逆化学遺伝学:植物による殺虫剤の生合成を任意のタイミングで阻害する

2023.11.22

  • 研究報告

除虫菊 (Tanacetum cinerariifolium)は神経系を標的とする天然殺虫剤ピレスリンを生合成します。ピレスリンは特に蚊に対して処理後すみやかに高い効果を示すので、感染症の抑制にも寄与する有用な天然物です。
ピレスリンの生合成を知るためには、候補遺伝子の破壊実験が有効にはたらきますが、除虫菊は自家不和合性で、播種から開花まで足かけ3年かかり、遺伝子破壊実験は容易ではありません。そこで私たちはピレスリンの生合成の最終段階であるエステル結合形成を担うGDSLリパーゼの一種TcGLIPを特異的かつ不可逆的に阻害する物質の設計に挑戦しました。

本酵素は活性中心にセリンを中心とする重要なアミノ酸をもち、それらの共同作業によってピレスリンのエステル結合がつくられます。本酵素に限らず類似の触媒機構を持つ酵素はリン酸エステルあるいはホスホン酸エステル類によって不可逆的に阻害されることを念頭に、下図のようなピレスリンの構造を一部にもつ化合物を合成し、TcGLIP阻害活性を測定しました。
その結果、化合物は本酵素を強力に阻害し、除虫菊幼苗でのピレスリン生合成を抑制することを明らかにしました。

今回合成した化合物はピレスリン生合成を任意の時期に阻害し、ピレスリン生合成の機構を理解するために利用することが可能です。

研究概要

masuda2.png

論文情報

Matsuo N., Sugisaka Y., Aoyama S., Ihara M., Shinoyama H., Hosokawa M., Kamakura Y., Tanaka D., Tanabe Y. and Matsuda K. J. Med. Chem. 66:7959-7968 (2023). (IF = 8.039)