殺線虫活性をもつ微生物二次代謝物質の作用機構を知る

2023.11.22

  • 研究報告

糸状菌Penicillium paraherqueiは殺線虫活性物質paraherquamide類を生産することで知られています。これまでにparaherquamide Aが線虫のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のうち、L型nAChRに対してとりわけ高い阻害活性を示すことが明らかにされていましたが、そのメカニズムは不明でした。
私たちはP. paraherqueiとは異なるparaherquamide A生産菌を見つけ、その培養物から本物質を得ました。線虫のnAChRにおけるparaherquamide Aの結合様式を知るため、nAChRと相同性を示すアセチルコリン受容体(AChBP)とparaherquamide Aが形成する複合体を結晶化し、そのX線結晶構造を解明したところ、paraherquamide Aはアセチルコリンが結合するオルソステリック部位に結合し、それに対してloop Cとloop Eが関与することが示唆されました。そこで、この部位についてparaherquamide A が弱い阻害作用しか示さないN型nAChRと強い阻害作用を示すL型nAChRとの間で入れ替えると、N型nAChRのparaherquamide A感受性は高まり、逆にL型nAChRのparaherquamide A感受性は低下したことから、loop Cとloop Eは本物質との相互作用に関することが示されました。
しかしこのアミノ酸置換による感受性の変化は期待したほどは大きくなかったので、別の部位もparaherquamide AのL型nAChR選択性に関与するのではないかと推定されました。そこでN型nAChRにparaherquamide Aが結合したモデルで調べてみると、loop Cとloop Fとの相互作用が間接的に本物質の活性を制御している可能性があると考えられました。
実際loop Fのアミノ酸についてもN型とL型のnAChR間で置換すると、paraherquamide A感受性がN型nAChRでは高まり、L型nAChRでは感受性が低下したことから、loop Fも本物質のL型nAChR選択性に寄与していることがわかりました。

以上の成果は、標的選択性に優れた殺線虫活性物質を設計するための情報基盤として活用されると期待されます。

研究概要

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論文情報

Koizumi W., Otsubo S., Furutani S., NikiK., TakayamaK., Fujimura S., Maekawa T., Koyari R., IharaM., KaiK., HayashiH., AliM. S., Kage-NakadaiE., SattelleD. B. and Matsuda M., Determinants of subtype-selectivity of the anthelmintic paraherquamide A on Caenorhabditis elegans nicotinic acetylcholine receptors. Molecular Pharmacology 103, 299-310 (2023). (IF = 4.058)