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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

生命のしくみを解き明かせ
~液体界面で起こる特異な現象の観測~
近畿大学理工学部 理学科 准教授
矢野陽子

生命活動は界面を利用して営まれている

「界面」というのは、2つの相の境界面のことです。例えばコップに入れた水の表面は、気体と液体の界面(気液界面)になります。水の界面の厚さはどのくらいだと思いますか?なんと室温の水では、たった1nm(ナノメートル=10-9m)しかありません!水分子2~3個分の厚さです。液体の表面では分子の熱運動によって、分子レベルのさざ波が立っています。この振幅が気液界面の厚さとみなされています。温度が高くなると、さざ波の振幅がだんだん大きくなってきて、ついには沸点で発散するわけです。
界面は周囲を均一な媒質で取り囲まれている相の内部(バルク)とは異なり、面であり、さらには2つの異なる相にはさまれている非対称な空間です。そのためバルクでは規則構造を持たなかった原子や分子が規則的に並んだり(自己組織化)、タンパク質が壊れて機能を失ったり(界面変性)というような特異な現象が起こります。実は我々の体の中にも液体界面と呼べる場所はたくさんあり、生命活動はまさにこれら界面を利用して営まれています。私は液体界面で起こる特異な現象を原子レベルで観測することによって、生命のしくみを理解しようとしています。

タンパク質の立体構造形成のしくみを探る

生命活動を担うタンパク質は、アミノ酸が1次元のひも状に連なった分子です。アミノ酸には正負の電荷を持つもの(極性=水に溶けやすい)と、持たないもの(非極性=水に溶けにくい)があり、生体内のタンパク質はアミノ酸同士や周囲を取り囲む水との相互作用の結果、一瞬にして固有の立体構造をとり、その機能を発揮しています。水の中ではたいてい非極性の部分を内側に折り畳んだ構造(folding)をとっていますが、気液界面では非極性の部分を外側に出すように広がってしまいます(unfolding)。これがタンパク質の界面変性です。お菓子に使われるメレンゲは、卵白の中のタンパク質が界面変性したものです。我々はこのような変性過程で起こる構造変化を原子レベルで観測することによって、タンパク質の立体構造形成のメカニズムに迫ろうとしています。最近では、いったん界面変性したタンパク質が塩を添加することによって再び折り畳まれることを見つけました。タンパク質の変性は、病気の原因になることが知られており、変性してしまったタンパク質を元に戻すことが出来れば、病気の治癒にもつながります。

お菓子に使われるメレンゲはタンパク質が界面変性したもの

細胞膜形成のしくみを探る

水の中に油滴(青色に着色)を保持すると
マランゴニ対流を生じる

細胞膜というのは、脂質分子が膜状に自己集合したものです。ですから、細胞膜の中では脂質分子は絶えず動いています。それでは細胞膜が成長したり分裂するときには、どのような原動力が働いているのでしょうか?
ご存知のように、液体の表面には表面張力が働いています。ところが表面張力が場所によって異なっていると、表面張力の小さい部分は大きい部分に引っ張られ、対流が起きます。これはマランゴニ対流と呼ばれています。例えば水に溶けない油滴を水中に保持すると、油の分子が水表面に集まろうとする過程で表面張力の不均一を生じて、対流が起きます。このとき水の表面では油の分子が自己集合して膜を形成する過程が見えるはずです。“はず”というのは、実はまだ誰も見たことがないのでわかりません。現在、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光を使った実験を計画しています。実験がうまくいけば、細胞膜形成のしくみを理解するための大きなヒントが得られるのではないかと考えています。

どんな手法を使うのか

それには主にX線反射率法という手法を使います。レントゲン撮影に利用されるX線は透過力が高い光であることが知られていますが、波長が大変短く、ちょうど原子の大きさと同じくらいなので原子の配列を見ることができる光としても広く利用されています。ただし、もともと透過力の高いX線ですから、薄い界面のみにX線を当てるのは困難です。ところがX線をすれすれに照射して界面で反射させると、X線はほとんど内部には浸み込みません。そこで界面に対するX線の入射角を0.005°~3°程度の範囲で変えながら反射強度を測定すると、界面で分子がどのように配列しているかというような構造情報が得られるのです。可視光の反射と比較して入射角が非常に小さいので、大変難しい実験になります。また、入射角を大きくするほど高い精度で構造情報を得ることができるのですが、その反面、反射強度が弱くなってしまいます。そのため実験室とは桁違いに強いX線を発生する放射光施設を利用して実験を行っています。

