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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

化学のラビリンスを照らす“光”。
鏡の国のアリスの世界に光で挑む
近畿大学理工学部 応用化学科 准教授
今井喜胤

回転する光:円偏光発光(CPL)

私たちの右手と左手のように、鏡に映したごとく対称な性質をキラリティー(*1)と言います。まさに、鏡の国のアリスの世界です。光にもそんな世界があって、左回転の光と右回転の光、2種類の円偏光発光(Circular Polarized Luminescence: CPL *2)が存在します。普通の発光には、左回転・右回転2種類のCPLが混在しているのです。

円偏光発光(CPL)は、私たち生命の起源とも密接に関係していると言われています。地球上の生命体はすべて、右あるいは左の構造からできた分子から構成されており、たとえば、アミノ酸では左利き(L型)のみであることは生命世界における大きな謎とされています。その説明の一つとして、地球にまだ生物が誕生する以前、超新星爆発後にできる中性子星を周回する高速電子からの円偏光シンクロトロン放射光が右利きアミノ酸(D型)を分解したため、地球上には宇宙から左利き優勢アミノ酸(L型)が降り注いだからだというものがあります。

我々のまわりの円偏光発光(CPL)

では、この円偏光発光(CPL)は我々のまわりにどのように利用されているでしょうか?一例をあげると、パッシブ方式(円偏光フィルター方式)と言われる、ディスプレイにおける3次元(3D)表示技術への利用があります。この方式では走査線1ライン毎に左回転CPL画像・右回転CPL画像を交互に映し出し、3Dメガネで左右それぞれの画像をフィルター分離することにより、立体的に画像が見えるのです。

また、植物の光合成はキラリティーを持った光学活性(*3)クロロフィル分子が関係しているため、CPLを利用した植物成長制御も大きく注目されています。近年、海藻の成長は、左回転CPLよりも右回転CPLで促進される。豆科の植物では左回転CPLのほうが右回転CPLよりも成長速度が大きい。などが報告されており、野菜の効率的なLED栽培への応用が期待されています。

さらに、ホタルの光はCPLであり、シャコの目はCPLを識別できるなど、身近な生物も実はこのCPLを巧みに利用しています。

学生と共に鏡の国のアリスの世界に挑む

現在この円偏光発光(CPL)は、円偏光フィルターを用いて直線偏光を変換することによって作り出しています。そこで、円偏光フィルターを用いずに、発光体自身からCPLを効率的に発することが可能となれば、高機能性光材料の創成が可能となります。

生命の起源に迫る

一般的に、円偏光発光(CPL)はキラリティーのある分子から生み出されます。我々はキラリティーのない2種類の分子(発光性カルボン酸分子とアミン分子)を弱い相互作用で組み合わせることにより、螺旋構造を構築させ、CPLを発生させることに成功しています。

鏡の国の光を操る

これも一般的に、左回転CPL・右回転CPLを発生させるには、キラリティーの異なる2種類の光学活性化合物[D体およびL体]が必要でした。我々は発光する分子のねじれ角をコントロールすることにより、左回転CPL・右回転CPLを発生させることに成功しています。

光で分子を動かす

葡萄やワインなどに多く含まれる酒石酸の誘導体を不斉源に、発光性のピレン環を連結させた発光体の開発に成功しています。この発光体は、紫外光(UV)を照射しない状態では分子内のピレン環同士はキラルな配置をとっていませんが、紫外光を照射することで、分子構造がキラルな配置に変化し、CPLを発することを世界で初めて見つけました。これは次世代の暗号化手段(紫外光照射による不斉情報の取り出し)などに応用が可能であると考えられています。

鏡の国を行ったり来たり

発光性ピレン環を光学活性ペプチドユニットに複数連結させた、新しい光学活性ペプチド-ピレン発光体の開発に成功しています。この発光体は、溶液状態で強力なCPLを発し、興味深いことにピレン環同士の距離を延長することにより、CPLの回転方向が2度反転することを見出しました。

既存概念を打ち破る

一般的に希土類ユーロピウム(Eu)は、ハードな塩基である酸素や窒素にのみ配位すると考えられていました。我々はソフトな原子であるリン原子を有するキラルな有機化合物BINAPにEuを配位させることに成功し、EuからのCPLを発現させる配位子の選択肢を大幅に広げることに成功しています。

円偏光発光(CPL)によるモノづくりを目指して

CPLは生命を構築するL-アミノ酸やD-糖の選択性の要因の一つと言われています。そこで、このCPLを有用な化合物の合成に利用すれば、環境負荷が高い金属触媒、有機溶媒などを用いる有機合成的手法を回避し、有用な光学活性化合物を選択的に得ることが可能と考えられます。現在、研究室学生とともにこのCPLを用いる化合物の合成(絶対不斉合成)を目指しています。

メッセージ

化学の基本は実験です。実験が当初の計画通り進み、予想通りの成果が出た時の喜びはもちろんのこと、それのみならず、当初の計画通りに実験は進まなかったけれど、そこにまったく予想だにしなかった結果が出た時の喜びというものも、皆さんには味わっていただきたいと思います。ただし、どちらの喜びも体を動かして実験することと、しっかり観察することが重要です。
「科学を大いに楽しみましょう!!」

用語説明
*1 キラリティーとは
右手と左手の関係ように、ある構造とその鏡像の関係にある構造が回転操作によって互いに重ね合わせることができない構造として存在すること。
*2 円偏光発光(CPL)とは
偏光とは電場および磁場が特定の方向にしか振動していない発光で、円偏光発光は、電場および磁場の振動が伝播に伴って円を描く発光。回転方向の違いにより、右円偏光発光と左円偏光発光がある。
*3 光学活性とは
物質の光学係数(屈折率や光吸収係数)が、左右の円偏光に対して異なる現象。屈折率の違いは旋光性、光吸収係数の差は円偏光二色性(CD)として観測される。旋光性を示す物質を光学活性体という。

応用化学科 准教授
今井喜胤

所属 学科 / 応用化学科専攻 / 物質系工学専攻
研究室 有機構造化学研究室
略歴
1995年 大阪大学工学部応用化学科卒業
2000年 大阪大学大学院工学研究科分子化学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
2000年 JST博士研究員
2004年 近畿大学理工学部応用化学科助手
2007年 同助教
2009年 同講師
2015年 同准教授
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