SCROLL

(C)KINDAI UNIVERSITY All Rights Reserved.

近大ナイトクルージング

御手洗麻希(仮名)。22歳。高校生の時にパニック障害を発症。進学を諦め、高校卒業後は歯科医院にアルバイト勤務している。同僚の前向きな姿勢に刺激を受け、大卒資格取得のため通信制大学への入学を決めた。

平穏を取り戻すため時間その先のチャレンジのために

パニック障害が私の心を襲ったのは、高校卒業を控えた春のことだった。初めての発作は、まるで暗闇から抜け出せないようなもので、それが連鎖的に私の心を縛り付けた。公共の場での恐怖--胸がドキドキして、呼吸が苦しくなり、全身が緊張して冷汗をかき、気が遠くなり、このまま死んでしまうかもしれないと思うほどの強い不安に襲われた--電車やバスに乗ることへの抵抗が、私を深い孤独感に閉じ込めた。
進学への夢が儚く散っていった。友人や家族の助けもあったが、その暗い影は中々晴れることがなかった。

しかし、私は大きな障壁に立ち向かいながらも、その過程で新たなステージに足を踏み入れることを決めた。高校卒業後、私は歯科医院でアルバイトを始めた。歯科医院での仕事は、初めの一歩を踏み出すには最適な場所だった。患者たちとのコミュニケーションによって、公共の場で感じていた不安が和らいでいき、少しずつ自分を取り戻していった。歯科医院が心地よい場所となりつつあった。

昼下がり、歯科医院の待合室に広がる穏やかな光。その中で、私は自身の役割を全うしていた。高校卒業から数年が経ち、22歳になった私は、日々を穏やかに生きていた。

そんな矢先、同僚であり、最良の友人でもある結菜が、海外留学のために歯科医院を辞めると聞き驚いた。しかも本人からではなく、人づてに聞いたのである。思わず本人に詰め寄るとあっさりと認め、先にうわさとして私の耳に入ってしまったことを謝られた。「落ち着いてから、ちゃんと言おうと思っていたんだけどさ」と結菜は言う。

どうやら数年前から友人の手伝いで翻訳の仕事を始め、海外文学に興味を持ったらしい。家族に相談したところ1年間という期限付きではあったが留学に協力してくれることになったそうだ。結菜が本好きなのは知っていたが、そこまでの情熱があるとは思わなかったし、何より大胆な行動力に心の底から驚かされた。長年一緒に勤め続けてきた友人がいなくなるのはとても寂しかったが、「向こうでイケメンに出会ったら教えてよね」と軽口を叩いて明るく見送ることにした。
結菜の目は新しいスタートに向け輝いていた。その姿を見て、一度はあきらめた進学への憧れが再燃した。進学への夢を再び追い求めることを決意したのである。

いざ、単位取得に向けての忙しい日々がはじまった。郵送されてきたテキストを読み込みつつ、レポート作成やwebで試験を受ける。何せきちんと勉強するのは数年ぶりで、テキストを読む以外にも自己学習をしなければ理解が追いつかないことが多々ある。
そんなときは、キャンパスへと足を運ぶ。近畿大学には、中央図書館やアカデミックシアターなど、学習を支援してくれる場所がたくさんあるからだ。

何度も通っていると授業を通して顔見知りの友人ができ、会えば挨拶を交わすようになった。交友関係も広がりキャンパスライフは充実しているのだが、ひとつ問題がある。それはとにかくキャンパスが広すぎることだ。

頬をなでる風が火照りを隠してくれた気がした

近畿大学東大阪キャンパスは、敷地面積47万平米(甲子園球場12個分らしい)と、とんでもなく広く、そこに学習設備や学部ごとの棟、食堂、グラウンドなどが点在している。私などは、まだ通い始めて日が浅く、案内図を見ながらの移動になるのでとにかく時間がかかるのだ。

「大学に行くには楽しいけど、体力がいるな…」そう思っていたとき、友人になった女子学生が「電動キックボードのシェアリングサービス」があると教えてくれた。
誰でも利用できるということで私はさっそく電動キックボードのポートへと向かった。
結果、キックボード移動を取り入れて大正解だった。
圧倒的に行動範囲が広がる。図書館からカフェと縦横無尽で、何より走ったときの風が心地いい。

「お疲れ様です」

ある日の夕方、いつものように構内でキックボードを走らせていると、同じくキックボードに乗った男性が並走しながら挨拶をしてきた。年は夫よりも少し上くらいだろうか。身なりから推測するに、おそらくこの大学の教授だろう。

「あ︙えっと、お疲れ様です…?」

おずおず返事を返すと、彼は私のことを大学職員と勘違いしていたようで、申し訳なさそうに謝ってきた。なんだかその姿に教授らしからぬ愛らしさを感じて親近感が湧いた。目的地が同じ方面だったので一緒に向かうことになり、他愛ない雑談をしながらキックボードで構内を走った。

後から、そういえば名前も学部も聞いてなかったことに気づく。でも、キックボードで移動していればまたどこかで会えるかもしれない。
大学での思わぬ出来事になんだか心が浮き立ち、今日はいつも以上に風が心地よく感じた。

今回のハイクラススポット

March 2024
no.06

LUUP

日本で初の試み
有償シェアリングサービス

LUUP

近畿大学が株式会社Luupと共同し、実施したシェアリングサービス。電動キックボードを学生・教員でシェアをする形式で、広大な大学構内を「仮想の都市空間」に見立てて安全かつ効率的に移動していく。料金は1分10円で、専用のアプリにてキャッシュレス決済を行う。構内のポートならどこでも返却できる。

※実際の施設運営とは異なる場合があります。現在の施設運営については以下「詳細はこちら」をご確認ください。

詳細はこちら
一覧に戻る