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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

安心で安全な、豊かな環境をめざして
人間活動と自然環境の調和の探究
近畿大学理工学部 生命科学科 教授
山崎秀夫

地球環境に真摯に向き合うことの意義

私は、大学の学部時代に原子炉工学を勉強しました。しかし、その後大学院では、その当時の新興分野であった地球化学を学ぶことになります。河川や湖沼・海洋などの水圏に存在する金属元素の存在量や存在状態を解明する研究です。地球上の物質は大気や海洋を通して地球全体を循環していきます。循環のプロセスは元素の存在状態(化学種といいます)や環境条件によって大きく支配されます。ヒトや生態系にとって有害な物質がどこか特定の場所に集まると「その場所は汚染した」ということになります。その汚染物質が人間活動で排出されたとすれば、それは「人為汚染」ということです。鉛の地球化学的研究で著名なカリフォルニア工科大学のパターソン先生と、後に室蘭工業大学教授となる室住先生らが共同で北極の氷床中に含まれている鉛濃度の時代変化を分析して、英国の産業革命で排出された鉛が北極の氷を汚染していることを明らかにしたのが1969年。人間活動によって排出された汚染物質が全地球規模で拡散していくことを科学的に証明した、最初の報告です。
わが国では、1986年の明治維新以降の産業近代化と富国強兵政策で、多くの公害問題が起きました。1878年に社会問題化した足尾鉱毒事件を初めとして、第二次世界大戦後の水俣病やイタイイタイ病まで様々な公害事件が続きます。1960年代にはコンビナートから発生する汚染物質によって、いわゆる四日市喘息が発生し、これを機会に公害基本法(後に廃案となり、環境基本法と代わります)が制定され、官民、国を挙げて公害撲滅に取り組むことになります。その結果、わが国は世界でも数少ない公害を抑制することに成功した国となり、今では「環境先進国」とも言われています。

日本の現況とこれからの課題

日本は今なお、多くの環境汚染の問題を抱えています。アスベストや有機溶剤、重金属、内分泌かく乱物質などの問題は、必ずしも完全に抑制できたわけではありません。むしろ、研究の進展によって、環境汚染物質のヒトや生態系に対する影響が当初に想定していた以上に深刻である可能性が、世界中の環境科学者によって指摘されています。レイチェル・カーソンは「沈黙の春」において、殺虫剤であるDDTの危険性を指摘しました。胎児期や乳幼児気における極微量の鉛の曝露が脳や知能の発達に与える影響も危惧され始めています。ダイオキシンやビスフェノールAなど、我々の身近な生活に存在する内分泌かく乱物質の有害性についても再認識されつつあります。
現在盛んに利用が進んでいる太陽光発電パネルやHV車の電池も、20年後には莫大な産業廃棄物として、環境に負荷されることになります。我々はその処理に取り組まなくてはなりません。また、最近は東アジア地域の経済発展により、その過程で排出される環境汚染物質が、偏西風に乗って飛散するようになりました。これを越境大気汚染といいますが、私たちの研究では、沖縄県から北海道までの日本海側の地域で、1970年代の後半から越境大気汚染の影響を受けていることが明らかになっています。

越境大気汚染の簡単なモデル図

越境大気汚染を証明したデータ

原発事故から放出された放射性核種についても、わが国の環境科学者は新たな環境汚染物質として、その対応に取り組まなくてはなりません。他に、大気圏内核実験によるグローバルフォールアウト(*1)の影響も排除できません放射性核種を高濃度に含んだ大気の塊を放射性プルームといいますが、放射性プルームが移動する途中で雨が降ると、雨水に放射性核種が洗われて、地表に降下します。専門的には沈着するといいます。こうして放射性核種は徐々に海面へ沈着して海洋の放射能汚染が起こることになります。また、地表へ沈着した放射性ヨウ素や放射性セシウムは土壌中の粘土鉱物と強くイオン吸着して固定されます。このことは、土壌が移動しなければ放射性物質も沈着した場所に固定されていることを意味します。しかし、大雨などで土壌が流されれば、そこに吸着した放射性核種は雨水と共に河川を通して湖沼や海洋へと流出していくことになります。

福島第一原発事故後の福島市の土壌の放射能(ガンマ線スペクトル)
(全てのピークが福島原発から放出された。赤が環境放射能汚染上、問題になる核種)

福島第一原発事故からの放射性セシウムによる東京湾の汚染状況

粘土鉱物に吸着した放射性核種は、魚などに取り込まれても消化管で吸収されることはなく、糞として排泄されるので、生物が汚染されることはありません。しかし、大気から湖沼や海洋に直接沈着した放射性核種は、水中に入ると溶解してイオン種で存在する可能性が高くなります。イオン種の放射性核種はプランクトンや底生生物に取り込まれて、その体内に吸収されるので、それを摂取した生物も放射能で汚染されることになります。このような食物連鎖の輪の中に放射性核種が入ってしまうと、生態系の中で放射性核種がリサイクルされてしまうので、放射能汚染が何時までも続くことになります。森林に住む野生動物の多くも放射能汚染の影響を受けます。また森林の落ち葉はやがて朽ちてリターと呼ばれる腐葉土(腐植物質)になりますが、放射性核種はこのリターにも吸着しています。やがてリターの分解が進むと、有機錯体を形成して、森林から里山、市街地へと流出してくる可能性があります。現在、私が最も危惧している環境放射能汚染です。

私たちの研究の使命

原子力工学に関係する多くの研究者や技術者は揃っていますが、環境放射能汚染(*2)に対応できるエキスパートは殆どいないのが実情です。私たちの研究室では、自然環境中の放射性核種の動態を解明して、環境放射能汚染が、今後どのように推移していくのかを検討しています。それは環境放射能汚染の拡散を防止し、ヒトや生態系に対する放射線被曝の影響をできる限り少なくするためです。放射性物質を除染する技術の開発も企業の方と協力しながら進めています。このように私たちは、様々な経験を生かしながら、次世代にきれいな地球環境を引き継いでいくために、最大限の努力を続けています。

サンプリングの様子

用語説明
*1 グローバルフォールアウトとは
第二次世界大戦後の冷戦下、原子爆弾(ウランやプルトニウムの核分裂反応を使った原子爆弾)と重水素や三重水素(トリチウム)の核融合反応を利用した水素爆弾の実験によって飛散した放射性核種の一部は成層圏まで舞い上がり、後に少量ずつ対流圏に降下。地表にまで沈着したものをグローバルフォールアウトという。1963年の大気圏内核実験禁止条約成立後は急激に低下している。
*2 環境放射能汚染とは
日本における最初の環境放射能汚染は広島と長崎における被曝。生存者の長期間追跡調査により、ヒトに対する放射線被曝の影響がわかってきている。以降、大気圏内核実験や原発事故で放出した放射性核種による放射能汚染、放射能汚染水などが新たな問題となっている。

生命科学科 教授
山崎秀夫

所属 学科 / 生命科学科専攻 / 理学専攻
研究室 水圏環境科学研究室
略歴
1971年4月 近畿大学理工学部原子炉工学科入学
1980年3月 近畿大学大学院化学研究科博士課程修了(理学博士)
1980年4月 近畿大学理工学部助手
1990年7月~1991年10月 アリゾナ大学客員研究員
2010年4月 近畿大学理工学部教授
受賞
2013年 日本環境化学会学術賞
2014年 新化学技術推進協会研究奨励賞
最先端研究一覧

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