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最先端研究

近畿大学理工学部のトップランナー いま注目の最先端研究

結び目の数学
~身近な対象から未解明の科学的命題まで~
近畿大学理工学部 理学科 講師
鄭仁大

結び目は身近な存在

3dプリンタで作成した(2,5)-型トーラス結び目

「結び目」は私たちの日常生活に始まり、科学的命題を究明するに至るまで、様々な場面で現れます。たとえば、家を出る前にネクタイを締めたり靴ひもを結ぶとき、多くの人が結び目と対面しています。釣りをはじめとしたアウトドアにも結び目は不可欠ですし、船の速さを表す「ノット」も結び目(knot)のことを指します。結婚式などで使うお祝儀袋にも結び目(あわび結び)が飾られています。街を歩いてみると、目に入ってくるロゴマークに結び目を用いたものもあるので、個人的には街中の結び目を探しながら歩いてみると、なかなか楽しいものです。ちなみに日本数学会のロゴマークも「(2,5)型トーラス結び目」という結び目になっています。

結び目を数学的対象として

結び目を数学の対象として初めて研究したのは18~19世紀の大数学者ガウスであると言われています。そこからの結び目に対する研究はあまり進んできませんでしたが、ポアンカレ等の活躍による位相幾何学(トポロジー)の確立、特に「ポアンカレ予想」の研究により多くの数学者が結び目に注目し、現在でも世界中で盛んに研究されています。
結び目理論の基本問題は、勝手に与えられた2つの結び目が同じものかどうかを判定することです。片方の結び目を空間の中であやとりの要領で変形して、他方の結び目に変形することができるとき、2つの結び目は同じものであるといいます。このとき、結び目は伸縮自在であるが決して切れることのない素材でできているとみなして問題を考えます。勝手に与えられた結び目が同じものなら、ひもの変形を頑張ればよいのですが、そうでない場合は「変形できないことを証明」する必要があります。多くの場合はここで数学を使うことになります。具体的には、同じ結び目なら同じ値を取る量(結び目不変量)を用いますが、結び目不変量の構成に幾何、代数、解析、統計などの数学が用いられます。
日本は結び目理論の研究者が多く、世界的にもトレンドを牽引する研究拠点の1つとして知られています。最近では、DNAの位相的な構造を変化させる酵素(トポイソメラーゼ)の作用の研究に結び目理論が有用であることや、ゲームアプリ(領域選択ゲーム)の開発が行われるなど、数学の範疇を超えての研究も進んでいます。

結び目を使った3次元空間の構成・デーン手術

結び目理論の基本問題は、2つの結び目が同じものかどうかの判定でしたが、結び目はその他に数学(特に位相幾何学)の問題を考える上で重要な役割を担うことがあります。その1つがデーン手術です。デーン手術とは、結び目に沿って空間を“切り貼り”することで、新しい3次元空間を生み出す手法です。手術する際の「切り方」に対応する結び目のデータと「貼り方(手術なので例えは「縫い方」の方がしっくりくるかも知れません)」に対応する有理数を決めることで、新しい空間を生み出す手法を考え出したドイツの数学者マックス・デーンにちなんで、デーン手術と呼ばれているのです。
(向きづけ可能な閉)3次元空間(たて・よこ・高さがある空間)は、全てがデーン手術によって得られることが1960年代にリコリッシュとウォレスによって独立に証明されました。3次元空間の最も身近な例は、私たちの住んでいるこの宇宙です。よって、私たちの住んでいる宇宙にある結び目たちに沿ってデーン手術を行えば、実在し得る全ての宇宙を構成することができると考えることができます。つまり、存在し得る宇宙空間全体を見渡すという視点に立ったとき、各宇宙空間のあいだには結び目のデーン手術という橋が掛かっていて、私たちはその中のある1点の宇宙に住んでいるのだと言えます。
そこで次のような素朴な疑問が思いつきます。
互いに異なる結び目で、同じ3次元空間を生むようなデーン手術はあるか?
つまり、宇宙Aと宇宙Bのあいだに、いくつも異なる橋がかかっていることはあるのか?ということです。
私の最近の研究では、安部哲哉氏(大阪市立大学数学研究所特任准教授)、John Luecke氏(テキサス大学教授)、John Osoinach氏(ダラス大学教授)と共に、同じ3次元空間を生む無限個の相異なる結び目に沿ったデーン手術の例を構成することができました(正確には「切り方・縫い方」に対応する整数を勝手に与えたとき、互いに異なる無限個の結び目でそれらに沿ってデーン手術した結果が同じ3次元空間になるようなものの例と、その構成のメカニズムを解明したということです)。つまり、ある宇宙Aとある宇宙Bの間には無限個の異なる橋がかかっていることがわかりました。
個人的には宇宙全体の形に対する理解が一歩進んだと感じ、同時に「カービーの未解決予想集」の中の1つを完全に解決できたこともあり、大変嬉しく思えた結果でした。

