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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

ブラックホールで拓く、
新しい宇宙像
近畿大学理工学部 理学科 准教授
一般相対論・宇宙論研究室
石橋明浩

宇宙探究の新しい扉—ブラックホール

一般相対論は宇宙全体の進化やブラックホールなど重力が支配的な現象の解明に要(かなめ)となる理論です。アインシュタインによる理論構築から100年が経とうとする今日、ある意味成熟した古典論とも見なされそうですが、実はこの10数年の間にも著しく発展してきました。その理論的研究の最前線にあるのが高次元ブラックホールです。こうした背景には重力を含めた自然界の全ての相互作用を統一する究極理論候補である超弦理論の進展があります。超弦理論はその整合的定式化のために高次元宇宙を要請します。我々が知覚する3次元の空間の他にも余剰次元が存在することになりますが、十分小さくコンパクト化されており実質的に観えてこないと考えます。では余剰次元の存在はどうすればわかるのでしょうか?それを探る一つの方法が高次元ブラックホールなのです。一般相対論では重力は時空構造そのものですから、極端に強い重力の源であるブラックホールを研究することにより、時空次元によって重力が支配する物理現象がどのような違いをもつのか探査するのが基本アイディアです。最近では実際に加速器実験で高次元ブラックホールが探査されるようになってきました。さらに宇宙物理以外の分野や数学との関係もひろがり、様々な物理の謎を解明すべく“数学的・理論的な実験場”としてブラックホール研究は大きな拡がりを見せ始めています。私の一般相対論・宇宙論研究室では、高次元ブラックホールの基本性質を解き明かす研究を行っており、ここではその一端を紹介したいと思います。

ブラックホールと一般相対論

ブラックホールはその引力により光すらも捕捉され逃げ出せないほど強大な重力を生む天体です。一般相対論は万有引力という“力”の効果を時空の性質と捉えますから、ブラックホールは時空の因果的構造のみで記述できる宇宙で最も単純かつ完全な物体と言えます。この意味を端的に言い表すと、「宇宙のブラックホールは質量と角運動量と電荷のみで一意的に特徴づけられる」という数学的定理にまとめられます。一般に物体を特徴づけるには質量、体積、多重極モーメントといった無数のパラメーターを特定しなければなりませんが、ブラックホールはたった3つのパラメーターで決定されるのです。この定理により4次元宇宙のブラックホールは強く制限され、そのおかげで詳しく理解することが可能になりました。

高次元宇宙の拡がり

4次元宇宙と違い、高次元になると途端に多様な種類のブラックホールが存在することが分かってきました。特に人々を驚かせたのは、5次元以上では球面的なトポロジー(形状)のものだけでなく、ドーナツのようなリング状のトポロジーや土星状のブラックホールも可能であり、実際にそのようなブラックホールが(数学的に)発見されたことです(右図:グラフ)。また球面的であっても複数の回転軸をもつことも可能です。

この様に豊富な多様性をもつ高次元ブラックホールを理解するために先ず調べるべき課題は「安定性」です。もし不安定であれば新しい解系列の存在が示唆されます。高次元ブラックホールの多くは不安定であろうと予想されており、例えばブラック・リング(左図:ドーナツ)は、不安定性のため凸凹した形へ変化し(図中央)、さらに異なる状態へダイナミカルに変化してゆく可能性が示唆されています。高次元ブラックホールの安定性研究の端緒をつける目的で、静的真空ブラックホールの場合に重力摂動のマスター方程式を導出し、最も基本的な高次元静的ブラックホールが安定であることを世界で初めて証明しました。次に重要な課題は「対称性」です。4次元の定常回転ブラックホールは軸対称性を持つことが分かっています。これは対称性の拡大を示す「剛体定理」と呼ばれ、4次元の場合にはスティーヴン・ホーキングにより証明されました。しかしその証明は4次元の特徴を駆使しており、高次元の場合へ拡張できるかどうかは全く明らかではありませんでした(下図:左)。
この剛性定理の一般化をエルゴード定理という数学を用いた全く新しい方法で証明することに成功しました。これにより高次元ブラックホールの熱力学的基礎を確立することもできました。さらに剛性定理の示す対称性により、ホライズンの可能なトポロジー(形状)に制限を与えることができます。どの様なトポロジーが可能かを調べると、図(下右)の様なザイフェルト多様体で分類されるものになることが分かりました。

