学部長あいさつ

「近畿大学農学部の目指すもの = SDGs (持続可能な開発目標)」

 同じ水域でイケス養殖を長年続けると、水質や底質が悪化し、養殖を続けるのが困難になります。これを自家汚染といいます。自家汚染の負のスパイラルに入ってしまうと、水域の富栄養化、底層の貧酸素化、養殖場水域での赤潮の発生などが連鎖反応的に発生します。これは同じ野菜を同じ圃場で作り続けると起こる連作障害と似た側面を持ちます。では、健全な状態で養殖を続けるため、海洋資源を持続的に利用するためには、どうすればよいのでしょうか。連作障害が起こらないように持続的に陸上資源を利用するためにはどのような工夫が必要でしょうか。近畿大学農学部は1958年4月の創設当初から常にこの天然資源の持続的利用について考え、改善策を実践し続けてきました。国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)が採択される以前から、近畿大学農学部では持続的な開発目標を常に設定して教育・研究に取り組んできたのです。少し恰好をつけた言い方をさせて頂くと、時代がようやく近畿大学農学部に追い付いてきたのです。

 近畿大学農学部を表すキーワードは、食料・環境・生命・健康・エネルギーです。2015年9月の国連サミットで採択された17のSDGsは、それぞれ貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、水・衛生、エネルギー、経済成長と雇用、インフラ・産業化・イノベーション、不平等、持続可能な都市、持続可能な生産と消費、気候変動、海洋資源、陸上資源、平和、実施手段といったキーワードで表されています。近畿大学農学部のキーワードとSDGsのキーワードを合わせて考えると近畿大学農学部がいかにSDGsに応える学部なのかがわかります。

 その具体例を挙げてみます。「持続可能な環境保全型完全養殖システムの構築」と「動植物融合型の食料・エネルギー生産システムの開発」は目標2(飢餓)・目標12(持続可能な生産と消費)・目標14(海洋資源)に対応しています。「ユーグレナによるバイオ燃料生産技術の開発」は目標7(エネルギー)・目標13(気候変動)・目標15(陸上資源)、「植物-微生物間相互作用を利用した農業生産の向上」や「森林資源および農業基盤の環境整備などに関わる地域連携を通じた調査・研究」は目標4(教育)・目標15(陸上資源)・目標17(実施手段)に、「動脈硬化・大動脈瘤をはじめとした血管疾患の予防・治療法の確立」、「医食農連携を基盤とした慢性腎臓病(CKD)の新たな食事・栄養療法の開発とその実践」、「食因子とヒトとのリスク/ベネフィット-インターラクション」、「未知なる海洋微生物を資源とした創薬シーズの探索」、「多重生態相互作用にもとづく昆虫制御物質の誕生と活性発現」などは目標3(保健)・目標14(海洋資源)・目標15(陸上資源)・目標17(実施手段)、「農業・アグリビジネス部門における産学官連携の推進方策に関する研究とその実践」、「農福連携の推進」などは目標1(貧困)・目標2(飢餓)・目標16(平和)・目標17(実施手段)にそれぞれ対応しています。

 「近畿大学農学部の目指すもの=SDGs」ですから、農学部がカバーする学問分野は非常に多岐にわたります。様々な分野で農学部の学生諸君と教員が熱心に研究活動を行っています。ただ、個々の教育・研究活動はそれぞれの専門分野でそれなりに高く評価されていますが、農学部内で各専門分野間の連携が十分に行われいない場合もあります。SDGsの達成には分野を横断した連携する力が重要になります。縦方向にシッカリと確立されている農学分野の教育・研究の柱を横方向から連携させる機能を担うのが、農学部に併設されている近畿大学アグリ技術革新研究所です。アグリ技術革新研究所は、農学における分野横断的な教育・研究情報の集約と連携を可能にする研究・教育のプラットフォームになっています。

 近畿大学農学部は誕生してから60有余年にわたり、食料・環境・生命・健康・エネルギーというキーワードで持続的な開発を続けてきました。近畿大学農学部は2030年に国連のSDGsが終了しても、農学分野における持続的改善を続け、さらに進化を続けます。近畿大学農学部の持続的な開発目標に終わりはありません。宇宙船地球号を救うのは農学の力です。

江口 充 農学部長
江口 充
農学部長