結び目の研究の風景

結び目の研究を行う際、代数や幾何のテクニックを駆使してガリガリ計算するということもありますが、私個人の最近の研究は多くの場合「お絵描き」が大きなウェイトを占めています。個人的には「おとなのお絵描き遊び」だと思って取り組んでいます。実際のノートを見返しても、半分以上がお絵描きになっていますし、論文でも絵を描くことが重要になってきます。このあたりは、多くの人が思っている「数学」のイメージとは懸け離れたものになっているのではないかと思います。しかしながら実際にはスラスラとお絵描きが進む場合もありますが、たいていの場合は「あれ?どこかで絵を間違えたかな…」とか「分からないなぁ…」と唸っていることの方が多い気がします。もっとも、スラスラと進むことが少ないのはまだまだ修行が足りないことも要因だと思うので、これからも修行を続けていく必要があると感じています。
もちろん、全ての結び目理論の研究者が「お絵描き」ばかりをしているわけではなく、ほとんど絵を描かない人もたくさんいます。
現代の数学は目に見えないものを研究対象としていますが、結び目の研究は3次元空間の中のひもが対象なので、目に見えるものが研究対象です。考え方や立場によって異なりますが、私個人はこの「目に見える」というのが結び目の1つの魅力だと感じています。特に、デーン手術の研究をしていると見えなかったものが「見えた」と思える瞬間があります。その瞬間はとても幸せな気分になり、それこそが私にとっての研究の醍醐味であると言えます。

メッセージ

大学生の頃に講義で位相幾何学の初歩を習ったときに、ものすごく面白いと感じたことを今も鮮明に覚えています。そのときに面白いと感じたのは、きれいな公式や深い定理に対してではなく、「長さや角度を無視した幾何学」というこれまでの幾何学の「固定観念をぶっ壊した」新しい考え方に対してでした。もちろん伝統的な考え方や視点も大切ですが、固定観念にとらわれずに柔軟に考えるとで、これまで見えなかった物事のより深い本質が見えることもあるんだなぁと感じました。その頃からは、数学に限らず何事もなかなかうまくいかないときや進まないときには、「固定観念にとらわれずに考えよう」と思って、一度根底から考え直してみることが、思いもよらない発展に繋がる可能性があると信じています。

用語説明
位相幾何学とは
トポロジー、やわらかい幾何学と呼ばれる。連続変形で保たれる図形の性質を研究する分野。
ポアンカレ予想とは
「単連結な閉3次元多様体は3次元球面に同相である」という予想。現在までの位相幾何学の発展の中心を成してきた問題であった。約100年の未解決期間を経て、2002, 2003年にプレプリントサーバarXivに投稿されたペレルマンによる3本の論文によって解決された。この予想はクレイ数学研究所による未解決ミレニアム問題7つのうちの1つであり、懸賞金100万ドルがかかっていた。ペレルマンはこの業績が認められ2006年にフィールズ賞にも輝くが、懸賞金・フィールズ賞いずれも辞退し、当時話題となった。
カービーの未解決問題集とは
結び目理論・3,4次元位相幾何学の重要な未解決問題をカービー(カリフォルニア大学バークレー校教授)が編集したもの。全379ページから成り、世界中の結び目理論・3,4次元位相幾何学の研究者たちが参照する文献。

理学科 講師
鄭仁大

所属 学科 / 理学科 数学コース
研究室 結び目理論研究室
略歴    
2005年 立命館大学 理工学部 数理科学科 卒業
2007年 大阪市立大学大学院 理学研究科 前期博士課程 数物系専攻 修了 修士(理学)
2010年 大阪市立大学大学院 理学研究科 後期博士課程 数物系専攻 修了 博士(理学)
2010年 大阪市立大学 数学研究所 専任研究所員
2011年 大阪府立大学 高等教育推進機構 教育拠点形成教員
2013年 近畿大学 理工学部 理学科数学コース 助教
2016年 近畿大学 理工学部 理学科数学コース 講師
受賞
2006年 大阪市立大学学友会 優秀成績賞
2010年 大阪市立大学数学研究会 論文賞
2014年 大阪市立大学数学研究会 特別賞
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