4次元と高次元宇宙の接点・理論と観測

高次元宇宙の存在を検証する一つの方法は、モジュライと呼ばれるコンパクト化の痕跡を見つけ出すことです。一つの方法はボソン場に微小な質量を付与する効果に着目することです。回転ブラックホールの近傍では質量を獲得したボソン粒子が超放射(Superradiance)を繰り返し起こすことでブラックホールを不安定化させることが分かります。この不安定性の発現にはブラックホールの質量と粒子の質量の間にとても微妙な関係があるのですが、もしこの種のブラックホール不安定性が確認されれば、それは高次元の存在検証へ向けた大きなステップとなります。また、この超放射不安定性を利用して光の質量の上限を定めることもできます。

上のグラフは、太陽の100万倍から10億倍近く重い巨大ブラックホールが我々の宇宙に安定に存在することから得られる光子の質量上限を表しています。ブラックホールを用いることで、地上実験などを含めた多くの実験結果の中でも最も強い制限を見出すことに成功しました。これは宇宙のブラックホールがいわば素粒子の検出装置ともなることを示す成果です。

ブラックホールは“シルクロード”

ブラックホール研究は宇宙や重力、素粒子の謎だけでなく、実はより我々に身近な物質世界にも関係します。突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、例えばブラックホールを用いて物性物理学の謎、超伝導現象を解明できる可能性が指摘され、現在この方向の研究も進展中です。

重力の自由度がホログラフィー原理(用語解説)を通して、一見したところ重力と関係のない多岐にわたる強結合・強相関の量子多体系の物理とつながる可能性がひらけてきたのです。かつて異なる文明がシルクロードにより大陸を横断してつながれ交易した様に、宇宙の謎や超弦理論の文脈を越えて多彩な拡がりを見せ始めたブラックホール研究は、異なる学問分野をつないで交流する“物理学のシルクロード”になるのかもしれません。

研究遍歴

世界の最も根源的な仕組みは何なのか?それを知りたくて物理学に興味をもつ人は多いと思います。私の場合、宇宙の謎を解く理論として一般相対論に最も興味をもち、大学院では東京工業大学の細谷暁夫先生の研究室に入りました。当時の細谷研究室では実は3次元宇宙の研究が盛んに行われていました。3次元の世界では重力の局所的自由度がなくなる分、時空の大域的性質が浮き立ち、時空トポロジーの観点から量子重力理論の構築へ向けた洞察を得る研究がおこなわれていました。大学院生の頃の私はもっぱら4次元宇宙における時空特異点や初期宇宙ダイナミクスについて、先輩や後輩の学生仲間、当時助教授として着任されたばかりの石原秀樹先生と興味の赴くままに研究をさせていただきました。細谷先生には自由な冒険の入り口へと導いていただきました。やがて研究員として京都大学基礎物理学研究所に移り、小玉英雄先生の透徹した理解と厳格な研究態度に触れました。ちょうどその時期に余剰次元の新しいコンパクト化の方法としてブレーン宇宙シナリオ(用語解説)、そしてAdS/CFT対応(用語解説)が素粒子・宇宙理論研究を席巻しており、その頃から私の研究テーマも高次元宇宙へ向かい始めました。博士課程で行ったインフレーション宇宙での重力波の研究で用いた計算技術を利用して、小玉先生と当時学生の瀬戸治君と共に高次元ブレーン宇宙におけるゲージ不変な摂動論を構築しました。その後、研究員としてイギリスのケンブリッジ大学へ移る頃に、このゲージ不変摂動論の枠組みが高次元ブラックホールの安定性解析に役立つことに気がつき、小玉先生と共同で研究を続けました。ケンブリッジ大学の応用数学・理論物理部門には、アイザック・ニュートンらの伝統を受けついで重力理論グループを率いるスティーヴン・ホーキング博士をはじめとする世界最高峰の数理研究者が集結しており、絶えずアカデミックな刺激を受けながら様々なアイディアを結び付けることを学びました。そこに集まる多くの学生、駆け出しの博士研究員との分野を超えた広い交流ができたことも貴重な経験となりました。この頃、大学院時代に始めた時空特異点の波動によるプローブ研究を応用して、AdS/CFT対応において近年着目されることになったAdS(反ドジッター)時空上のダイナミクスの研究も遂行しました。幸運にも、その共同研究者であったウォルド博士のいるシカゴ大学へ博士研究員として移ることになり、そこで剛性定理の研究などに取り組みました。ウォルド博士のもとでは妥協を許さぬ研究姿勢・基準の高さ、抽象的・数学的な考えの根底に物理的発想をもつことの大切さを学びました。その後、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所にて研究を続けられたのも貴重な経験となりました。帰国した年に、当時の研究成果に関して幸運にも中村誠太郎賞をいただきましたが、その受賞式・受賞講演が近畿大学で行われたのは、今思うと奇遇だったと思います。会場となったEキャンパスが華やかだったという印象が残っています(笑)。

