スペシャル対談#3

近畿大学通信教育部の卒業ゼミナールin屋久島にて、屋久島おおぞら高等学校 茂木 健一郎校長をお招きし、特別企画のスペシャル対談を行いました。【全3回の最終回 / #1#2へ】

浪費の正体は脳にあり!

茂木:今日は世耕先生ととても良いお話をしてきましたが、さあ、このマスタークラスは君たちの質問があってこそ完成します。何か質問はありますか?
(何人か手を挙げる)
じゃあ、あなたからどうぞ。

質問者1:私は小学生の頃から「世界一受けたい授業」で茂木先生のことを知っていました。

茂木:アハ体験のやつね。

質問者1:はい、アハ体験がずっと好きなんです。
でも、最近悩みがあって…

茂木:ぜひ、話してみてください。

質問者1:私は、ストレスや辛いことがあると、お金をすごく使ってしまいます。

茂木:なぜお金を使ってしまうんですか?

近畿大学通信教育部の卒業ゼミナール in 屋久島 屋久島探検

質問者1:中学生の頃、ゲームがすごく好きだったんです。
ゲームセンターに通って、メダルゲームをしていました。
今は働いてお金が入るようになりましたが、その分を後のことを考えずに使ってしまうんです。

茂木:貯金や預金はしていないんですか?

質問者1:貯金もできませんし、親に渡さなければならないお金や学費の分もつい使ってしまうんです。お金の使い方について気持ちを切り替えられたら、そういうこともなくなると思うのですが、やっぱりお金を使ってしまうのが悩みです。

茂木:これは、まず私が脳科学的に答える前に、世耕先生に先輩としての意見を聞きたいです。どう思いますか?

世耕:時代が変わって、24時間営業のジムがすごく増えましたよね。月に数千円で通えるジムもたくさんあります。辛いことがあったら、すぐジムに行けるので、お金を使うなら筋肉を使うという感じですね。嫌なことよりもっと大変なことをやって、しかもお金を使うと戻ってきませんが、筋肉は使えばどんどん増えていきます。私は50歳を過ぎてから筋トレを始めたのですが、完全にストレス解消のためでした。「このままじゃ頭がおかしくなりそうだ」と思って始めたんですけど、良い感じですよ。おすすめは、重たいものをやることです。軽いものをたくさんやるのではなく、ギリギリ10回できるくらいの重さを使ってやるのがいいですね。

茂木:本当にすごいですね。いや、一緒に相撲を取った動画があるんですが、あれも面白かったですよ。

世耕:近大の相撲部で撮影しました。

茂木:動画も公開されていますが、すごい筋肉ですよね。それで、君は自分の脳の状態を正確に把握していると思います。ストレスが溜まった時にお金を使うことでそれを克服しているのは、脳の報酬系がドーパミンなどを出して、ストレスを解消しているということなんです。お金を使うことでストレスを洗い流していますが、世耕先生がおっしゃったように筋トレで洗い流すのも一つの方法です。私の場合は走ることでストレスを解消しています。大事なのは、他の方法でストレスを解消する回路を作っていくことです。

質問者1:やっぱ筋トレですかね。

茂木:筋トレやってたんですか?

質問者1:運動が好きで、すぐ筋肉がつくタイプなんです。だから、チョコザップに入ろうかなと考えていました。

茂木:チョコザップは月いくらくらいですか?

世耕:チョコザップは多分3,000円くらい。エニタイムフィットネスは7,000円くらいですね。

茂木:すごい。これ調べてますか?

世耕:調べています、ビジネスとして。世の中は本当に良くなりましたよね。昔はジムもこんなに遅くまで営業していなかったので、夜中に寝られなくてもジムに行けるのは嬉しいですね。

茂木:頑張ってください。

質問者1:ありがとうございます。

目標が見えない20歳に贈る、脳科学が示す道しるべ

質問者2:今年20歳になったんですが、小学校や中学校の頃に思っていた20歳って、しっかり考えて行動できる大人のイメージがあったんです。でも、実際に20歳になってみると、何も目標がない感じがして…

千年杉にて

茂木:いいこと言いますね、すごく分かりますよ。

質問者2:時間だけが過ぎていくようで、少し焦りを感じています。お二人は20歳の時、どうでしたか?

茂木:いい質問ですね。世耕先生、どうですか?

世耕:これは永遠のテーマですね。55歳になった時に、こんな幼稚なことを考えているとは思わなかったです。

茂木:55歳ってもっと立派な大人だと思っていましたよね。

世耕:会社の上司で、若い頃は55歳の人ってすごく偉い人だと思っていました。でも、自分がその年齢になってみると、全然そうじゃなくて。おそらく一生、自分の理想と現実がどんどん離れていって、永遠に追いつけないんじゃないかと感じます。そういうジレンマを感じるのは不思議ですよね。

茂木:AIがここまで賢くなった理由は、Next Token Predictionという仕組みで、例えばChatGPTに質問すると文章が出てくるけど、あれは次に来る単語を予測しているだけなんです。それを繰り返すことで文章が完成します。人生も同じように、次にやるべきアクションを考えていけば、意外とうまくいくんですよ。君は今20歳ですよね。次に何をやるつもりですか?

