除虫菊による天然殺虫剤ピレスリンの生合成に関わる酵素の基質認識機構を解明
2022.08.18
- 研究報告
キク科植物シロバナムシヨケギク(除虫菊;学名Tanacetum cinerariifolium)は、蚊やハエなどの飛翔昆虫に対して即効性を示す天然殺虫剤ピレスリンを生合成することで知られています。ピレスリンはエステル結合(カルボン酸とエステルが脱水縮合してできる化学結合)をもち、菊酸と呼ばれる2種のカルボン酸(第1菊酸と第2菊酸)とレスロロンと呼ばれる3種のアルコール(ピレスロロン、シネロロン、ジャスモロロン)とが最後にエステル結合で結ばれることによってできます。
これまでアグリ技術革新研究所の松田一彦らはピレトリンの生合成経路の最後に位置するエステル結合形成反応にGDSLリパーゼ(TcGLIP)が関与することを発見していましたが、TcGLIPがどの程度除虫菊のピレスリン含量や6種のピレスリン類の組成の決定に関与しているのか不明でした。そこで、この酵素を大腸菌につくらせ、基質(酵素反応の材料)との相互作用を親和性(相互作用の強さ)と触媒効率(単位時間当たりのピレスリン合成効率)について研究しました。
その結果、TcGLIPによるピレスリン生合成反応が過剰に進むと反応副産物によって阻害(フィードバック阻害)を受けることが明らかになりました。また、TcGLIPのアルコール基質に対する好みの順番がピレスロロン > シネロロン > ジャスモロロンの順であり、この順が花や葉の中に含まれているピレスリンI/II > シネリンI/II > ジャスモリンI/IIの順とよく一致することから、本酵素がピレスリン生合成において重要な役割を果たしていることがはじめてわかりました。