理系をめざす高校生・理工系の大学生の皆さんへ

科学・技術の流域は広大です。その流れを制御し大地を開拓してゆくことは、流域のどこであれ、とても価値のある挑戦だと思います。その中で基礎科学は小さな湧水の様なものかもしれません。運よく発見され冒険家の渇きをいやしても、その先につづく河の流域にまでは遠く想像が及びませんし、そもそも源流となって海へと続くかどうかもわかりません。それでも人を前進させる測り知れない力の源泉なのだと思います。

ひらけゆく高次元宇宙

宇宙は本当は何次元の拡がりをもっているのか?こういった素朴かもしれませんが根源的な問いに自然科学の観点から答えるのは物理学の究極使命の一つだと思います。1915年にアインシュタインは一般相対論を発表し、重力により“時空は曲がる”という衝撃的な発想でそれまでの時空概念を破壊し、物理法則を幾何学的にとらえるという新しい見方の端緒をつけました。それからちょうど1世紀。次に私たちの宇宙観・自然観を一新するのは高次元宇宙の存在ではないでしょうか。ひらけゆく新しい宇宙像———ブラックホール研究はその鍵だと信じます。

用語説明
ホログラフィー原理とは
「重力理論は次元の一つ低い時空上での重力を含まない何らかの量子力学的な理論と等価である」という主張です。一つ次元が低いところが、ちょうど3次元の立体像を2次元スクリーンで表す光学のホログラムと似ているところに用語が由来します。ブラックホールの熱力学的な性質に端を発します。
ブレーン宇宙シナリオとは
「我々の住む宇宙は、高次元宇宙の中にある4次元の膜状空間もしくは境界面である」とする考え方です。「ブレーン」とは「膜」を意味します。特にAdSと呼ばれる負の宇宙項をもつ5次元宇宙の境界面が我々の4次元宇宙だとする可能性が広く研究されています。
AdS/CFT対応とは
ホログラフィー原理の具体例です。「AdS時空の重力理論と、その時空の境界面上に存在する共形場の理論(CFT)が等価」とする仮説です。

理学科 物理学コース 准教授
石橋明浩

所属 学科 / 理学科 物理学コース専攻 / 理学専攻
研究室 一般相対論・宇宙論研究室
略歴
1998年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了 博士(理学)
2000年 日本学術振興会特別研究員PD(京都大学基礎物理学研究所)
2003年 日本学術振興会海外特別研究員(ケンブリッジ大学)
2005年 シカゴ大学エンリコ・フェルミ研究所 博士研究員
2007年 高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 博士研究員
2011年 近畿大学理工学部理学科 准教授
受賞
2007年 日本物理学会論文賞
2007年 中村誠太郎賞
2014年 湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞
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