて、抜群の集中力、強い意志、そして尽きることのない好奇心をもって見通しの定まらない研究に取り組み、ノーベル賞受賞につながる独創的な研究成果をあげられたことで、「独創的研究を成し遂げるのは、才能と性格である」ことを示されたのです。
今後とも益々のご活躍をお祈り申し上げます。

近畿大学名誉教授 宗像 惠