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大人は「先人」を賢く使う

小野裕子(仮名)。54歳。新卒で入社した会社で長年事務職として働いていたが、これからの自身のキャリアを見直したいと思い、近畿大学通信教育部図書館司書コースに入学した。同じ年の夫と20歳の息子がいる。

人生のギアチェンジはいつも突然に

「このまま働き続けた先にはどんな景色が待っているのだろう」
関東私大を卒業後、新卒で入った会社。配属されてからは3つほど部署異動を経験したが、職場環境も人間関係も悪くないし、目立った不満はない。しかし、このままずっと同じ仕事をするのかと思うと、漠然とした不安が湧いてくる。「ああ、自分の人生ってこんな感じなのだな」と、良くも悪くも見通しがついてきたからかもしれない。
そんな諦観にも近い思いを夫に漏らすと、夫は驚いてこう言った。
「どうして?今からでも遅くないよ。子どもの頃に憧れていた仕事って、何かない?」

子どもの頃に夢見た仕事と言えば、図書館で働くことだった。静かで、本好きが集まる場所で働けるなんていいなぁと淡い憧れを抱いていた。結局、大学当時の私はなかなか将来を一つに絞ることができなくて、周りと同じように就活をしたのだが。
「まずはこのまま働きながら、資格の勉強してみるのはどう?達也も高校生になってしっかりしてきたし、僕も精一杯協力するし」
数年前、私が夫の転職をサポートしたことも影響しているのだろう。夫も私に好きな仕事をしてほしいと望んでいるようだ。
一度しかない人生だ。第二の青春だと思って、今からでも憧れの仕事につくために頑張ったっていいのかもしれない。

手掛かりを求め「知」が集積する場所へ

次の休日から、早速資格取得に向けての行動をはじめた。大阪府下でスクーリングや、通える範囲で使える施設があるところを調べ、近畿大学通信教育部図書館司書コースに入学する運びとなった。
テキストが到着すると、久しぶりに学生に戻ったようで胸が高鳴った。昔から勉強は嫌いではなかったので課題やレポートは苦ではないが、なかなか理解が追い付かなかったり、もっと詳しく知りたい部分がどんどんと出てくる。

そんな時、大学内にある中央図書館の存在を知った。10階建ての建物に保有されている図書の数はなんと50万冊に及ぶという。私はもともと筋金入りの本の虫で、若いころから悩んだときはよく近所の図書館や書店に足を運んだものだ。本には先人たちの知恵が詰まっている。何かそこに今後の学びのヒントがあるはずだと思い、有給を使って平日に足を運ぶことにした。

メインカウンターがある1階に足を踏み入れる。お洒落な書棚にセンス良く本が並んでいて、まるで近年流行りのブックカフェのようだと思った。近所の図書館とは趣が違う。各階にはブラウジングスペースがあり、本を傍らに熱心に勉強する学生らが垣間見られる。やっぱり図書館という空間は素敵だな、と司書になりたいという気持ちが一層高まる。
3階から9階までの閲覧室は分類ごとに階が分かれている。上階に向かって端から端まで練り歩きたい衝動を覚えたけれど、我慢する。今日はさすがにその時間はない。
レファレンスデスクの職員に声をかけて、資料の探し方やデータベースの使い方などを一通り教わる。目的の本がある書棚は10階のようなので、早速向かうことにした。

10階の文庫・新書コーナーは、1階同様モダンな雰囲気が漂う。一人用のゆったりとしたデスク付きソファがいくつもあり、大学とは思えない優雅な空間にうっとりしてしまう。窓からは眼下に広がる街の景色を一望することができ、なんとも贅沢な気持ちになる。

棚に並ぶ本を眺めていると、さまざまな本に手が伸び、思わぬ発見があった。デジタル化が進み、欲しいものだけがダイレクトに手に入る世の中だけれど、これぞ図書館の魅力だと私は改めて実感する。

大人は「先人」を賢く使う

「その本、私も読みました」

書架の間を散策していると、スーツ姿の上品な男性に声をかけられた。年の頃は60代前半。どうやらここの教授らしい。私がこの本を借りようと思った経緯を話すと、それならばこれも、素早く本棚に目を走らせ一冊の本を手渡してくれた。彼のおすすめなのだそうだ。「本当に、先人たちからは学ぶことが多いですね」と、彼はにこやかに去っていった。本を通したこんな出会いも粋で良い。

私はその勧められた本をその場で読むことにした。知らない作者だったけれどとても面白く、読み終える頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。

何度か中央図書館へ通ううちに、本の位置関係も頭に入り、スムーズに調べものができるようになった。あるとき、スーツ姿の私を教授と勘違いした学生から本の場所を聞かれたので、懇切丁寧に教え、先日の教授に倣っておすすめの本を紹介しておいた。

図書館は22時まで開館している時もあるので、たまに平日の仕事終わりにも通うようになった。夫は私の熱量に驚いているが、「好きなだけ勉強しな」と寛容だ。息子からは「浮気するよりいいんじゃない」と言われ、思わず苦笑いする。ついこの間まで小さい子どもだと思っていたのに、随分大人びた口を利くようになったものだ。
図書館は一般向けにも公開されている。今度の休みは、息子を誘って行ってみようか。

今回のハイクラススポット

March 2024
no.01

中央図書館

近畿大学の「知」の中枢として
教育・学習を支援する

中央図書館

膨大な図書や雑誌、データベースを保有し、学生の教育、教員の研究を支援している。関係者はもちろん、一般向けにも公開しており年間の入館者数は約35万人にも上る。2022年には大阪キャンパス大規模整備計画「超近大プロジェクト」の一環としてリニューアルされた。

※実際の施設運営とは異なる場合があります。現在の施設運営については以下「詳細はこちら」をご確認ください。

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