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DNAメチル化パターンを用いたAIモデルが、原発不明がんの発生部位特定の可能性を示唆

2026.05.12

 2026年4月17日~22日にアメリカサンディエゴで開催された米国癌学会(AACR)年次総会2026にて、近畿大学医学部ゲノム生物学教室講師 Marco A. De Velasco(マルコ デベラスコ)が、CpGベースのDNAメチル化を解析するAIモデルが、原発不明がん患者の原発部位を予測できる可能性を示唆する研究について発表しました。

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AACR総会で発表する Marco A. De Velasco(マルコ デベラスコ)講師

原発不明がんは、体の中に転移していることはわかるのに、「最初にどこで発生したか(がんの起源)」がわからないがんのことです。原発部位が不明であるため、治療成績は一般的に不良であることが多く、患者は特定のがん種に対する治療ではなく、広範囲に作用する一般的な化学療法を受けることが多いのが現状です。
原発がん患者のうち、原発臓器に応じた治療(site-specific therapy)が可能な特徴を示す患者は15~20%程度とされており、80~85%の患者は、一般的な化学療法を受けていますが、効果が限定的である場合が多く、部位特異的治療を受けた患者は最大24か月の生存を示す一方で、標準治療では6~9か月程度と言われています。

これまで研究者たちは、分子プロファイリングによってがんの起源を特定し、治療選択を改善できるか検討してきました。これらの方法は、遺伝子発現(gene expression)
やDNA化学修飾(DNA chemical modification)など、がん種ごとに異なる腫瘍生物学的パターンを解析したもので、がんのタイプにより異なり、これらの特徴は転移後も保持されることがあります。これまでの方法ではいくつか有望な結果が示されていたものの、臨床試験において明確な生存利益は確認されていませんでした。

マルコ デベラスコらを中心とした研究チーム(近畿大学医学部ゲノム生物学教室、同内科学教室腫瘍内科部門)は、CpG DNAメチル化に着目した新しいアプローチを行いました。
CpGメチル化とは、DNA中のシトシン(C)の後にグアニン(G)が続くCpG配列において、シトシンに生じる化学修飾です。これは、がんの種類ごとに異なる「指紋やバーコード」のようなパターンを持っており、転移した後でもその特徴が残ることがあります。研究チームは、このメチル化パターンを解析することで、21種類のがんを識別可能な計算モデルを構築しました。

研究方法
モデル開発には、TCGA(The Cancer Genome Atlas)などの公開データベースから取得した、21種のがん種、約7,500症例DNAメチル化データを使用しています。
研究チームは、AIを用いて、腫瘍DNA中のCpGメチル化部位を特定し、がん種ごとのメチル化プロファイルを構築し、最適な分類モデルを作成しました。

研究結果
検証するためのテストコホートでは約95%の精度でがん種を判別し、自施設の検証コホート(17がん種・31症例)でも約87%の精度を維持することが判明しました。
特に、数10万箇所あるCpG領域の中から、わずか約1,000領域だけを選択して高精度予測を実現し、複雑な分子データを簡略化しながら、高い予測性能を維持できることを示ししました。

このモデルにより、原発腫瘍が判明しなくても、どこから発生したがんかを推定できる可能性を示しました。これにより、今後は「手探りでの治療」から抜け出し、患者さん一人ひとりの「がんの起源(原発巣)」にあわせた治療選択の可能性が示唆されています。

今後、実際の原発不明がん患者において本モデルを検証し、臨床現場でどの程度有効に機能するかを評価する必要性がありますが、進行がんの患者では、すべての腫瘍から遺伝子検査用の組織を容易に採取できるわけではない点が懸念されています。
本研究の今後の重要なステップは、組織サンプル由来DNAに依存するのではなく、血液を用いたリキッドバイオプシーへモデルを適応・評価し、解析する必要があると考えられます。
「最終的な目標は、医師が原発組織を推定し、より効果的な治療判断を支援できるツールを作ることです」と研究チームはコメントしています。

演題
"Leveraging CpG methylation signatures for robust multi-class cancer classification across platforms"
「DNAメチル化分類モデルを用いた原発不明がんの組織起源推定に関する検討」