質問者2:次は英語を勉強したいです。

茂木:どこで勉強するつもりですか?

質問者2:日常生活の中で、家でやろうかなと思っています。真面目にやろうと思うんですが、サボり癖があるんです。

茂木:朝起きたら、次にやることを決めることが大事です。もっと大きなスケールで言うと、次に卒業したらどうするか?将来どうしたいか?を決めることです。
それをまず決めることに全力を尽くしましょう。最初の一歩だけでいいんです。そして行動に移せば、次にいろんな出会いや新しいことに触れ、それによってまた変わっていきます。とにかく、次に何をやるかを考えれば、人生は意外とうまくいくものです。世耕先生も次に何をやるか考えているはずです。

世耕:朝起きた時にまず次に何をやるか考えるようにしていますが、何も考えないとそのままベッドでネットやスマホを見てしまうタイプだと思います。

茂木:そうですね。だから、次に何をやりたいかを考えることが大事です。それで意外とうまくいきます。それがAIが成功している理由でもあるし。頑張ってください!

認知が広告の全て? 広告で成功するための秘訣

質問者3:世耕先生に質問があります。おすすめの筋肉ってどこですか?

世耕:おすすめの筋肉は、ここ、二頭筋ですね。

茂木:筋肉好きの間ではそういうのがあるんですね。

質問者3:2つ目の質問ですが、広告ではまず認知されることが重要だと思いますが、その認知はどのくらいの強度があるものなのでしょうか?

茂木:お、それは専門的な質問ですね。

世耕:いわゆる「第一想起」といいますが、例えば牛丼を食べたいなと思ったときに、最初にどこに行こうか考えるのが第一想起の段階です。多分、多くの人は「吉野家」と答えるでしょう。僕たちがいる大学の大半の学生は、偏差値が50くらいですが、それは学力の高さというよりも、人口の多い層にいるからです。だから、東大に行きたいと思っている人は東大に行ってくれればいいし、こちらに来なくてもいいと思っています。

茂木:脳科学者として少し補足したいのですが、偏差値について話があります。こういう分布があることには、実はあまり意味がないんです。
例えば、喉が渇いたらみんな水を飲みますよね。そういう基本的なことには偏差値のような分布はありません。「かっこいい男の子が好き」とか「かわいい女の子が好き」という感覚も、多くの人が同じように感じるものです。ですから、ペーパーテストの点数がこういう分布を示すこと自体には、生物学的には特に意味がないんです。
面白い話をすると、IQと年収の関係を調べた研究がありますが、実は非常に弱い相関しかありません。IQが高い人の方が少しお金を稼ぐ傾向はありますが、実際にはほとんど関係がありません。また、総資産、つまりどれだけ財産を持っているかとも全く関係がありません。つまり、世の中でお金を稼いでいる人には、IQや偏差値が低い人もたくさんいるということです。

そうなると、なぜそんな数字を気にするのか疑問に思いませんか?結局、それは大学入試などでフィルターをかけるために使われている指標に過ぎません。実際には、生物学的にはほとんど意味がないんです。それに、君たちが恋人を選ぶとき、偏差値で選びますか?打算的に考える人もいるかもしれませんが、ほとんどの場合、人柄やコミュニケーション能力が大切だと思います。だから、こうした分布があること自体、生物的にはあまり意味がないことが多いんです。これをちょっと覚えておいてください。

みんなとともに

吊り橋にて

お金があっても幸せになれない?

質問者4:お金の話ばかりになってしまいますが、正直言って、お金をたくさん持っていても幸せになれるとは限らないと思うんです。例えば、宝くじに当たった人が逆に不幸になったという話もありますし、私の感覚では、実際にお金があるとむしろ忙しくなって、嫌なことも増える気がします。だから、あまりお金を使わなくてもいいんじゃないかなと思います。お金があっても幸せになれないのは、何が原因なんだろうと思うんです。

茂木:世耕先生はどう思いますか?

世耕:そうですね、先ほどのIQと収入の話にもありましたが、収入が多いことと幸福度は全く関係ないと思います。

茂木:もし興味があったら、田内学さんの「お金の向こうに人がいる」っていう本を読んでみてください。例えば、このテーブルも誰かが作ってくれたものです。この水だって、誰かが運んできてくれたものです。だから、お金というのは、お互いに支え合うための一つの「ありがとう」なんじゃないでしょうか。
こういう言い方をすると分かりやすいかもしれませんが、このiPhoneも僕一人で作れるわけじゃありません。Appleが作ってくれているわけで、みんなも同じですよね。つまり、世の中の人々がさまざまなことをしてくれているから、自分も誰かの役に立ちたいと思うんです。それが立派な社会人ってことだと思います。

茂木:ありがとうございました。楽しかったですね。これ、ぜひ定例化したいくらいです。

司会:じゃあ最後に、改めてお二方に拍手をお願いします。

(一同)ぱちぱちぱち~(拍手)