液体界面研究を始めたきっかけ

そもそも私が現在の液体界面研究を手がけるようになったのは、学習院大学に助手として採用された時に、何か新しい研究をしたいと思ったのがきっかけです。当時はハーバード大学のPershan教授が世界に先駆けて、アメリカの放射光施設に液体界面研究のためのX線反射率計を立ち上げ、冒頭で紹介した水の表面の厚さを測定してから数年という時期でした。その後、同グループの研究によって水銀のような液体金属の表面では、原子が規則的に配列していることや、直線分子であるアルカンを液体の状態から温度を下げていくと、表面から先に凍り始めるというような面白い現象が次々と明らかにされました。当時日本には液体界面を研究するためのX線反射率計はありませんでしたので、私は実験室のX線源を使った装置を作ることにしました。完成まで5年もかかりましたが、装置の設計から工作、コンピュータプログラミングまで、すべて自分自身の手でやり遂げたという経験が今の自分を支えています。
この研究で博士号をとるとすぐに、Pershan教授の元で研究がしたくなって渡米しました。このグループはいろいろな国から研究者が集まっていて、とても刺激的な環境でした。ニューヨークにある放射光施設に行って、何週間も泊りがけでひたすら実験を行いました。想定外のトラブルに見舞われることも多く、そんな時はみんなで議論して知恵を出し合います。外界と遮断された施設の中で、限られた時間内に成功させなければならないというプレッシャーと戦いながらの実験は、時にはびっくりするほどのアイディアが浮かんだりもするエキサイティングな時間でした。もしも宇宙ロケットに乗ったとしたら、きっとこんな感じなんじゃないかと思ったりもします。

オンリーワンの装置を使ってオンリーワンの研究をする

帰国後、日本国内の放射光施設にも液体界面研究のためのX線反射率計を建設しようという機運が高まり、私は2つの大型放射光施設の反射率計の立ち上げに関わることになりました。SPring-8の溶液界面X線反射率計は、世界最高輝度のX線を使った世界最高レベルの測定精度を持つ装置です。一方、KEKの波長・角度同時分散型の反射率計は、従来の反射率計とは異なるアイディアに基づいたもので、世界で最も短時間での測定を可能とした装置です。これを使えば変化する界面の構造を刻々と追うことができます。現在、液体界面のX線反射率計は世界中の放射光施設を見回しても10台ほどしかありませんので、日本国内に設置されたこの2台の装置からはオリジナリティの高い研究成果が生まれています。

X線反射率法と赤外吸収分光法を
組み合わせたオリジナルの装置

一方、近畿大学の生物物理学研究室にも世界に1つしかないX線反射率計があります。市販の赤外吸収分光装置と組み合わせて、同時測定を可能とした装置です。なんと、研究室の第1期生が装置を設計し製作しました。ものづくりが大好きだったその学生は、自分のお気に入りの工具を作っている会社に就職しました。その後第2期、3期生が、装置を自動で動かすためのソフトウエアを作りました。昨年、第4期生が装置の性能評価をしてくれたので、これからはこの装置からどんどん新しい実験結果が生まれることでしょう。楽しみにしていてください。

メッセージ

実は、私は根っからの理系女子だったというわけではなく、高3の夏休みに文系から理系に転向しています。周りの友人からは「無茶だ」「馬鹿だ」とさんざん言われ、案の定大学受験には失敗しました。入った大学は第1志望ではなかったけれど、そこでサイエンスの楽しさを存分に教えてもらい、今は好きなことをやることができて、あの時あきらめずに本当によかったと思っています。ですから、皆さんも今の自分に問いかけてみてください。「自分の目指しているものは何なのか」ということを。そして、やりたいと思うことが見つかったら、多少いばらの道だと思っても躊躇せずに飛び込んでください。若い頃は、寄り道したって失敗したって、何一つ無駄になることはありません。

用語説明
放射光とは
放射光とは、光速に近い速度で運動している荷電粒子(電子や陽電子)が磁場で曲げられるとき、その進行方向に放射される電磁波のこと。放射光は実験室レベルのX線源と比較して、桁違いに明るく指向性の高い光である。日本にある大型放射光施設としては兵庫県にあるSPring-8や、つくばにあるKEK(高エネルギー加速器研究機構)のPhoton Factoryがある。利用するには通常は半年ごとに課題申請をして、採択されると数日間のビームタイムが割り当てられる。

理学科 准教授
矢野陽子

所属 学科 / 理学科 物理学コース専攻 / 理学専攻
研究室 生物物理学研究室
略歴
1992年 学習院大学理学部化学科 助手
2000年 学習院大学 博士(理学)取得
2001年 ハーバード大学 客員研究員(仁科記念財団海外派遣研究者)
2006年 立命館大学COE推進機構 助教授 / 准教授
2011年 近畿大学理工学部理学科物理学コース 准教授
受賞
2004年 日本化学会春季年会 第18回若い世代の特別講演証
2006年 日本分析化学会 X線分析懇談会 第1回浅田栄一賞
2010年 第3回資生堂女性研究者サイエンスグラント
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